コネクティビティが生む、移動の付加価値


ライドシェア、カーシェアリング、公共交通も含めたMaaS(Mobility as a Service)など世界的に移動のさまざまな形が生まれ、それらを可能にする機能としてコネクティビティの役割が注目されている。日産自動車アライアンスコネクテッドカー&モビリティサービス事業部サービスデリバリ&サポート管理部部長で、1990年代から一貫して車のコネクティビティに関する企画開発に携わってきた三浦修一郎氏は、今何に注目しているのか。2月20日のウェビナーを前にインタビューした。

 

Date:2018/02/14

Text:ReVision Auto&Mobility編集部

 

――現在、注力しているお仕事を教えてください

三浦氏: 次世代コネクテッドカー・サービスの運用構築を進めている。次世代という意味は、今までと違ってグローバルスコープで、100%コネクテッドというところ。すべての車がコネクテッドになるという世界観の中で、プラットフォームを構築・運用していく。

――グローバルで具体的にどの地域でしょうか

三浦氏: プラットフォーム自体はグローバルで7拠点置く。欧州、ロシア、中国、アジアパシフィック・日本、北米、南米、韓国。これらの地域でサービスが提供できるように準備する。第2ステージは、中近東、インド、南アフリカあたりもスコープに入ってくる。

――現時点で、通信モジュールが入ったコネクテッドカーの割合はどれくらいですか

三浦氏: 現状はメインマーケットで平均10%くらい。高級車「インフィニティ」で70~80%ほど。まだまだ少なく、そこをキャッチアップしていくのが今回の取り組み。2022年くらいに、先ほど挙げた地域の新車販売で100%に持っていくことを目標としている。

――サービス・プラットフォームの準備も必要と思います

三浦氏: 次世代のプラットフォームで2018年末頃からサービスを始める方針。インフォテインメントやリモートコントロールなどのほか、今回は新しいサービスとして、ファームウェアやソフトウェアを通信でアップデートするFOTA(Firmware Over The Air)もサービスに含める。

フィンランドのWhimには注目

――ディーラーに行って地図更新しなくてもよくなるだけでも大きな違いです

三浦氏: 地図に関してはアップデートの頻度も重要になる。また、このFOTAは、ワランティ・コストの削減に大きく寄与すると考えている。FOTAの最初の対象となるのは、IVI(In Vehicle Infotainment)、IVC(In Vehicle Communication)といわれるナビ・ユニットと通信モジュールだが、当然ECUも含まれてくる。今までディーラーに行ってアップデートしていたものをリモートでアップデートできるため、期間短縮とディーラーでの作業工賃の削減になり、ワランティコストを削減できる。

――自動運転に関してもコネクティビティが必要になると思います

三浦氏: HD(High Definition)マップのダウンロードや、センシングデータのアップロードなど、自動運転を可能にするためにコネクテッド機能が必要になってくるのは明白。これらはコネクテッドカー・サービスという定義にはしていないが、自動運転においてのコネクティビティの必要性は今後、議論のポイントになってくる。

――MaaS(Mobility as a Service)という言葉が聞かれるようになりました。注目されている点はありますか

三浦氏: MaaSという言葉を聞いて、まず頭に浮かんでくるのは断捨離のイメージ。ものを持たない、ミニマリストのような考え。MaaSを要求しているカスタマーのビヘイビアーや欲求といった部分には注目している。
 人の本質的な移動に関する欲求としては、主に「人」「物」「情報」「お金」の4つに関係すると思っている。そのうち、「情報」はIT化、「お金」に関してもフィンテックのような動きが起こっていて、「人」「物」に関してMaaSが出てきている、という構造と捉えている。

 地域の動きとして、フィンランドの首都ヘルシンキで提供されているモビリティサービス「Whim」には注目している。自動車や自転車のレンタル、タクシー、電車など、それぞれ事業ドメインがあるものを、デジタルで横串を通してサービスを展開していて、非常に面白い。こうしたことが今後は必要不可欠になってくる。

 

断捨離する若者も人とのつながりは重視

――格好いいスポーツカーというより、車をどううまく移動に使えるか、という部分に注目している若者が増えている印象です

三浦氏: トレンドがどう動くかによって、移動への欲求も変わってくるはず。ただ、断捨離をするような若者こそ、人とのコミュニケーションを重視する、という傾向もあるのではないか。人と人のつながりを重視すると、移動は必須の欲求になる。その欲求をどう満たすべきか、という話になったとき、自動車だけじゃ十分じゃなく、MaaSのような形が求められてくる。

――移動にまつわる様々なサービスをどう結び付けてビジネス展開してくべきでしょうか

三浦氏: ビジネスドメインとして、どこを含めていくのかは今後考えていくべきところ。安全に関しては保険を含めたり、電気自動車(EV)なら電気を売るというところだったり、車の外側に液晶があれば広告をそこに出すことも自分たちのビジネスドメインに入ってくる可能性がある。どこまでを事業ドメインとして取りにいき、どこまでがリーズナブルなのか、考えていく必要がある。

――今後は車が売れなくなってサービスへとシフトしていくでしょうか。もしそうなら、自動車メーカーはどのような役割を果たすべきでしょうか

三浦氏: 新興国も含めたトレンドでいえば、自動車の販売は落ちない。ただ、都心部や、高齢化が進む地域では、より便利なもの、所有するより使い勝手のよい「利用」にシフトする方も多いだろう。

