中古車売買のIDOMが描く「CaaS」の世界


中古車買取・販売の「ガリバー」ブランドで知られるIDOM。最近では、月額定額でクルマ乗り換え放題のサービス「NOREL」や、個人間の中古車売買サイト「ガリバーフリマ」など多くの新規事業を打ち出し、注目を集めている。同社が「CaaS(Car as a Service)」と呼ぶ、クルマを軸にしたさまざまなサービスにおいてプラットフォーム推進責任者を務める天野博之氏に話を聞いた。

Date:2018/05/25

Text & Photo:友成匡秀

提供:IDOM

 

―― 現在の市場の変化に対するお考えと、IDOMの目指すCaaSのビジョンを教えていただけますか。

天野氏: 5年後、10年後を考えたときに、このまま「何十万台の車を売買した」ということだけにフォーカスし続けるのは難しいのではないかと考えています。これは自動車メーカーさんも同じではないでしょうか。

 では、我々は新しいの価値をどこに置き換えていくかというと、利用も含めた、クルマとお客さんの関わりのなかでのサービス創出です。「何千台・何万台を売買する」ではなくて、「何十万・何百万のお客さんと接点を持つ」という意識です。そうしたお客さんと弊社の関係をできるだけ持続可能なものとして紡いでいくことを大切にしたいと考えます。

 昨今はクルマの所有の仕方や利用方法が多様化しており、我々はそれに対応したサービス群を「CaaS」と呼んでいます。この領域に成長の可能性を感じていることから、CaaSプラットフォームの構築を推進しています。そして、最終的には現在の我々の持つアセットや提供価値と、CaaSの中に含まれるサービス群を統合していきたいと考えています。

 

モビリティのマッチングニーズが増えていく

―― まずはお客さんとの接点を増やしていくということですね。IT企業の戦略に近いと感じます。

天野氏: 私がもともと、そうした業界にいたせいかもしれません。これまで自動車業界では、クルマの販売が収益の源泉でしたので、たとえば、車を売りたい人と買いたい人をうまく引き合わせる、といったマッチング的な発想はあまり存在しなかったと思います。

IDOM 経営戦略室 CaaSプラットフォーム推進 責任者 天野 博之氏

 MaaS(Mobility as a Service)を考えると、日本では法的な問題がありますが、乗せてあげようと思う人と乗りたい人をマッチングさせるライドシェアのようなサービスが海外では大きくなっています。ロジスティックスの発想からすると「車を提供するので荷物を運んでほしい」という人が存在するようになってもいいと思います。そういった車を主語にした、あるいは移動を主語にしたモビリティのマッチングニーズは、これからすごく増えていくのではと考えています。そこに我々が現場で売買している車やCaaSプラットフォームが活用できるはずです。

―― CaaSのプラットフォームを構築することで、業界にはどのような変革を起こしたいとお考えですか。

天野氏: マッチング的な構造を持ち込むことで、我々の会社だけではなく業界全体が変わると思います。決算資料を見てもらえば分かりますが、我々のビジネスでは、営業利益率は2%とか3%の世界です。一方で、販促したいクライアントとそれを利用したいカスタマーをつなぐマッチング・メディアを運用するIT企業などでは、営業利益率40%や50%は当たり前にあります。

 新しいビジネス構造を持ち込むと、まず業界の収益構造が大きく変わるだろうと考えています。数十人、数百人で数百億円の売上げと、数十億円の利益を出しているIT企業のようなビジネス構造が、もしかしたら我々の業界でも目指せるんじゃないか。そのような目論見は、プラットフォーム戦略の先に見据えるものとしてありますね。

―― それが、既存のビジネスを侵食する可能性はありませんか。

天野氏: いずれマーケット自体が車の所有を拒み始めるタイミングが来るとすれば、我々はそこに対する選択肢をプラットフォームで作っていくという、先を見据えた企業戦略を持っています。

 一方で、我々は今、全国に500店舗くらい直営店を持っています。商品である車の流れはエリアによってまったく違っていて、そういったなかで、全国一律のプラットフォーム・ビジネスを展開してもあまり意味がありません。地方においては一人一台の車を持つことが、ニーズではなくて、必然で、そういったところに対しては実店舗でやれることがあります。

