5Gは次世代モビリティをどう変えるか‐8月7日開催ウェビナーレポート-


株式会社NTTドコモ執行役員5Gイノベーション推進室長中村武宏氏と、当媒体編集顧問であり自動車ジャーナリストの清水和夫氏を講師に招き、第7回ReVision Premium Clubウェビナー「5Gは次世代モビリティをどう変えるか」が8月7日午後5時より開催された。

Date:2018/07/10

Text :住商アビーム自動車総合研究所

プリンシパル 川浦 秀之

 

 ウェビナーではまず、中村氏が講演を行った。

 講演の前半部分で中村氏は、ユースケースに触れ、数ある5Gのユースケースは

1. 高速大容量
2. 超多数端末
3. 超高信頼低遅延

の3つのカテゴリーに分類され、コネクテッドカーは「超高信頼低遅延」のカテゴリーに属していることを解説し、続いてV2Xのユースケース、業界団体、接続形態について言及した。

NTTドコモ 中村武宏氏

 自動運転車における5G/セルラー通信の活用に関しては、移動体通信のネットワークは全ての道路をカバーし切れないことから、命に関わる部分についての責任は負えないとする一方で、カバーレンジが100~200mの自動運転車を司る車載センサー・カメラに比べて移動体通信は広いエリアをカバーできるので、付加的な情報を自動運転のシステムに提供することで、自動運転車をより安全で快適なものにすることに貢献できるとした。

 また5Gの導入時期については、オリンピック・パラリンピックイヤーの2020年の導入を目指しているとし、当初はオリ・パラが開催される施設周辺及び、5Gの高性能性が必要とされるエリアからの導入となると述べた。

 後半部分では自動車に関する5Gの実証実験のデモンストレーションが動画で披露された。

5G & Autopilot

 続いて清水氏が「クルマが繋がる」ことについて解説した。

 清水氏が構成委員を務める戦略的イノベーション創造プログラム自動走行システム(SIP-adus)において、従来自動運転と移動体通信との連携はほとんど取り上げられることはなかったが、5Gの普及を踏まえ、通信速度・信頼性の向上が見込まれることから、来年度から始まる第二期では5Gを積極的に取り上げようという機運になってきていることに言及し、5Gが普及し2時間の映画が6秒でダウンロードでき、スマートフォンで誰もがリアルタイムで動画配信ができる世の中になると、ライフスタイルが大きく変わると説いた。

自動車ジャーナリスト 清水和夫氏

 続いて清水氏は”CASE”を取り上げ、移動体通信=コネクテッド(C)は独立した存在ではなく、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動車両(E)のベースとなるプラットフォームであるとし、5Gの普及により我々の暮らし、モビリティの価値がどう高まっていくのかを考えたいと言及し、総務省が考える5Gのユースケースを披露した。

 講演の後半部分では5Gの課題についてげ、日本の自動車メーカーが5Gを「安全」に関する部分に積極的に使おうとしていないこと、中国・韓国に先んじられている現状を鑑み、これにキャッチアップするためには、スピード感と、「勝つんだ」という気概、そしてオールジャパンでの取り組みが必要であると説いた。

ディスカッション

 講演に引き続き、ディスカッションが行われた。

[オープンプラットフォーム]

 中村氏は、日本の5Gの現状について、技術・導入に向けた活動については世界を先導するポジションにある一方で、コネクテッドに関わる部分と情報発信については遅れを取っているとし、特に情報発信については、オールジャパンで活動するためのオープンなプラットフォームがなく、オープンに発信できる情報がないこと問題提起した。

 これに対して清水氏は、折角の路車間通信のプラットフォームが有料道路の料金徴収に特化してしまったETCを引き合いに出し、5Gで日本がリーダーシップを取るためには、業界の壁を取り払い、若い世代の意見・アイディアを取り込む「場」が必要であると説いた。

[自動運転と5G]

 自動運転に関連し清水氏は、メルセデスベンツの自動運転車がグローバルかつ様々なユースケースの下で実証実験を行い、データをシュトゥッツガルトの開発センターで収集・分析していることに触れ、データ収集が5Gでできるようになると、路上を走行している車の「ヒヤリ・ハット」データがリアルタイムで収集できるようになり、5Gは強力な開発ツールになる可能性があることに言及した。これに対して中村氏は、斯様なデータ収集は大変重要なユースケースとして考えられている一方で、5Gの普及は段階的に進むので、今後も性能が向上する既存の4Gを活用を前提に、5Gが使えるところでは5Gを使うというシステムの開発が重要であると説いた。

[協調領域と競争領域]

 また清水氏が、テクノロジーの進化に伴い、国から援助が受けられる協調領域とそうではない競争領域のボーダーラインが変わってしまうことの難しさについて触れた。中村氏はこれに同意、ボーダーラインは極めて重要だとし、是非自動車業界と議論したいと言及。これに対して清水氏は、自動車業界と他業界が腹を割って議論しないと課題が明確にならず、課題に対するソリューションを考えることもできないと賛同した。

[標準化]

 清水氏からの5Gの標準化に際しての日本企業の関与に関する質問に対して、中村氏はNTTドコモは3GPPの中核企業として議長職・Rapporteur(世話役的役割)を果たしてきたと解説。但しベンダーの影響力の低下により、チームジャパンとしてのパワーは低下気味であると言及した。

 清水氏よりは自動車の安全・環境基準の国際調和を司る、自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において日本の自動車メーカーが3つあるワーキンググループのうち2つで共同議長国のポジションを取り、日本発の技術を国際基準にするべく頑張っていることを解説。5Gも一緒になり、基準の段階から日本案をしっかり出せていければ良いと期待を述べた。

まとめ

 最後に中村氏は改めて通信/ICT業界と自動車業界との密な連携・議論の重要性に触れ、このような議論の場を清水氏と持つことができたことに謝意を表すと共に、今後両業界間の関係を促進に向けて最大限の努力をすると表明した。

 清水氏は、自動車業界、特に安全に関する開発を行っている部隊が、通信業界と距離感を抱いていることに触れ、通信端末の進化に伴い、いかに5Gが安全に活用できるかのアイディア出しをすることが重要と説いた。SIP-adus第二期で5Gに本気で取り組もうという機運が出てきている今こそが、自動車業界と通信業界の協業が始まるスタートラインであると締めくくった。

 


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