自動運転をどう市民に伝えていくか ーSIP市民ダイアログレポートー


2月6日、戦略的イノベーション創造プログラム自動走行システム(SIP-adus)の主催する市民ダイアログ「自動運転の安心・安全について~一緒に考えよう 未来社会の安心・安全~」が東京都江東区有明のTFTホール 300にて開催された。用意された約100席は満席で、追加の補助席が用意されるほど。自動運転と安全、自動運転と法律の問題に対する関心度の高さがうかがえた。

Date:2019/2/7
Text & Photo:株式会社サイエンスデザイン 林愛子

 

2018年度第3回となるSIP市民ダイアログ

 

実用化には安全性の評価が重要

 2016年に始まったSIP-adusの市民ダイアログ。今回は内閣府と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主催する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転のある未来ショーケース〜あらゆる人に移動の自由を〜」のなかで開催された。

 テーマは「自動運転の安心・安全について~一緒に考えよう 未来社会の安心・安全~」。

 登壇者はSIP-adus推進委員会のプログラムディレクターである葛巻清吾氏、国土交通省自動車局技術政策課自動運転戦略室長の平澤崇裕氏、警察庁交通局交通企画課自動運転企画室長の杉俊弘氏に、法律の専門家である中京大学専門教授の中川由賀氏を加えた4名で、モデレータはSIP-adus構成員で当媒体の編集顧問の自動車ジャーナリスト清水和夫氏が務めた。

 イベント前半はシンポジウム形式で行われた。SIP-adus発足時からプロジェクトに携わってきた葛巻氏は5年間におよぶSIP-adus第1期を振り返りつつ、第2期の取り組みを紹介した。その一つが安全性の評価である。

SIP-adusプログラムディレクターの葛巻清吾氏

 「多くの自動運転車を世の中に出すには安全性の評価をしないといけない。SIPではセンサー関係のシミュレーションを仮想空間でできるようにしたいと考えている。自動車はいろいろなところを走る。そのすべてを実際に走行してテストできないので、シミュレーションでテストできることが重要だ」

 続いて、国交省の平澤氏、警察庁の杉氏がそれぞれの省庁における、自動運転と安全に関する取り組みについて講演を行った。また、中京大学の中川氏は交通事故における刑事責任と民事責任の違いについて解説した。

 パネルディスカッション「自動運転で交通社会はどこまで安全になるか」では清水氏によるモデレートのもと、登壇した4人が意見を交わした。

 

自動運転の機能を誰がいつどう説明するべきか

 後半の多くの時間は質疑応答に充てられた。

 一つ目の質問は免許制度に関すること。これについては警察庁の杉氏が回答している。

警察庁交通局交通企画課自動運転企画室長の杉俊弘氏

 「レベル4以上では運転席に人がいないので、この場合に運転免許をどうするかは難しい問題であり、これから検討していく。レベル3については運転する人が何らかの知識を持つ必要があると思っている。レベル2以下については、機能を知らずに乗ってもらっては困るが、すべてのドライバーに運転前の知識として知ってもらうのは限界がある。自動運転機能に対する一定程度の知識は必要だが、免許制度だけでは語れない部分もある。(そういった機能を持つクルマの)購入者には説明が必要だ。たとえばディーラーで販売する際の機能説明は今まで以上に大事になってくると思う。そのための支援も必要だろう。また、メーカーも分厚い取扱説明書を渡すだけではないやり方が必要かもしれない。免許制度だけでなく、トータルの考え方も必要」(杉氏)

 また、「従来のクルマとレベル3のクルマが混在するとき、どういった現象が起こるのか、それに対する議論は進んでいるか」という質問には、SIP葛巻氏が回答した。

 「どんな自動運転なのかによって変わる。たとえば専用道路では自動運転をやりやすい。高速道路の一部車線を専用道路とし、自動運転トラックの隊列走行を実現するという方法もあるだろう。ただし、生活に近い道路ではそれができない。現実には低速の車両で実現しようとしている。そうすると渋滞などの課題が出てくるので、実証実験をしながら現場で解決策を考えていく。地域の人たちがそういったことを理解し、それでも導入したいとなれば導入が進むだろうし、反対が多ければできない。そういう議論をしていくことになるだろう」(葛巻氏)

 そのほかにも「車検制度はどうなるか」「車載センサーが増えるが、大型バスなどの車幅制限は緩和されるか」「私有地でレベル4を使う場合の責任問題はどうなるか」など、さまざまな質問が出た。登壇者からはそれぞれの立場での見解が示されたが、多くの課題については「これからの議論」という段階。

 閉会挨拶で登壇したSIP-adusサブ・プログラムディレクターの有本建男氏が「こういう議論を東京だけでなく地域でも、ファミリー層も交えながら、どんどんやっていく必要がある」と指摘したように、市民による議論はまだ始まったばかり。自動運転の実用化に向けて、市民との対話の機会がより一層拡充することを期待したい。

会場は満席、注目度の高さが伺える

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