 CaaSプラットフォームは、ウェブあるいはアプリで、お客さんとのコミュニケーションを図っていくのが前提ですが、リアルもプラットフォームの一環だとすれば、コミュニケーションは必ずしもウェブに限る必要はありません。提携している個人間カーシェアAnycaとの取り組みで、改めてリアルのコミュニケーションの場が強みになると感じたことがあったからです。

 一つ例を挙げると、スマホを持つ高齢者がAnycaに登録したところ、「誰か知らない人から、貸してくださいっていうチャットが来たんですけど、どうしたらいいんですか?」と店長に尋ねてきたことがありました。「貸すかどうかを、チャットで返信するんですよ」と伝えても、高齢者は「いや、でもやっぱり怖い、店長さんやってよ」といった話になるわけです。これ、どういうことかと言うと、店長さんが代わりにやってくれるならサービスを使ってみたい、っていう話なんです。

 こうした人たちにとっては車を貸し借りする上で、店舗を通じた我々の信頼性が重要で、貸し借りにおける安全性が担保されるならサービスを利用したいと思っています。車を売るとき、あるいは買うときだけだと、その場だけのコミュニケーションですが、サービスを利用するとなれば、それ以降も継続したコミュニケーションが求められます。ただ単純にウェブだけでサービスを提供するのではなく、リアルの世界も含めたプラットフォームを志向しているところが我々の特徴と思っていますし、こうしたアプローチをとることで、プラットフォームも既存のビジネスも一緒に成長していくイメージを持っています。

 

モビリティが不動産と同じ構造に

―― NORELやガリバーフリマなど、最近の取り組みが話題になっています。お客さんの反応はいかがでしょうか。

天野氏: 新しいサービスに触れていただいたお客さんの満足度は高いですね。今までの車の売買以外にも新しい選択肢ができたことが、好意的に受け止められていると感じます。やはり、まだまだ車って買うものだと捉えている人たちが多いですから。そういったなかで貸す借りる、ECで売り買いできる、あるいはNORELみたいな乗り方ができるっていうのは喜ばれます。マーケットが変わってきている感覚は、こうしたサービス提供を通じて体感しているところです。

 ただ、やはりご存知の通りNORELって、お客さんにとってはそこそこのコストがかかります。月額1万9800円から利用可能ではありますが、それなりの車をバリエーション豊かに乗ろうとすると、3万9800円以上、または5万円、7万円が必要になってきます。だったら買った方がお得なんじゃない、みたいな話にもなるわけです。

 気づかれたかもしれませんが、これは不動産と同じ構造です。賃貸で過ごすか、家を買うかといった選択肢、そういう感覚に近いと思うんですよね。そこのニーズや、カスタマーのシーンは捉えていかなきゃいけないので、そういう意味ではNORELは大事な役割を果たしていくと思っています。

 また、ガリバーフリマに関しては、世の中の潮流としてメルカリさんをはじめCtoCのコミュニケーションが当たり前になってきてるなかで、順調に伸びています。

―― 御社ではCaaSの先にあるものとして、大きな視点でMaaSも捉えられているかと思いますが、日本でのMaaSの将来像をどのように描いていますか。

天野氏: インターネットを見たり、いろいろな人に話を聞いてもMaaSの捉え方っていうのは、それぞれ全然違っていると感じます。我々にとっては、車を活用したCaaSがあった上でのMaaSですし、MaaSという言葉に振り回されず、地に足をつけてサービスを進めていきたいと思っています。

 我々のような企業によるMaaSの取り組みと、他のジャンルや企業の方々ができるMaaSっていうのはそれぞれ異なってくるはずです。それぞれサービスの輪郭を描いて、重なり合う部分をうまく切り取ったなかで、じゃあ日本っていう国において、あるいはグローバルで、何がベストなんだろうかっていう議論を、もっと皆さんとしていきたいなと思っています。

―― ありがとうございました。

 


◆天野氏が登壇する「ReVision Mobility第1回セミナー&交流会」は5月31日に開催いたしました。

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