東京モーターショーと豊田社長の気概


少し前からモーターショーには逆風が吹いている。海外メーカーの不参加が相次ぎ、入場者数は減少傾向。今年はさらに状況が厳しいとの見方もあったが、ここ最近ではダントツに気合いが感じられるショーだった。その背景にあるのはショーを主催する自動車工業会会長の豊田章男トヨタ自動車社長のリーダーシップではないだろうか。

Date:2019/10/31
Text&Photo:サイエンスデザイン 林愛子

 

第46回東京モーターショー2019(2019年10月24日から11月4日)も残すところあとわずか。前回の入場者数77万1200人を超えるかどうかは注目されるところだが、前回までのデータとの単純比較にはあまり意味がないように思う。

今回はまず場が違う。2020年の東京オリンピック・パラリンピックのために東京ビッグサイトの一部が使用できないため、今年の会場は東京ビッグサイトのある有明エリアと、MEGA WEB会場のある青海エリアに分かれた。

今年の東京モーターショーは2つのエリアからなる (C)Satoru Nakaya

 

両エリアの間は新交通ゆりかもめで一駅、徒歩なら20分弱と、やや遠い。そこでその間にトヨタ自動車の燃料電池バス1台を含むシャトルバスを運行させ、電動キックボードなどの小型モビリティを試乗しながら移動できる「OPEN ROAD」という企画を展開した。混雑時にはシャトルバスも試乗も相当な待ち時間が発生し、希望しながら体験できなかった人も多かったようだが、多様な近距離モビリティの姿を例示するというショーの目的は達成できたと言っていい。

 

MaaSのカギとなるか、進化する小型モビリティ

試乗用の小型モビリティのなかでユニークだったのはトヨタの歩行領域EVだ。歩行領域EVには「座り乗りタイプ」「立ち乗りタイプ」「車いす連結タイプ」の3タイプがあり、用途に応じて使い分ける。最高速度10km/hの立ち乗りタイプは電動キックボードやセグウェイのような乗り物。また、座り乗りタイプは電動車いすやシニアカーのような乗り物で、車いす連結タイプは既存の車いすに装着できる仕様になっている。これら2タイプは最高速度6km/h。

数年前から全国各地でMaaS関連の実証実験が行われているが、そのほとんどは過疎化と高齢化が進む地方都市の交通の課題解決をテーマとしている。完全自動運転バスやAI等による公共交通運行管理システムなども課題解決につながるだろうが、移動は幹線道路だけで完結するわけではない。特に高齢者にとっては幹線道路と自宅の間のラストワンマイルが深刻な問題だ。そこに小型モビリティが活用できる可能性がある。小型モビリティ自体は以前から多種多様なコンセプトモデルが提案されてきたが、今までにない新製品は技術の進化に市場の要請がかみ合ってこそ世に出ていけるもの。そろそろ機が熟してきたのではないだろうか。

 

手前から、座り乗りタイプ、車いす連結タイプ、スタッフの後ろ側にあるのが立ち乗りタイプ。立ち乗りは2020年冬頃に、座り乗りと車いす連結は2021年に、それぞれ発売予定 (C)Satoru Nakaya

 

トヨタの歩行領域EVでユニークなのは3つのタイプでまったく異なるユーザー層をターゲットにしながら、ハンドルやモーター、交換式バッテリなどのコンポーネントを共有化することでコスト削減を図っている点だ。具体的な数字は明らかにしていないが、ユーザーにとって歩行領域EVはEVではなく、電動自転車やシニアカーに近い乗り物だ。売価はおそらくそれらと比較できる水準に設定されるだろう。

こうしたコンポーネントの共有化は自動車業界でも浸透しつつある。かつては自動車開発と言えば一から図面を引いたものだが、パーツ等の共通化は当たり前、プラットフォーム共有化の動きも加速している。フォルクスワーゲンの「MEB」、トヨタやダイハツなどによる「e-TNGA」は時代を象徴するものだといえそうだ。

今回の東京モーターショーでは日野自動車がワールドプレミアとしてモビリティプラットフォーム「FlatFormer」を発表。全長4700×全幅1700×全高335mmの大きな一枚板のようなプラットフォームは自動運転EVを想定しており、これの上にさまざまな車体を載せることで多様なモビリティニーズに応えていく。公共交通バスのような用途もあれば、動くコンビニや動く美容室、コンテナ式の集配サービス車両、また農業分野への応用なども考えられるという。

世界初公開のモビリティコンセプト「FlatFormer」 (出所:日野自動車)

 

来年売るクルマを置かないという大英断

実は今回、プレスカンファレンスが印象的だった企業の一つが日野自動車だった。『機動戦士ガンダム』などの名作を多数輩出してきたスタジオ「サンライズ」と協業し、プレスカンファレンスにもアニメーションを多用するという、良い意味で商用車らしくないコンテンツだった。

