2021年10月6日、7日に第1回ReVision次世代ビークルサミットが東京・ベルサール九段ホールで開催された。テーマは「次世代のクルマの進化と、それがもたらす新たな価値とは ― CASE技術進化とユーザーエクスペリエンス(UX)の視点から ―」。CASE技術とユーザーエクスペリエンス(UX)の両面から、これから必要な取組みや解決すべき課題などを考えていく。第1日目は「テクノロジー進化から次世代ビークルの姿を捉える」をテーマに、熱い議論が交わされた。
Date:2021/11/24
Text:サイエンスデザイン 林愛子
Section 1: これからのクルマのあり方と価値を見極める
最初の基調講演は国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏で、モビリティを取り巻く変化のスピード感に触れた。
「2016年のパリオートサロンで当時ダイムラーAGの会長だったディーター・ツェッチェ氏が『CASE』を提唱して5年が過ぎます。テクノロジーはどんどん進化するので、ポストCASEあるいはCASE2.0、CASE3.0のようにアップデートしていかなければならないと思っています」(清水氏)
パネルディスカッションでは清水氏をモデレータに、KINTOの本條聡氏、本田技術研究所の岩田和之氏、ソニーグループの川西泉氏と「次世代のクルマに求められる価値とは何か」について意見を交わした。
最初の話題は環境問題だ。岩田氏は貴重講演でホンダの環境に関する取り組みやトヨタグループであるKINTOとの協業案件に触れており、本條氏は「カーボンニュートラルのようなテーマに対しては手を取り合って、仲間を作っていくべき」と応じている。一方、プレゼンテーションでモビリティに触れた川西氏は「サブスクリプションが広がるなかで、そこに車が入ってくるのは自然の流れ。サービスも含めてやっていきたい」と述べた。清水氏は「これまでの、車を売って買って化石燃料を燃やすといったことを一気に変えていかなければならない」とし、自動車業界が大きな変革の過程にあることを改めて示した。
変革の波は車両そのものの開発・製造にも及んでいる。KINTOではソフトウエアの更新によりドライバーの癖に合わせたチューニングを可能にするとしているが、これは自動車産業の成長を支えてきた効率化や共有化・共通化の延長線上の技術ではなく、多様性への対応であり、カスタマイズの技術だ。このトレンドは今後も変わらないだろう。
一方、岩田氏は電気自動車(EV)を車ではなく、“動く電池”として捉えている。今後EVが普及すれば、蓄電した電力を系統に戻すことや、電池を発電量が不安定な再エネのバッファとして活用することもできるが、同時に新たな課題も生まれてくる。
「みんなが夜間充電に切り替えれば、深夜電力は高くなるかもしれません。また、ガソリン税は道路財源として使われてきましたが、EVになれば財源が不足します。EVはエンジンがモーターや電池に置き換わるだけではないので、電気代や税制を含めてマネタイズをセットで考えていかなければなりません」(岩田氏)
パネルディスカッションの終盤では視聴者からの質問に答えた。その一つが「5Gによってどういった機能が可能になるか」というもので、川西氏は「ストリーミング配信によるエンターテインメントも可能ですが、インフラや車車間通信などにこそ可能性があり、LTEではできないことを5Gで考えていきたい」と答えた。また、本條氏は5Gでさまざまな情報の送受信が可能になることから「お客様に寄り添ってサービスを提供したい」と述べている。
最後に清水氏は内閣府SIP-adusの第2期において「モビリティに関連するデータの検索やマッチングだけでなく、そのデータのサービスへの反映についても研究開発している」ことを紹介。清水氏が講演で語ったCASEの進化にデータ活用は欠かせないことから、SIP-adusの研究成果には大いに期待したいところだ。
パネルディスカッションに続いては、日本マイクロソフトの内田直之氏が、製造や組立、検査の過程で音声や画像を解析して不良を検知し、効率化を図る人工知能(AI)活用について数多くのビデオを使いながら解説した。内田氏が最後に提示した「スマートファクトリー」の未来像は、製造現場がクルマの進化への柔軟な対応が求められる中で注目したい。
Section 2: 安全で利便性の高いクルマづくりとその技術
日産自動車の村松寿郎氏は「これからのクルマに必要なテクノロジー」と題した講演を行い、主にコネクティビティに関連するサービスを紹介した。
たとえば、NissanConnectの「乗る前エアコン」は出発時に車内温度を調整するツールだが、快適性だけでなく、エネルギーマネジメントとも密接にかかわる。エアコンは初動に最も多くのエネルギーを消費する。乗る前に立ち上げれば、電源に接続したままで最も負荷の高い動作を行えるので、電池の充電量はそのままに、車両の航続距離を維持できるというわけだ。ほかにもGoogle連携によって多様な地図情報を得ることができたり、万が一のときに作動するSOSコールで乗員の安全や安心を高めることができたり、さまざまな機能が充実している。
EVの新モデル『ARIYA(アリア)』では既存のテクノロジーテクに加えて、ドアtoドアナビの進化版であるインテリジェントルートプランナーや、ボイスアシスタント/Amazon Alexa連携サービスなどが搭載される。
「インテリジェントルートプランナーがあれば、目的地を設定するだけで充電スポットを組み込んだルートの設定が可能です。また、ボイスアシスタントとしてAmazon Alexaを組み込んでおり、車内で音楽などを楽しめるだけでなく、クラウドを使って家側をコントロールできるようになりました。つまり、ホームtoビークルに加えてビークルtoホームが可能で、家の照明を操作できますし、将来亭には帰宅時にお風呂が沸いているといったこともできるでしょう」(松村氏)
