次世代通信規格5Gは未来のクルマに必要か


2020年――東京オリンピック・パラリンピックが開催されるこの年に向けて、さまざまなプロジェクトが進行している。第5世代移動通信システム「5G」もそのひとつで、モビリティ業界からの視線もアツい。5Gイノベーション推進室の室長として業種を越えた連携を模索する、株式会社NTTドコモ執行役員の中村武宏氏に話を聞いた。


Date:2018/07/30
Text&Photo:ReVision Auto&Mobility編集部

 

 

業界を越えて語り合う場の必要性

――第5世代移動通信システム「5G」には高速大容量通信、低遅延、多数同時接続という3つの大きな特徴がありますが、それぞれの可能性を教えてください。

中村氏(以下敬称略):多数同時接続については、モビリティよりも、IoTの分野の話ですね。さまざまなセンサーデバイスや小容量のデータを扱う端末などが同時にたくさん接続できるようになり、それで新しい価値を創っていくわけです。

 モビリティの分野では高速大容量と低遅延が大きなメリットになると思います。これからコネクテッドカーが増えれば莫大な量のデータが飛び交うわけですから、それをネットワークで処理するには高速大容量の5Gが必要です。

 5Gのごく初期段階の議論では「通信で自動運転を実現する」という、少々横柄な意見も出ました。しかし、5Gのネットワークがいつでもどこでも使えるという保証はまったくできません。今の4Gにも当然ながら穴があります。そういう状況で「通信に任せてください」なんて、とても言えるわけがない。車はセンサーを使った自動運転が基本だと思っています。

NTTドコモ 執行役員 中村武宏氏

 

――通信は自動運転にどのような役割を果たしますか。

中村:より良い自動運転のための支援ができると思っています。たとえば、センサーでは前方にトラックがいたら、その先が見えませんが、もしも見えれば、よりスムースに運転ができますよね。そういうところで、通信にできることがあるのかなと。ただ、いつでもどこでも通信ができる保証はありません。ないときはないなりに、あるときはより良くできる仕組みを作りたいと思っていますが、そもそもそういうことが可能かどうかを、これから車業界の方々と詰めていきたいところです。

 まずは共通の課題認識が必要と思っています。そのためには、それぞれが思う課題を持ち寄り、どういうソリューションがあるか、どういうアプローチが考えられるかといった情報を出し合う場が必要。通信業界でも車業界でも「これからはコネクテッドが大事だ、双方が集まって話すべきだ」という声は上がりますが、あまり進んでいません。現在、複数の場で両業界が議論できるように活動させていただいています。今後、より多くの場を活用し、議論を促進させたいと思っています。

世界では5G導入が前倒し傾向

――これまでに実施した5Gの実証実験から分かったことを教えてください。

中村:ひとつには高速大容量の可能性の検証です。ごく基本的な実験ではありますが、車の屋根にアンテナを乗せたときに、どのくらいの性能が出せるのかを見ました。車業界の方々は「どのぐらい使えないのか」という限界の方が重要なのでしょうが、我々は5Gを訴求するために、ピークでどれくらいせるのかが知りたいのです。

 高速性については数ギガビット秒を出せる見込みですが、常時それができるわけではありません。いまはまだ車の台数が少ない状況ですし、ある意味、チャンピオンデータですから、実際はもっと低くなるでしょう。また、画像データの送受信に対するニーズが高いですが、たとえば、あらゆる車が一斉にダイナミックマップの更新をやるとなれば、さすがの5Gでも容量が足りなくなりますから、どのように情報を間引くのか、運用スキームが重要になりそうです。

――海外の動向についてはいかがでしょうか。

中村:中国ではセルラーV2Xですね。ものすごく気合を入れてやっていますよ。どんどん実験を重ねて、来年にはサービスを導入すると聞いています。5Gについては2019年中に開始すると発表しています。

 韓国は来年3月に5Gを開始すると宣言していますし、アメリカでも特定のユースケースに限って今年の年末に始めるとの話が出ています。世界的にはどんどん前倒しになる傾向にありますね。

いかにして大容量のデータを捌くのか

――最近はエッヂコンピューティングにも注目が集まっています。現在はクラウドにあるサーバを介して情報をやり取りするクラウドコンピューティングが主流ですが、エッヂコンピューティングになれば、利用者の近くにあるサーバで情報を処理することになりますから、モビリティの分野にも少なからぬ影響があるのではないでしょうか。

中村:エッヂコンピューティングは車両からの情報を吸い上げるほうに活用されると思います。たとえば、車両のセンサー情報や車両の状態に関する情報はいろいろなことに活用できます。そのデータは自動車メーカーにとって重要でしょうし、交通状況の把握などにも使えそうです。

ほかにもさまざまな可能性があるでしょうが、要は、エッヂコンピューティングは課題解決策の一つなのです。これから大量のデータが飛び交うようになります。ネットワークは階層になっていて、上の階層に情報が集約されますから、一度に集まりすぎるとパンクし兼ねません。いかにして大量の情報を分散して処理するかが重要で、そのソリューションの一つがエッヂコンピューティングなのです。

――ありがとうございました。ウェビナーでまた詳しくお話を聞かせてください。


◆中村氏出演の「ReVision Premium Club 第7回ウェビナー」は8月7日に開催いたしました。

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