~過去5年で大きな進化を遂げてきたADAS(先進運転支援システム)、
今後AIやその他のテクノロジーの発展により安全性がさらに向上する可能性とは~
2024年現在、交通事故は未だ世界で「回避可能な」主要な死亡原因のひとつです。しかしながら、過去5年間で、より高度なADASの提供や搭載が大幅に増加しており、今後さらなる進展に期待が寄せられています。特に欧州、米国、中国のような市場では、自動車における安全で生産的な時間を求める消費者のニーズに応える形で自動車メーカー間の競争が激化し、ADAS搭載の義務化も進んでいます。
2024/11/22
※この記事はSBD Automotiveより提供いただき掲載しています
高度なADASが最も浸透している米国市場では、自動緊急ブレーキなどの何らかの前方衝突回避機能を搭載した新車の販売比率が、2020年の64%から現在は92%に増加しています。スピード違反を防止するためのインテリジェントスピードアシスト(ISA)の装着率も、同期間に15%から37%に増加しています。興味深いことに、欧州とは異なり、これらの機能の搭載は米国政府によって義務付けられていないため、消費者の需要が普及を後押ししていることが示されています。
現在市場で提供されている最先端のADASは、パイロットドライブを可能にしています。つまり、ドライバーは「ハンズオフ、アイズオフ」が可能で、ハンドルを握ったまま電子メールをチェックしたり、新聞を読んだりすることができるということです。これはSAEレベル3のシステムと定義され、完全な自動運転が可能ですが、特定の運転条件に限定されます。これらのシステムは、ドライバーによる断続的な監視を必要とするものの、ドライバーは副次的な作業に従事することができます。Mercedes-BenzはSAEレベル3に該当するシステムをEQSとSクラスのモデルに搭載しており、SBD AutomotiveによるADASランキングにおいては、米国のADAS市場のトップOEMと評価されています。同システムは、LiDAR、12個の超音波センサー、複数のカメラを含む多数のセンサーで構成されています。
ADASが今日のパイロットドライブよりも
さらにインテリジェントになる可能性
現在、ADASで最も一般的なセンサーパッケージは、レーダーと前方を向いた単眼カメラを搭載することです。この比較的低コストの組み合わせにより、前方衝突警告、アダプティブクルーズコントロール、さらには自動ブレーキやステアリング操作を伴う衝突回避介入といった高度かつ重要な機能が実現します。
奥行きの認識と物体検出に関する課題への対策として、自動車メーカーは堅牢な性能を実現するためにステレオカメラや三焦点カメラを搭載していますが、それでも視界が悪い状況には完全に対応することはできません。このような状況に対処するため、長距離LiDARのような高性能センサー技術が注目されていますが、ほとんどの自動車メーカーにとって、価格が依然として大きな課題です。
自動運転ソリューションに対する消費者の信頼度や需要度とは別に、これらのL3ソリューションのさらなる普及と完全自動運転への進展における今後の主な課題には、コスト、技術的信頼性、システムの堅牢性/安全性があります。特に高速道路での運用には、LiDARのコスト削減や、より包括的なデジタルマップのカバレージが急務となっています。また、都市部や車両と他の道路利用者との十分な分離が困難な道路においては、さらなる技術的克服が求められます。AIを活用した技術革新が解決策の一部となる可能性はありますが、あらゆるエッジケースや事態を想定したトレーニングは現実的に不可能です。TeslaやCruise、Waymoなどが採用しているように、車両から収集した膨大な実データを基にモデルをトレーニングし、仮想的なエッジケースを大量に生成しトレーニングや検証に活用する競争が始まりつつあります。
交通事故の主要因となるドライバーの注意散漫と
スピード違反への対応
注意散漫やスピード違反などの行動要因は、依然として交通事故の主な原因となっています。2022年にアメリカ自動車協会(AAA)交通安全財団が発表したところによると、ドライバーの37%が運転中に携帯電話でメールやテキストを読んでおり、35%近くが住宅街で制限速度を10マイル超過していることを認めています。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の最新データによると、スピード違反による死亡事故は2012年から2021年の間に19%増加しています。
ドライバーモニタリングソリューションは、事故原因となり得る主要な人的要因に対処することを目的としています。SBDの調査によると、今後5年間で中国では新車の45%、米国ではさらに高く約70%にドライバーモニタリングシステムが搭載されるとみられます。これらのセンサーベースのソリューションは、注意散漫、スピード違反、眠気を検知し、ダッシュボード、音、触覚フィードバックを通じて警告を発します。先進的なシステムでは、ドライバーに向けたカメラを使ってドライバーの頭部や視線の位置を追跡し、さらにAIを使って典型的な行動をベースライン化します。これにより、注意散漫を示す基準値からのリアルタイムの逸脱を特定し、より効果的に対応することが可能となり、さらにドライバーが反応しない場合には、車両を停止させることも考えられます。
交通事故多発地点における事故に関する統計データの活用
インテリジェントスピードアシスト(ISA)は、ドライバーが制限速度を超過していることを警告する機能で、一部の実装では、駆動力を低下させることによって車両の速度を制限することも可能です。欧州の法規制では、2022年からすべての新車にISA警告が義務付けられていますが、速度制限機能は任意であり、常にドライバーがオーバーライドできる状態である必要があります。
ISAシステムは、制限速度データ付きの車載デジタルマップ、カメラとコンピュータービジョンアルゴリズムに基づく交通標識認識、またはその両方を組み合わせて制限速度を検出します。FordのBlueCruiseやGMのSuper Cruiseのような量産型のSAE L2+ソリューションの中には、詳細な地図データとセンサーを組み合わせて、地図が十分に整備された高速道路でのハンズフリー運転を可能にするものもあります。事故多発地域のデータをISAやSAE L2+ソリューションの補完に使用し、ドライバーに危険箇所を警告したり、ハンズフリー運転を無効にしたり、あるいは車両の速度を制限することで、事故のリスクを最小限に抑えられる可能性があります。
都市環境における交通弱者支援と物体認識の向上に関する課題
現在の技術水準では、高速道路における「ハンズオフ、アイズオフ」走行が可能ですが、都市部において同様の安全機能を適用するには、克服すべき大きな課題があります。都市部は非常にダイナミックな環境であり、そこに共存する歩行者、自転車、その他の道路利用者の予測不可能な動きに加え、歩道の境界線、駐停車中の車両、道路標識のような静的な物体が視覚的な複雑さを増しており、物体認識の精度向上は一層難しくなっています。
今後5年間の進歩には、リアルタイムで空間をマッピングできる高品質のセンサーと、他の道路利用者の動きを確実に識別・予測できる、合成された膨大なデータセットでトレーニングされたAIモデルが不可欠になると思われます。リアルタイム処理の改善と計算負荷のコスト削減が、こうしたシステムが主流となるための重要なイネーブラーになるでしょう。
SBD Automotiveについて
英国を本拠とする自動車技術の調査・コンサルティング会社。1995年の創業以来、日本、欧州(英国とドイツ)、米国、中国の拠点から自動車業界に携わるクライアントをグローバルにサポートしている。クライアントは自動車メーカー、サプライヤー、保険業界、通信業界、政府・公的機関、研究機関など自動車業界のバリューチェーン全体にわたる。調査対象エリアは、欧州、北米、中国、ブラジル、インド、ロシア、東南アジアなど世界各国の市場を網羅。自動車セキュリティおよびIT、コネクテッドカー、自動運転などの分野において調査を実施、各種レポートやコンサルティングサービスを提供する。 >>ウェブサイト