"つながる"価値の本質を探究 ‐ウェビナーレポート‐


アマネク・テレマティクスデザインの今井武氏と、日産自動車の三浦修ー郎氏を講師にお招きし、2月20日に開催したReVision Premium Club第2回ウェビナー『コネクテッドカーが創り出す新たな「移動のカタチ」と「ユーザー体験」とは』の模様をレポートする。

Date:2018/03/01

Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部

 

 

 ICT技術の進展を追い風に、注目度が高まっているのが「コネクテッドカー」だ。通信可能な車両全般をコネクテッドカーと呼ぶこともあるが、いまアツいのはどのようにつながるか、そこで何が出来るのか/何をしたいのか、いかにして新たな価値を創造できるのかというクリエイティブな議論である。
 自動車メーカーにとっては昨日今日の議論ではなく、以前から研究開発を進めている。その価値を最初に世に知らしめたのはホンダのインターナビではないだろうか。
 インターナビは2003年より会員を対象に実走行データをもとにしたルート案内を行っていたが、東日本大震災の発生翌日からその通行実績情報を公開。道路が寸断されたり、思いもよらぬところで渋滞が起きていたり、混乱する現地の道路状況を的確に伝えた。この活動は現地での移動を大いに助けただけでなく、コネクテッド(当時はそう呼んではいなかったが)の意義を示した事例としても評価されている。
 このインターナビの開発に携わってきたのが今回の講師の今井武氏だ。今井氏はホンダを退職した後、日本初のモビリティ向けデジタルラジオ放送局を運営するアマネク・テレマティクスデザインを創業し、ユーザーに新たな移動体験を提供すべく、日々デジタルラジオの可能性に挑戦している。
 もう一人の講師、日産の三浦修ー郎氏もテレマティクス分野の黎明期から当該分野に身を置く専門家だ。世界初の量産型EV「リーフ」に搭載されるEV専用ICTシステムは三浦氏が開発に携わったもので、バッテリーの状態管理や、充電・エアコンの遠隔操作、エネルギーマネージメント対応など、EVに必須のさまざまな情報サービスを提供する。
 実は、今回の対談は今井氏と三浦氏の長年の交流があったからこそ実現したもの。知り合うきっかけは三浦氏がテレマティクス分野の研究開発を進めるなかで、「こういったサービスは企業単体で完結するのではなく、メーカー各社がコネクトの名のもとに連携することが重要ではないか」との思いを強めていき、当時ホンダに在籍していた今井氏にコンタクトしたことだったという。
 ウェビナーではそんな二人がコネクテッドカーの未来を語り合った。

講師を務める今井氏(写真左)と三浦氏

 

レベル4の実現によって変わる公共交通

 ウェビナーは三浦氏の講演から始まった。

 「日産では技術革新の要素として、EV、自動運転、そして無人運転車両による配車サービス事業を掲げている。この発想に至った背景には都市に人口が集中する都市化、高齢化、環境資源の枯渇といった社会課題がある。一方で技術的には、センサーコストが下がり、スパコンの処理能力が格段に向上するといったことを想定。その結果、社会で起こることとして、スマートシティ、移動の効率化、モノからコトへといったキーワードが挙がってくる。自動車メーカーとしては、より良い生活、より良い働き方を実現するための効率的なモビリティを提供していきたい」

 一般に言われているように、クルマに対する価値観は大きく変化しつつある。かつてクルマは憧れの存在で、所有することにこそ意味があった。しかし、近年はクルマというモノの所有ではなく、移動というコトに対して価値を感じるユーザーが増えているとされる。今後、シェアリングサービスが増えるという見立ての根拠にもなっている。ただし、サービスは拡充するものの、車両販売が1億台規模であるのに対して、カーシェアに使われる車両は2024年でも世界規模で32万台程度だろうと、三浦氏は見ている。

 「状況は国、地域により異なる。東京やソウルのような都市では自家用車が減り、公共交通やタクシーが主流になるだろうし、郊外ではレンタカーや乗り捨て型のカーシェアが増えるのではないか。それらの将来規模は自動運転のレベルがどこまで進むかによっても変わる。特にタクシーはレベル4が出てくるか否かが大きい。既存タクシーは人件費の占める割合が大きく、無人走行できるレベル4によって変わる可能性が極めて高い。レベル4やレベル5の時代になれば、ロボットタクシーのような新型公共交通も増えてくるだろう」

 そのような変化があるなかで、自動車メーカーとしては何を目指すべきか。三浦氏が示したのはプラットフォーム(PF)化だ。

 「たとえば、データビジネスPFは当社だけでなく、他社でもすでに取り組んでいる領域。走行に直接影響を及ぼすオンボードPFはOEMとして確実に推進していく。エンタテインメントなどの各種サービスを提供する顧客中心PFはサービスの共用なども検討すべき。そして、MaaS(Mobility-as-a-Service)PFは新しいプレイヤーが入ってこられることが重要」

 これらの概念を包括的に表現するために、三浦氏が示した図はなんとトヨタ"e-Palette Concept"であった。これを「自動車メーカーとしてあるべきPFのひとつの姿」と評し、「近い将来こうしたサービスの基盤を世に示していけたら」と締めくくった。

 

感情に寄り添う放送で移動体験をより良いものに

 続いて、今井氏が「つながるクルマの未来 ~次世代のConnectedサービスとそのあり方~」と題した講演を行った。

 今井氏はクルマをこよなく愛する世代だけに、最近のクルマの所有価値の低下を憂えているという。この価値観の変化は車両保有の長期化や自動車販売台数の頭打ちといったカタチで表出する。また、現代のモビリティには高齢化への対応や災害時の移動の確保など、さまざまな課題が山積している。