最初に登場するのは、未来の日野自動車社長「日野未・来太(ひのみ・らいた)」というキャラクター。そのあとに現社長である下義生氏が登場し、未来の社長と掛け合いをしながらプレゼンテーションを進めていく。アニメという手法や未来の社長が語るという構成は秀逸。かつて東京モーターショーが様々な意味でエンターテインメントの最先端を走っていた時代を髣髴するコンテンツだった。

そして、東京モーターショーのプレスカンファレンスで外せないのはやはりトヨタだろう。まずは40代の豊田章男社長をモチーフにした二頭身のキャラクターが登場し、「Vtuberのモリゾーこと豊田章男です」と明るく自己紹介をするところから始まる。そして、豊田社長本人が登場し、来年のオリパラで使用する「e-Palette」や自走式の充電システム「e-Chargeair」を紹介し、新しいモビリティの世界観をプレゼンテーションする。

これを見ていたモリゾーが「クルマは所有するものではなくなってしまうのか?」と問いかけ、それを受ける形でお披露目されたのが電動スポーツカー「e-RACER」。100年以上前に自動車が発明されたことで馬車が道路から消えたが、馬は愛馬として残った。豊田社長は「e-Paletteのような、みんなで共有するモビリティが馬車なら、e-RACERのような個人で所有するモビリティは愛馬」だと語った。

スポーツカーのコンセプトモデル「e-RACER」

 

「このブースには来年発売されるクルマは1つもありません」という豊田社長の言葉も鮮烈な印象を残した。モーターショーと言えば、各社のビジョンや最先端の技術を表現するコンセプトカーだけでなく、近日中に発売するモデルを紹介する場でもあったのだが、トヨタブースに並んでいたのは「e-Palette」などのモビリティと、未来社会を疑似体感できるさまざまな仕掛けだけ。ここまでの潔さはトヨタじゃなければできなかったかもしれない。

e-Paletteに遠隔診療の設備をのせたモビリティ。車内では医師による遠隔診断を疑似体験できる

トヨタブースでさまざまな体験をするとポイントをもらうことができ、このコンビニでポイント数に応じて景品と交換できる

 

モビリティの未来を創っていくために必要なこと

冒頭に触れたように、モーターショーは世界的に地盤沈下を起こしている。自国以外のモーターショーに対しては出展取り止めや規模縮小を選択する企業が増えており、今年9月のフランクフルトモーターショーにはトヨタも出展していない。今回の東京モーターショーではメルセデス・ベンツとルノーがブースを構えていたものの、内容も規模も往時とは比べ物にならないくらいコンパクトだった。

しかし、自工会の会長でもある豊田社長は開会前の記者会見で「入場者数100万人」を目指すことを宣言した。もし100万人を超えることができたら、リーマン・ショック前の2007年以来の快挙となる。この目標はもちろん昨日今日の思い付きではない。モーターショーの地盤沈下や会場の制約は以前から顕在化していた課題であり、自工会の会長として、自動車業界をけん引するトップ企業の社長として、頭を悩ませたことは想像に難くない。その結果、自ら旗振り役となって、今日明日のクルマを売るためのショーではなく、モビリティの未来を創造するショーにしていこうと呼びかけたのではないだろうか。

その姿勢はMEGA WEB会場の「FUTURE EXPO」という企画に表れているように思う。バーチャルキャラクターの出迎えに始まり、ラグビーワールドカップで使用したというセキュリティシステム、超高解像度の名画をタブレットで容易に扱えるアプリ、特殊な材料を使った剥がせるペイント絵の具、バスケットボールのシュートを正確に決めるロボットなど、ユニークなアイテムがずらりと並ぶ。なかには自動車とどう関係するのか、まだ明らかではない技術やアイデアもあったが、それが狙いなのだ。

 

FUTURE EXPO内に展示されていた救助用ドローン

FUTURE EXPO内にある人工知能AIエージェント「YUI(ユイ)」に関する体験型展示。初対面の相手とのシェアドライブを疑似体験することができる

 

ダイムラーがフランクフルトモーターショーで開催したイベント「me-convention」もそうだった。

自動車業界はいま100年に一度の大変革期にあり、これから私たちが体験するモビリティは誰も経験したことがないものだ。そのために必要な技術やアイデアが何かは誰もわからないし、誰がそれを創出するかもわからない。だからこそ、ありとあらゆる可能性がありそうなものを集めて人を招き、意見を交換して議論を重ね、それぞれにアイデアの種を持ち帰り、何かを育てて次につなげる。モーターショーはそんな創発の場になろうとしているのかもしれない。

一般公開は残りわずか。まだ行っていない人には会場に足を運んでみることをおすすめする。来場者数はKPIの一つだが、結果論に過ぎない。東京モーターショーは何を表現しようとしているのか、数字に表れない挑戦の数々は一見に値する。

 

MEGA WEB会場の2階は水素エネルギーや宇宙に関するコーナーで、2020年発売予定のFCVコンセプトモデル「MIRAI Concept」が展示されている。このモデルは初の一般公開。従来の考え方ならばトヨタブースに置かれたかもしれない

 

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