EVを巡る中国市場の動向とMaaS進展の影響


多くの自動車メーカーが電動化へと舵を切るなかで、2019年から新エネルギー車(NEV)規制が施行される中国市場の動きや、モビリティのサービス化(MaaS)への潮流など、さまざまな要素はどう絡み合って動いていくのか。三菱自動車で「i-MiEV」の開発に携わり、現在は日本電動化研究所代表取締役としてモビリティー・エネルギー・街づくりなどへのアドバイザリー業務に携わる和田憲一郎氏に話を聞いた。

Date:2018/12/17
Photo:ReVision Auto&Mobility編集部
聞き手:ReVision Auto&Mobility編集部 友成匡秀

 

――中国を訪問される機会も多いと思いますが、注目されている点はありますか。

和田氏: 中国の電気自動車(EV)業界は、ある意味で淘汰の時代に入ったと感じています。新エネルギー車に関して「自動車メーカー」と呼ばれている中国の企業はスタートアップや開発・デザイン等を外注する企業も含めて現在、250社あると言われています。これからの吸収合併や買収などで、今後10年間で、大手20数社くらいに落ち着くのではないでしょうか。そうした変化が今まさに始まろうとしていると感じています。

――中国がEVに注力する背景はどこにあるのでしょうか。

和田氏: よく「中国はハイブリッド車を造るのが技術的に難しかったために、EVに力を入れている」という言い方をされますが、必ずしもそうではないと思います。自国産業育成としての意味は大きいですが、もう一つはナショナルセキュリティの観点から、国として石油に依存しないモビリティ社会を築いていこうとしているのです。石油は国外から輸入しなければなりませんが、電気なら自国内でまかなえます。また、大気汚染の問題から環境対策も重要になっています。これら産業育成・ナショナルセキュリティ・環境対応が合わさって国策として進めていると考えています。

日本電動化研究所 代表取締役 和田憲一郎氏

出遅れてしまった日本企業

――中国市場での日本企業の動きについてどう感じますか。

和田氏: 日本企業は出遅れてしまったと感じます。日本の自動車メーカーは最近になって、急ぎ現地で新エネルギー車を生産しようとしていますが、車載電池は主に2大メーカーであるCATL(寧徳時代新能源科技)、BYD(比亜迪)といった現地企業に頼らざるを得ません。こうした電池企業がどれだけ電池を供給できるかによって生産台数が決まってしまうでしょう。

 また、EVの主要部品であるモーターやインバータも現地企業に頼らざるを得ませんが、出遅れたために現地メーカーやドイツメーカーに有力な供給先を押さえられ、なかなかよいパートナーと組めていません。従来、欧米市場などでは日本の自動車メーカーが進出すると、日本のサプライヤー企業も進出していましたが、新エネルギー車に関しては現地企業との競争に勝てるかどうかという懸念もあって躊躇しているようです。

 中国での新エネルギー車の販売は、昨年78万台で、今年は既に11月末で103万台、総計では120万台を超えると言われています。日本の企業は、これほど伸びると思っていなかったのではないでしょうか。そこを読み誤ったのだと思います。中国政府は2020年に200万台、2025年に700万台の販売を計画していますが、私は、それを上回る勢いで伸びていく、と見ています。

――2020年に向けて日本と中国でEVの次世代の急速充電規格を共同開発するという動きがありますが、どう見ていますか。

和田氏: もちろん、いいニュースです。900キロワット(kW)という高出力を想定した規格ですので、EVのバスやトラックに使うものになるでしょう。中国では、都市部のバスは電動化されていますし、トラックも小型・中型を含めて電動化を進めていますので、ニーズは高いはずです。

 この規格が国際標準になると、たとえば、米テスラが出そうとしているEVトラック「Semi」などにも採用しようという動きが広がるのではないでしょうか。欧米で超大型の充電器が必要になれば、日本の充電器メーカーにもビジネスチャンスになります。一方、日本国内で、これほど高出力の充電規格を必要とするバスやトラックがどれほど出てくるか、そうした高出力の充電器が必要になるかどうかは分からないと思います。

 

