電動化時代のエネルギーマネジメントとWell to Wheel論 ‐ウェビナーレポート-


 株式会社本田技術研究所 R&DセンターX執行役員 岩田和之氏と、自動車ジャーナリストで当媒体編集顧問の清水和夫氏を講師に招き、第4回ReVision Premium Clubウェビナーを4月17日午後5時から開催した。「電動化時代のエネルギーマネージメントとWell to Wheel論」と題したウェビナーの模様をレポートする。

 

Date:2018/04/23

Text :住商アビーム自動車総合研究所 プリンシパル 川浦 秀之

 Photo:ReVision Auto&Mobility編集部

 

岩田氏講演「ホンダの次世代モビリティとエネルギーマネジメント」

 ウェビナーではまず岩田氏が「ホンダの次世代モビリティとエネルギーマネジメント」と題して講演を行った。

 冒頭、岩田氏は自動車産業を取り巻くCO2規制について言及。IEA(国際エネルギー機関)のBlue Map Scenarioに基づく、先進国はもとよりインド・ASEAN諸国にも拡大した内燃機関を持つ車の燃費規制や販売規制への対応のため、各自動車メーカーは電動化を推進しなければならない状況に置かれていることに触れ、その中で重要なのがエネルギーの上流から下流までを全体で見たWell to Wheelでの効率で考えることであると強調した。

 電気自動車(EV)は走行時にはCO2を排出しない(Tank to WheelのCO2排出量はゼロ)が、重要なのは電気がどのように発電されているかであり、東日本大震災以降、大半の原発が稼働を停止し、火力発電への依存度が高まっている日本では、最新のハイブリッド車とEVのWell to WheelでのCO2排出量はほぼ同等になっていることを解説した。

 

◆つくる・つかう・つながる

 続いて岩田氏は内閣府が提唱する国土強靱化とV2Xという命題に触れ、EVや燃料電池車(FCV)は大量の電池を備えており、自動車のみにとどまらない様々な活用方法があると指摘した。

 ホンダでは「水素をつくる・つかう・つながる」というコンセプトを提案している。その一例が、地産地消のエネルギーで水素を作る「スマート水素ステーション」(つくる)、FCVの「クラリティ・フューエル・セル」(つかう)、ガソリンエンジン発電機で培ったインバーター技術を活用した「外部給電器」(つながる)だ。

 このうち、外部給電機は鳥取大学医学部にて有事の際の医療機器のオペレーション用として実証実験が行われた。また平時には、高品質の電気(交流)が出力でき、騒音、排出ガスを出さないという特性を生かして、野外イベント用の電源として活用された実績を紹介した。

 一方、EVについては「航続距離」「充電時間」「車両価格」が課題とされる。ホンダでは2017年のCEATECでHonda Mobile Power Pack Worldを披露。岩田氏は「EVを走らせる以上、電力は再生可能エネルギー由来であるべきと考えている」とし、これは「一貫してWell to Wheelで考える」というホンダが歴代考えてきたアプローチであると述べた。

 

◆バッテリーのシェアリング

 次に超小型モビリティMC-βの宮古島・熊本・埼玉での実証実験について紹介。このとき「80km分のバッテリーを搭載していても、充電率20%以下の領域を利用するケースはほとんどなかった」という。

 また、1月のCES(ラスベガス)や2月のAuto Expo 2018(デリー)でも、前述のHonda Mobile Power Packを披露し、電動スクーターのバッテリーをシェアリングするというコンセプトを発表している。脱着式のバッテリーは家とモビリティとの間で自在に活用可能で、公的なバッテリーステーションを介してお客様同士でシェアするアイデアもあるという。今後モビリティの電動化が進み、絶対的なバッテリーの需要が増大するなかで、バッテリーの稼働率を上げることで相対的に生産量を下げるアプローチを考えていきたい、との抱負を語った。

 なお、このバッテリーシェアリングの考え方は、新興国の無電化地域においても有効で、太陽光発電による電力を蓄電することで、子供が夜勉強できるようになったり、冷蔵庫が利用できたりする可能性があるとした。

 

◆ホンダスマートホームシステムによるエネルギーの『家産家消』

 最後に岩田氏は東芝や積水ハウスと共同で取り組んでいるスマートホームシステムについて言及した。ホンダではバッテリー、給湯ユニット、コージェネレーションユニット、EV、太陽電池等から構成されるスマートホームを実際に建てて、同社アソシエートが実際に住んでデータを収集している。「スマートイーミックスマネージャー (SeMM)」によってオペレーションの最適化を図った結果、約50%のCO2削減に成功。今後は日本とヨーロッパを中心に「車が停まっている時の価値」を検討していきたいとの抱負を語った。