 「産業としても変化している。かつてはOEMを頂点とするピラミッド構造だったが、IT企業が続々と参入し、破壊的なスピードで変化している。テスラが誕生したころ、自動車業界ではさして話題にもならなかったし、UBERに対しても『なぜアメリカで他人のクルマに乗ろうとするのか、わからない』といった論調が多かった。しかし、それら企業が台頭し、さらにはダイソンまでも自動車業界に参入するという。OEMからクルマを仕入れて新しいサービスを提供する、そんな時代になっているのかもしれない」

 そうしたなかでコネクテッド化が急速に進んでいる。既存産業はクルマを中心に考えたが、新規参入企業は視点が異なり、人の生活を中心に提供すべき価値やサービスを考える。そこにこそ新しい市場があり、今井氏は「車内での新サービス、移動時の位置を軸としたサービス、MaaSの規模拡大などに可能性がある」と説く。それがアマネク・テレマティクスデザイン創業につながった。

 「当社が提供するドライバー向けデジタル放送 「Amanekチャンネル」は、走行位置に応じて最適な情報が届く仕組み。今後はドライブシーンに合わせた、感情に寄り添ったサービスを充実させたい。たとえば、天気が良ければ『気持ちの良いお天気ですね』と呼びかけるようなイメージ。また、今後はMaaSによって、移動そのものが物語化していく。渋滞している道路では安全安心情報はもちろんのこと、移動するリスナーを惹きつけるような広告というのも考えられるだろう」

 高齢者に優しいモビリティを目指しているのも、同社ならではの取組みだ。今井氏はホンダ時代に高齢者施設と連携し、パーソナルモビリティを用いた実験を行っている。自由に移動できる喜びを得たことで、高齢者たちのQOL(Quality of life)は確実に向上したという。

 「お出かけ支援ラジオを提供したいと考えている。薬を飲む時間を伝える、寒い朝には温かい飲み物を勧める、耳の遠い方向けにゆっくりと語り掛けるなど、リスナーに寄り添うコンテンツを提供したい」

 また、すでに実証実験が終了している取組みとして、ラジオによる逆走事故対策がある。コネクテッドによって、高速道路で逆走している車両を検知できるので、検知した場合は周辺車両にその存在を伝えて、通行に注意するよう呼びかける。一方、逆走している車両にも逆走している事実を伝えて、安全に停車するよう呼びかけるというもの。こうしたサービスの実現に大切なことはデータの共有化である。

 「共通プラットフォームにデータを集約する。それをリアルタイムで加工し、メディアで配信していく。もちろん各社とも提供できないデータもあるが、安全安心につながる情報は共有すべき。災害時はもちろん有用だし、平時にもさまざまなサービスに役立てることができる。これから車載カメラが増えれば、取り扱えるデータは格段に増えるだろう。必要な情報伝達にこれからも取り組んでいきたい」

 

 それぞれの講演のあとは三浦氏と今井氏による対談が行われた。コネクテッドあるいはシェアリングによって、モビリティはどう進化していくのか、それぞれの見解は興味深い。また、リアルタイムで視聴した会員が「身近なところではどのようなサービスが広がるか」などのアンケートに答えたり、視聴中の会員から寄せられた質問にその場で答えたり、インタラクティブな環境を生かしてセッションは進み、1時間半のウェビナーが終了した。

 


講演および対談の模様は有料会員向けアーカイブで全編を視聴可能です。いまからお申込みいただいた方も、年間会員であれば過去のアーカイブも視聴可能です。この機会にぜひご検討ください。
お申し込みはこちらから。


 

2018年2月20日開催
ReVision Premium Club 第2回ウェビナー
登壇者プロフィール


三浦 修ー郎氏

日産自動車株式会社 アライアンスコネクテッドカー&モビリティサービス事業部サービスデリバリ&サポート管理部部長

1989年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、日産自動車に入社、情報システム部門でシステム開発を担当。1998年にテレマティックスサービス会社COMPASSLINK立ち上げに参画、携帯電話向け交通情報サービスの企画開発等新規事業を担当。2002年に日産自動車に帰任し、企画部門に所属し、テレマティックスサービス企画開発運用に。2010年より日産LeafのEV向けテレマティックスサービスおよび中国向けテレマティックスサービスの開発導入に携わる。2016年に日産開発部門、電子技術・システム開発本部、コネクテットカー&サービス部チーフサービスアーキテクト、 2017年にルノー・日産・三菱アライアンス、コネクテッドカー&モビリティサービス事業部、サービスデリバリ&サポート管理部部長に就任。1998年以降、一貫してテレマティックスサービス企画開発運要を担当する。

 

今井 武氏

株式会社アマネク・テレマティクスデザイン 代表取締役CEO、自動車技術会フェロー

1976年、ホンダ入社。デジタルメータや電子コンパスなどの情報装置やナビゲーションシステムの企画開発に従事。2002年にHondaテレマティクス「インターナビ」立ち上げる。車両から得られるプローブデータから、世界初の最適ルート誘導システムなどを実用化。そのデータから、道路側の急ブレーキや渋滞原因の分析と対策など、社会課題解決にも取り組んできた。東日本大震災発生時は、被災地支援上重要な情報である「通れた道マップ」を直ぐに作成し翌朝公開。その取り組みに「社会のデザイン」として、グッドデザイン大賞を受賞。2011年に自動車技術会フェローに認定。2012年グローバルテレマティクス部部長兼役員待遇参事に就任し、テレマティクスサービスのグローバル展開を担当し、2015年定年退職でHondaを卒業。退職後「安全・安心を軸に豊かなモビリティライフの創造」を目指した、デジタルラジオ放送局「株式会社アマネク・テレマティクスデザイン」創業し現在に至る。

 

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