自動運転技術が発展する中、どのように普及させていくかは社会が抱える喫緊の課題である。株式会社第一生命経済研究所の調査研究本部・ライフデザイン研究部で主席研究員を務める宮木由貴子氏に、社会受容性を高めるヒントを伺った。
Date:2019/4/24
Text:大貫愛美
Photo:友成匡秀
聞き手:サイエンスデザイン 林愛子
交流機会をモビリティが作り出す
――社会受容性の醸成という観点で言えば「自動運転があったら嬉しい」よりも「自動運転がないと困る」というニーズに応えることを優先すべきとのご意見でしたが、もう少し詳しく教えてください。
宮木氏: モバイルの定着が早かったのは、持つ人が増えれば増えるほど便益を享受できるという、ネットワーク外部性が働いたこと、さらに「つながりたい」「コミュニケーションしたい」といった強いモチベーションが働いたからでした。
モビリティの場合はどうでしょうか。昨今はインターネットによるサービスの充実により、家から出なくても生活できそうな環境が整ってきましたが、本当にそれで完結するようになるとは思えません。高齢者が引きこもると認知症やうつ病のリスクが上がると言われていますし、外出することで健康寿命が伸びるという研究結果もあります。移動は、その場所に行くことやモノを得ることだけが目的ではなく、人とのコミュニケーション機会をも創出しているのです。
――たとえば高齢者の外出機会を増やすなら、地域に巡回バスを走らせて町内会館に集合してもらうのが良いのか、あるいはもっと自由なものであるべきか、いかがでしょうか。
宮木氏: コミュニケーションが得意な人もいれば、お膳立てが必要な人もいるので一概に言えませんが、単なるレクリエーションよりも何かしらの生産性がある取り組みの方がより良いと考えています。「社会に役立っている」「参画している」といった意識を持てることは、高齢の方にとって非常に重要なことだと思います。
自動運転の運行に必要な補助員として高齢者のボランティアを、という話もありますし、農業の現場でIT化や自動化が進めば、体力や筋力が落ちた高齢者でも、十分に経験を生かして活躍してもらえる可能性があります。高齢者本人にとってやりがいがあり、地域にも農業にもメリットがある好循環のまちづくりができたら素敵ですね。
――このような議論を地域で進めるにはどうしたら良いでしょうか。
宮木氏: 自動運転の実証実験に取り組む地域の方々で、地域のモビリティについてざっくばらんに議論ができるワークショップを、たとえば「ワールドカフェ」のような形態で、実施してはどうかと提案しています。住民が自分の住む地域にこれから何が必要かを話し合う機会は意外にないのです。アンケートを実施すると、高齢期に運転ができなくなることや移動が困難になることについて不安を持っている方々は少なくありません。
そこで私が提案しているのが「モビリティ・ライフデザイン」です。「自家用車以外で、地域のモビリティにはどのようなものがあるのか、それを使って自分の行きたいところに行かれるか」「次の買い替えのタイミングで、サポートカーを検討しよう」「転居先は終の住処になりそうだから駅の近くにしよう」といった具合に、人生設計の一環として、自分自身のライフステージとモビリティを考える機会を持っていただきたいと思っています。
自分の将来のモビリティについてまったく考えたことがない人は、自分で運転ができなくなったり、いつも送迎をしてくれていた家族がいなくなったりしたときなどに、代替手段がない、どう移動手段を確保したらよいのかわからない、といった事態に陥ります。人生100年時代、高齢期のことまで意識して暮らしを見つめなおすと、地域に必要なことが見えてくるでしょうし、その課題に早期から地域で取り組むこともできるかもしれません。
――地域でワークショップを行う場合、具体的にはどのように話し合いが進むのでしょうか。
宮木氏: 1月に福井県の永平寺町で、30人程度で「ワールドカフェ」を実施してきました。1テーブルに5人から6人が座り、テーマごとに席替えをして、自由に喋ってもらいます。発言機会が多いですし、ファシリテーターを交えてメモや落書きをしながらワイワイと進めるので、地域のモビリティについていろいろな意見やアイデアが出てきます。個別のインタビューでは聞けないようなキーワードも出てきて、地域課題や住民のニーズがリアルに見えてきます。
また、ワールドカフェは情報収集の場であると同時に、参加者に対する情報提供や意識喚起の場にもなります。「自動運転にはこういう利点もあるのか」「こんな風に考えれば自動運転もいいものかもしれない」という気付きをしていただいたり、「自分はそうは思わない」「こういう視点もあると知ってほしい」といった意見交換をしたり、相互に刺激しながら思考を深めるきっかけになりますから、ぜひ取り組んでみてほしいですね。
――ありがとうございました。