MaaSプラットフォーマーにEVが選ばれる理由

――注目度が高まっているMaaSにおいて、EVや電動車が果たす役割や利点をどう考えていますか。

和田氏: 新しいモビリティのなかでも、EVは使いやすい乗り物ではあると思います。ただ、MaaSは基本的にはAからB地点までの移動をシームレスにし、なおかつ予約と決済も行い、人の移動におけるストレスを軽減する、という目的のものです。EVは主にゼロエミッション化を達成するための環境政策と結びついています。EVや自動運転が発展すると、MaaSが進むという論調もありますが、そこは切り離して、それぞれを考えないといけないと思います。

――EVが“使いやすい乗り物”だと思われるのはなぜでしょうか。

和田氏: 長期の視点で見ると、今後はMaaSが浸透してくるでしょう。そして、MaaSプラットフォームを提供する企業が何を考えるかというと、自分たちが求めるEVを造ってほしい、ということではないでしょうか。

 たとえば、滴滴出行(ディディチューシン)は同社の企業アライアンス「洪流連盟(Dアライアンス)」で2020年に100万台、2030年には1000万台のEVを活用すると発表していて、同社が求めるEVを造ってもらうと話しています。1000万台というと膨大な台数ですので、自動車メーカーはMaaSを担うプラットフォーマーの要望通りに車を造らざるを得ないでしょう。これまでB2Cだった自動車メーカーのビジネスモデルが、B2B中心に変わります。

 今、車を開発・生産する際に耐用年数や走行距離の目安として「10年・15万km」というのがあります。また車は、95%の時間は止まっていて、動いている時間は5%程度という想定です。しかし、MaaSプラットフォーマーは、車に50%の時間は動いていて欲しい、と考えると思います。また、10年・15万kmの車ではなく、50万km走れる車を造ってほしい、と考えるでしょう。自動車メーカーには、車そのものを50年持たせる構造にして、傷んだ部品は交換するような形にして欲しい、と要望するようになると想像します。

 そういう意味では、EVの部品の交換はしやすく、こうした用途に合っています。動力源となる電池なども比較的、簡単に交換ができます。また、EVのほうがガソリン車に比べて、燃費がよくコストを抑えることができます。現状ではガソリン車で月1万円・年間12万円かかっていた燃料費が、EVにすると年間1万円少々に減ります。MaaSプラットフォーマーならコストの面からガソリン車よりEVを選ぶでしょうね。

 

日本企業にチャレンジ精神が必要

――自動車業界は大きく変わりますね。

和田氏: 車の構造も大きく変わるでしょう。またMaaSプラットフォーマーがお客様になると、求められるポイントは、これまで自動車メーカーが「うちの車はココがいい」と一般のユーザーに訴求していたポイントとは異なってくるでしょう。MaaSプラットフォーマーはハンドリングや乗り心地はそこまで要求しないかもしれませんが、高い耐久性を要求するかもしれません。今までの商品づくりはがらりと変わってしまいます。厳しい分析をすれば、このまま進めば、自動車メーカーは自動車製造サプライヤーになってしまいます。

 では、部品メーカーも含めてすべて厳しくなるのかというと、そうではありません。車の稼働時間を増やすと、消耗部品は早いペースで交換することになります。たとえば、タイヤやブレーキパットは、交換のペースが上がるでしょう。もし車の販売量が2割減ったとしても、タイヤの消費量は3倍になるなら、そこにビジネスチャンスはあります。MaaSが浸透しても、ビジネスチャンスが広がるところもあると考えています。

――これから大きな変化が起こるなかで、モビリティに関わる日本企業にはどのような取組みが必要でしょうか。

和田氏: 日本の多くの企業が、あまりチャレンジをしなくなり、少し内向き過ぎるように思います。一昔前であれば、成功するか分からないけれどもやってみよう、と挑戦していたことが、今は各企業が慎重になり、そうした挑戦ができなくなってしまっているように見えます。既存商品の改良ばかりでは、そこに成長戦略はありません。チャレンジにはリスクも伴い、うまくいかないこともあります。一方で、大きく成長する可能性も秘めています。今、モビリティ業界は激しく動いていますので、日本企業が負けないように、チャレンジ精神を持った人を育てていくことが大切だと思っています。

 


和田氏が出演するウェビナーは2018年12月19日(水)17:00スタートです。
ウェビナーでは今回のインタビューをより深く掘り下げた内容を予定しております。
詳細は下記URLよりご確認ください。

◆ReVision Premium Club 第9回ウェビナー詳細

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