 

清水氏講演「New Concept of Global Air Connect」

 岩田氏の講演に続いて、清水氏が「New Concept of Global Air Connect」と出した講演を行った。

 冒頭に清水氏は、人類は大気で繋がっており、資源や環境、地球温暖化等の問題は「コップの中の戦い」であると切り出した。すなわち「誰が良い」「誰が悪い」という議論をしている場合ではなく、「宇宙船地球号」に住まう人類に課せられた共通のテーマであり、持続可能な社会をいかに作り上げていくことが重要であると訴求した。

 

◆プレミアムブランドで何が起きているのか

 続いてメルセデス・ベンツが提唱した「CASE」を取り上げ、世界最古の自動車メーカーである同社が4つのコンテンツを包括的に概念として提案したことの重要性を指摘した。

  また、最近ではフォルクスワーゲンの新型車から「TDI」「TSI」というバッジが消えたという。いままで車の価値として認知されていたエンジン性能や排気量、パワー、速さが、もはや自慢の対象ではなくなったと指摘した。

 一方で、メルセデス・ベンツはEVやハイブリッド、プラグインといった表現を使うのをやめて、電動車にはEQ(EV)、EQプラス(プラグインハイブリッド)、EQパワープラス(F1)というブランドを与えている。シリーズの頂点にF1を据えているのは、新しい価値の提案の試みであると解説した。

 

◆トランプ大統領の方針で変わるアメリカの環境政策

 次に清水氏はアメリカの環境政策について触れた。トランプ大統領は燃費規制の見直しを言い出しているが、規則が変わるだけだというのが清水氏の見解だ。各メーカーは低燃費化のペースを緩めることはなく、「宇宙船地球号」の人口は2050年に90億人に達し、車も20~30億台になる見込み。このとき気がついたらエネルギーがない、という事態に陥ることのないよう、自動車メーカーの見識として燃費対策はさらに強く押し進められていくとの見立てを披露した。

 一方、日本メーカーはこれまで世界の環境技術を牽引してきた側面がある。

 アメリカでマスキー法が導入された際、他国の自動車メーカーは「対応できない」としてロビーイングに走ったが、日本メーカーは真摯に取り組み、ホンダがCVCCエンジンで最初に基準をクリアしている。さらに、日本の53年規制やオイルショックは日本メーカーの排ガス対策を一層後押しし、その結果、現在主要先進国の首都の中で、東京の空が一番綺麗だとされる。清水氏は、日本人はこのことにもっと自信を持って良いと主張した。

 

◆『繋がる』ということの価値

 次に清水氏は、岩田氏の講演内容に触れて「使いやすいが貯めにくい電気をバッテリーパックに貯めることで、電気を使いやすくするというアイデアは興味深い」とし、これからは情報でコネクトされるだけではなく、エネルギーでも繋がり始めるのだとわかったと語った。

 Googleの親会社Alphabetはカナダのトロントでスマートシティに取り組んでいる。ここで使われているのが「Close-Knit」という言葉だ。清水氏は「社会から大量のデータを吸い上げ、それを繋ぎ合わせてコミュニティに還元することでコミュニティの絆が深まり、もっと密接に楽しくなることを提案している」と解説し、「コミュニティにおける『繋がり』が非常に重要な意味を持つ」とした。

 さらに、「繋がることの価値」として、東日本大震災の際に、ホンダの「インターナビ」をはじめとするテレマティクスナビゲーションが社会的な貢献を果たしたことを紹介。清水氏は、車同士が繋がることの重要性を力説した上で、すでに4000万台以上の車両に搭載されているETCが料金徴収のみならず、もっと広範囲なコネクトを実現できるようになればと期待を示した。

 

◆モビリティの現実

 日本では交通事故で年間3600人が死亡し、最近は歩行者の重傷・死亡者が増えているという。清水氏はコネクトや自動運転技術によって、交通事故の犠牲者が減ることに期待する一方で、「自動」という言葉に対する過信について警鐘を鳴らした。

 とはいえ、自動運転化の波は止まらない。

 2020年ころにはレベル3の自動運転車が高速道路で渋滞時にドライバーをアシストしてくれる可能性があり、過疎地においてはレベル4の自動運転車が交通弱者であるお年寄りの移動を支える存在となっていることへの期待を示した。

 最後に清水氏は新しいモビリティを実現するための都市デザインの重要性について言及した。1939年にGMはニューヨーク万国博覧会にフューチュラマというジオラマを展示している。驚くべきは現在の都市が実際にそのような形になっていること。清水氏は、自動車メーカーの考えるアイデアを実現するには都市デザインが必要であると締めくくった。