 車と同じ耐久消費財で、その最たるものとして「家」の所有と賃貸の状況を調べてみても、現在、ライフサイクル・コストもほぼ同じで経済的にどちらが得ともいえない状況下においても、60%くらいが持ち家となっている。持つということへの安心感であったり、いつでも自分のものとして使える使い勝手のよさがあって減っていかないのだと思う。

 クルマも自分が運転できる限りにおいて、そういう考え方を持つ人が多いはず。ただ、そこを大きく転換させるのは自動運転だろう。自動運転が出てくると、車も現在の持ち家と賃貸くらいの割合になってくるかもしれない、と感じる。

 

使いやすいデータ・プラットフォームが必要

――所有する人たち、利用していけばいいという人たち、その両方を自動車メーカーとしてターゲットとしなければならないのでしょうか

三浦氏: 企業として、両方のビジネス領域を取りにいくのか、どちらかにフォーカスするのか、ということになるだろう。もちろん、一方だけに傾注する企業もあると思うが、日産としては両方を取りにいく。なぜかというと、EVと自動運転という切り口を持っていて、特にEVに関していえばイノベーター。EVを活用することでシェアリング領域での手軽さを高めることができると考えている。

 ただ、ここまでEVもシェアリングも、ユーザーの方々のビヘイビアーについての話を中心にしてきたが、政府が主導する部分も大きい。先ほど例を挙げたフィンランドもEV政策は政府が主導しているし、中国や米国カリフォルニア州なども政策として進めている。シェアリングも、ユーザー任せではそれほど増えないと思っていて、政府の規制動向に大きく依存すると思う。

――モビリティが変化する中で、コネクティビティをどううまく生かしていくべきでしょうか

三浦氏: コネクティビティに関していえば、配車などを含めて車というデバイスをどううまくサービスとして動かせるか、そうしたデバイスマネジメント的な側面が強くなってくると思う。デバイスマネジメントを効率的にするためのインフラとしてコネクティビティをうまく使っていかなければならない。

 例えば、車をシェアするとき、ユーザーはその車を自家用車のようにきれいに使おうと思わないかもしれない。そのときは車両クリーニングのようなことも含めてデバイスマネジメントになる。また、自動運転が出てくると、データのアップデート、HDマップのダウンロードなどにも必要なインフラとなる。

――デバイスマネジメントやサービス領域への広がりをイメージしたとき、データプラットフォーム構築をどのようにすべきでしょうか

三浦氏: APIエコシステムのような形でクラウドサービスの中で自動車メーカーが共通インターフェースを外に提示する方法と、外部の企業が提供している共通のプラットフォームを活用する方法の二つのアプローチがあると考えている。

 いずれにしても今後、様々なサービスを提供する上で、誰もが使いやすいプラットフォームを作っていくことは必須。誰にでも開示するという意味ではなく、第三者、外部のパートナーが使いたいと思ったときに使いやすいプラットフォームにしていくべき。

 こうした取り組みを進める上で、自動車メーカーとして開示できない情報は何で、共通で開示するべきものは何かを決めていく必要はある。きっちり決めてから始めるのではなく、進めていく中で決めていけばいいし、出していたデータを出さなくなる、ということがあってもよいと考えている。

 

“戦略をつくらない”という戦略も

――一方で、各個人のデータを活用するなどして、車を利用する人たちにどのような新しい体験を生み出すことができるでしょうか

三浦氏: 個人的な体験を生み出す上では、あまり自動車に依存せず、むしろ外の企業に体験の醸成をお渡しするのがよいのではないかかという気がする。日常生活の中での一つのシーンとして車を使うなら特にそうだ。例えて言えば、アマゾン、グーグルなど、日常的に使っているサービスをクルマの中でも使える、といったスタンスで進めたほうがお客様自身にも快適なのではないか、と思っている。

――これからのコネクテッドカー・サービスを進める上で、課題に感じていることはありますか

三浦氏: 自動車メーカーは、これまで最初にきっちりとした戦略を作り、その戦略の中で個々の活動を決めていく、という動き方をしてきた。しかしサービスという視点でみたとき、それではうまくいかないのではないかという気がしている。

 きっちりとした戦略は持たず、例えば「ゼロエミッション」のような大きなダイレクションは持ちつつ、個々の取り組みに関しては小さなエンティティ(事業体)で、素早く判断できるプロセスや組織を持つことが重要と思う。もちろん収益にはコミットすべきだが、既存事業から離れて素早く決断ができるようなエンティティも必要で、そこには関連する全権限を与えられるべき。新しいサービスを生み出すためにはアジリティが重要で、それに応じた組織やプロセスづくりが必要と感じる。

――これから変化に対応するため、業界の方々はどのような指針で取り組むべきでしょうか

三浦氏: サービス開発はモノづくりではなく、コトづくりであり、人のネットワークとか、情報ソースを常に持っていることはとても重要。ウェブなどに出てくる情報は過去の情報だし、他社ベンチマークなどはあまり意味をなさなくなっている。この業界は、それくらいのスピードで動いている。人と話をしたり、常に触れ合う場を持っておくことが非常に大きな意味を持つようになってきていると思う。

(聞き手:友成匡秀)

 

【ReVision Premiu, Club第2回ウェビナー】 

2018年2月20日(火)17:00~18:30
「コネクテッドカーが創り出す新たな“移動のカタチ”と“ユーザー体験”とは」
三浦 修一郎氏 × 今井 武氏(株式会社アマネク・テレマティクスデザイン 代表取締役CEO、自動車技術会フェロー)

 

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