車に紐づくサービスは自動車メーカー主導で開発されてきたが、松村氏は「もはやサービスを自分たちだけで開発する時代ではない」と指摘し、今後は外部と連携することでお客さまのデジタルライフとつながっていくサービスを提供したいと締めくくった。
また、KDDIの山﨑升一氏は「通信技術の進化がコネクティッドカーに与えるインパクト」と題した講演を行い、KDDIにおけるコネクティッドカーについての取り組みやOTA(Over-the-Air)を含むソフトウエアアップデートの動向について解説した。
KDDIでは2002年からテレマティクスサービスに乗り出し、2019年から“つながるクルマ”としてグローバル通信プラットフォームを提供している。当然、自動車業界の動向には注目しており、「テスラの場合はWi-Fiを使い週1回以上のペースでファームウエアの更新を行っていますが、これはスマートフォンと比較しても格段に多い」という。また、トヨタや日産ではソフトウエアのアップデートにセルラー通信を採用。Wi-Fiとセルラー通信はそれぞれに特徴があり、目的や場面に応じて使い分けるのが良いと山崎氏は考えている。
「ケータイとテレマティクスの進化は似ていると思います。データ通信が始まった20年前と比べてスマホが格段に進化しているのと同じように、テレマティクスも20年後の2040年に向けて変わっていくことでしょう」(山崎氏)
これ以外にも自動車業界の外から新しい視点を示す講演が続き、日本アイ・ビー・エムの坂本佳史氏は、「ソフトウェア・ディファインド・ビークルに求められる開発思想」として、CASEへ「プラスD(デジタル)」の必要性を強調。Humanising Autonomyの山本幸裕氏は、人間の骨格検知や行動心理学をモビリティの安全性と効率に活用するイギリス企業のアプローチを紹介した。
Section 3: 変化をリードするセンシング技術や新しい開発手法
通信技術の進展とOTA本格化によって懸念されるのはセキュリティの問題で、パナソニックの中野稔久氏はサイバー攻撃から守るためにコネクティッドカーを監視する「センター連携型車両セキュリティ監視ソリューションの取り組み」を紹介した。
「車へのサイバー攻撃が注目されるようになったきっかけは2010年のワシントン大学による実験。このときは領域の警鐘を鳴らす程度のものでしたが、5年後の2015年には車に一切触らずハッキングに成功し、140万台がリコール対象になりました。これを機にサイバー攻撃対策は必須だとして法制化の議論が起こり、2020年6月に国際基準が成立しました。法制度のポイントは2つ。1つはプロセス。開発の際に対策を施し、審査・承認を受けること。もう1つは技術。サイバー攻撃を受けたら検知し、あとでどういった攻撃だったかを分析できること。100%の安全対策はなく、いずれは破られるということを前提に、迅速な対処が求められているのです」(中野氏)
いずれにしても車だけ、あるいはデータセンターだけでサイバー攻撃を監視することは難しく、両者が連携してこそ効果を発揮する。安全のためにも異業種との連携や協業がますます重要になってくるだろう。
Velodyne Lidarの甲賀章二朗氏は、LiDARが価格やサイズなどで改善をみせ、先進運転支援システム(ADAS)と自動運転への安全性に大きく寄与していることを説明。Atlatec Japanの友安恭介氏と理経の田村貴紀氏は、こうしたADAS・自動運転の開発へ、最近特に比重が高まっているシュミレーション技術の詳細を紹介した。安全・安心のクルマ作りへ、多様な技術が同時に進化を遂げていることが肌で感じられる内容だった。
第1日目最後は「テクノロジー進化から次世代ビークルの姿をえがく」と題したパネルディスカッションで、日産の村松氏、KDDIの山﨑氏、Humanising Autonomyの山本氏、パナソニックの中野氏がパネラーとして登壇、モデレータはRevision Auto&Mobilityの友成匡秀氏が務めた。
パネラーはそれぞれ講演を行っていて、参加者・視聴者から多数の質問が寄せられていたため、パネルディスカッション前に質問に応える形式をとった。特に注目したのは、自動運転における安全性の確保だ。システムから人間へ運転の主導権を移そうと試みても、何かしらの要因で人間が運転できないことがあり、それでも安全に停車させられる「ミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)の仕組みは必須と考えられる。さらに、山本氏は「運転の主導権を人間に渡した瞬間に自動運転が全操作をやめてしまうことも問題です。人為的なミスは必ず起きますから、ハンズオーバーした後も障害物等を検知したら自動停止するといった仕組みが必要」と指摘した。
また、いよいよ普及が始まった5Gについて、村松氏は3つの期待を述べている。
「画像や映像などリッチなコンテンツの配信だけでなく、ビット当たりのコストが下がることを期待しています。また、技術的には送れるデータであってもコスト面で見合わないケースが想定されるので、単価が下がればよいなと。そして、エリアカバレッジ。通信業界が見ている人口あたりのカバレッジではなく、我々が期待するのはロードカバレッジ。たとえば、ロスとラスベガスの間の、人口が一人もいない砂漠地帯でもカバーできればいいなと思っています」(村松氏)
山崎氏は通信事業者の立場から「日本は自然災害が多く、3.11のような災害が起きると、どうしても通信網が切れてしまいますから、AMラジオのような遠方まで届く通信手段は欠かせないと思っています。すべての通信をセルラーにするのではなく、VICSやラジオなども活用すべき」だと述べた。
次々に登場する新しいテクノロジーに注目しつつ、これまで培ってきた技術や仕組みも活用することで、次世代ビークルはより良いモノになっていく。そんな希望が湧いてくるパネルディスカッションだった。
※第1回ReVision次世代ビークルサミットの第2日目の模様は後日公開する。
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