講師の清水氏(左)と岩田氏

 

対談「電動化時代のエネルギーマネージメントとWell to Wheel論」

 講演に続いて対談が行われた。

 清水氏ははじめに、ホンダが単なる流行でEV化を進めているのではなく、「車が停まっているときに何かできないか」という発想で電動化を推進していることに感動したと述べた。

 岩田氏からは、東日本大震災の際、被災地の医療従事者から「(きれいな正弦波の交流が取り出せる)ホンダの発電機でなければ医療機器は動かせない」と言われたとのエピソードが披露された。さらに、V2L(Vehicle to Load)ガイドラインの策定に際しては、トヨタ自動車にアプローチし放電方法の標準化の労をとったというこぼれ話も披露された。

 標準化に関して、視聴者からモバイルバッテリーの標準化を期待するという意見が寄せられた。岩田氏からは標準化と各社の事業の成立の両立の難しさについて言及がなされた一方、清水氏からは海外との競争を考えると細かいことにこだわらず標準化を進めないと、海外との競争に勝てないとの意見が述べられた。

 一方、岩田氏は清水氏が講演でCVCCエンジンを紹介したことへ謝意を示し、火力発電の電力に依存している国ではEVよりも、むしろ、低公害の内燃機関車を走らせる方が良いと指摘。現代の環境規制に適合する内燃機関の排出ガスは大気汚染に苦しむ地域の空気よりもクリーンで、空気清浄作用のないEVよりも大気の浄化という観点では有効であるという。ユーザーは何を望み、自動車のエネルギーには何を使うべきか、Well to Wheelの全体最適のなかで考えるべきとの議論がなされた。

 今後モビリティの電動化が進むにつれて増大する電力消費に関しては、社会システムを変えていくこと、街作りの重要性についての議論がなされた。清水氏は、「繋がる」ことには無限大の可能性があり、繋がることで社会が変わると述べている。そして、CASEに示されるコネクト、自動運転、電動化は自動車の視点だけで進めるのではなく、エネルギーを含めた上流まで考える必要があり、最終的には街作りに繋がると語った。

 これから2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京のインフラがどんどん変わっていく。「情報が繋がる」「エネルギーが繋がる」ことをショールームとして上手に見せることができれば、世界に対して「日本は頑張っている」ということをアピールできるとの示唆がなされた。

視聴者アンケート

Q1. 環境対策のコストは誰が負担するべきか

1) 公的資金を投じるべき

2) (サービス・商品を販売する)企業が負担するべき

3) (サービス・商品を利用する)消費者が負担すべき

結果: 3)、1)、2)の順で多数

 

Q2. 消費者としてどの程度であれば環境対策のコストを負担しても良いと考えるか

1) 製品価格の1%

2) 製品価格の10%

3) 製品価格の20%

4) いくらであろうと負担したくない

結果: 2)、1)が多数、4)、3)は若干名

 

 この結果に対して、岩田氏は、企業は利潤を追求する必要がある一方、環境に対してお金を払って下さいといっても受け入れられにくいので、お客様に受け入れて頂くには、EVであれば内燃機関車にはない価値を提供していかないといけないと理解している、とコメントした。

 清水氏は「環境問題は人類全員の共通課題という認識が必要」と指摘。自分の子供や孫達がサステナブルに次の時代まで幸せな生活を送れるかということを考えていかなければならない、との提言がなされた。

 


講演および対談の模様は有料会員向けーカイブで全編を視聴可能です。いまからお申込みいただいた方も、年間会員であれば過去のアーカイブも視聴可能です。この機会にぜひご検討ください。

お申し込みはこちらから。


2018年3月28日開催
ReVision Premium Club 第3回ウェビナー
登壇者プロフィール

岩田 和之氏

株式会社本田技術研究所 R&DセンターX 執行役員

1986年,明治大学工学部を卒業後、本田技研工業㈱入社。ライディングシミュレータの研究開発を経て㈱本田技術研究所に異動。初代i-VTECなどのエンジン設計に従事。

その後アコードPHEV・Fit EVなどの開発を経て、2012年から超小型EVの開発を陣頭指揮。2013年本田技研工業㈱に異動し,スマートモビリティ/コミュニティ分野の事業化を担当。

2016年4月、㈱本田技術研究所に戻り四輪R&Dセンターで執行役員就任。2017年4月から現職。

 

清水 和夫氏

ReVision Auto & Mobility編集顧問、自動車ジャーナリスト

1954年、東京生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒。

1872年のラリーデビュー以来国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活躍を始める。

自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通している。

日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など著書多数。

 

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