プレミアムセグメントの自動運転 by 清水和夫


2017/9/18

 

1) アウディ新型A8 世界初のレベル3

自動運転開発責任者 アレハンドロ・ヴコティヒ氏に聞く

 新型A8に搭載する「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」はレベル3を目指して開発してきた。現段階でドイツ国内法(道路交通法)ではドライバー責任が規定されているが、高速道路の渋滞のみ(時速60km以下)、ドライバー責任を免除し、レベル3が可能になることをドイツ政府に申請している。この申請が認可されると、ドライバーはハンズオフしてサブタスクを行うことが可能となり、渋滞時の車内の過ごし方が大きく変わる。

 また、多くの人が心配する責任問題について、アウディではシステムが運転している際に技術的な原因で起きた事故に関してはメーカー側の責任と明言している。そのために事故時のデータはデーターレコーダーに記録されることになる。ドイツの法律では車の所有者に事故の責任があるため、所有者は保険に入り、保険会社が調査をしてクルマに起因する事故だと認定されれば当然それはメーカーの責任ということになる。

 ところでEUでは国によって法律が異なるため、各国で討議が重ねられている。アウディが考える初期的なレベル3はドライバーのサブタスクは限定的で、システムがドライバーをモニターできる範囲に限定している。システムからのトランジッションタイム(権限移譲)は10秒で、ドライバーがシステムからの要請を受け入れないときは自動で緊急停止する。

 自動レーンチェンジ・システムはあえて搭載していない。変更するレーンを高速で走る後続車の認識に自信が持てないためだ。また、システムのロバスト性を高めるために 冗長性(Redundancy)が重要で、たとえば電源に関しては48Vと12Vの二重の電源システムを持つ。法律問題が100%クリアされたわけではないが、2018年度にはEUの一部の国ではレベル3で走れるかもしれない。

 

 アウディA8には、レベル3を目指して開発してきた「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」が搭載される

 

2) 新型メルセデス・ベンツSクラス

高度に洗練したレベル2(メルセデス談)

 新型Sクラスには、「アクティブ・ディスタンス・アシスト・ディストロニック」が導入され、カーナビで登録した目的地まで、自動で加速と減速を行ってくれる。例えば高速道路の出口、ランナバウトでは自動的に速度が減速される。HEREの地図から道のカーブを想定し、自動で速度が調整されるが、その加減速が見事な完成度であった。街のゾーン30(最高速度30 km/h規制の生活道路)に近づくと、カメラは規制表示版を読み取る。

 また、「アクティブ・スピード・リミットアシスト」も搭載し、「トラフィック・サイン・アシスト」と連携しながら道路工事による速度制限の標識を読み取り、制限速度まで自動で減速する。自動レーンチェンジは搭載されているが、ハンズオフは禁止の前提でシステムが設計されている。ドライバーが警報を無視すると自動で緊急停止するのはアウディと同じ。

 メルセデスは「レベル3はまだ難しい」と考えているが、アウディA8の限定的なレベル3が認可されるなら、ライバルメーカーは即座に対応する準備は進めている。しかし、レベル3を急ぐよりも高度なレベル2を普及させることを優先する考えだ。Sクラスと同様のシステムは次期Aクラス(2019年モデル)に搭載される。

 だが、ADASの技術を使ってアクティブ・サスペンションと連携させたマジック・カーペットは見事に走りの質を高めている。段差をカメラで認識すると、油圧サスペンションが段差のショックを緩和させるなど、レベル2であってもプレミアムカーとしての価値は高まっている。

 特に、ドイツのカントリー路の上限、100km/hで曲がるコーナーは実に安定していた。それは試乗したS560にアクティブ・サスペンションが搭載されていたのだが、横Gで発生するロールを制御し、コーナーのイン側の車輪が沈み込むように姿勢変化させていたためだ。いわゆるマジック・カーペットと呼ばれるアクティブ・サスは、2013年に登場したが、ステレオカメラで路面の凹凸をスキャンするシステムだが、その精度が高められ、秒速50mの速度でも路面変化に対応。180km/hまで作動可能になったという。実際、ビロードの絨毯の上を流れるように走る感覚は、BMWやアウディとは異なり、「トロトロした柔らかい走り味」はたっぷりと煮込んだシチューのような味わいだった。

 また、同一車線内において歩行者を検知して緊急ブレーキを作動させて自動操舵で回避するシステムの実用化や、スマートフォンで縦列・並列駐車ができる“リモートパーキングアシスト”など、安全性と快適性を進化させ続けるメルセデスらしいテクノロジーが今回のSクラスには満載されている。プレミアムサルーンの世界を牽引しながら新しい価値観の追及に終わりはないようだ。
 

洗練されたレベル2を実現させた新型メルセデス・ベンツS560

 

3) 新型レクサスLS 高度なドライバー・アシスト・システム

 2017年1月、アメリカのデトロイトショーで華々しくデビューしたレクサスLSは日本を代表するフラッグシップであることに疑いの余地はない。今年の秋頃市販が予定される新型レクサスLSは洗練されたパワートレーンやシャシー性能、さらに高度な運転支援が満載されている。新型レクサスLSは今年の6月に日本で正式に発表された。その時のプレゼンテーションでは話題となっている自動運転技術に関して、先進技術を統括する伊勢清貴専務はあえて「自動」という言葉を使わず、あくまでも高度な運転支援システムであると述べていたことが印象的だった。トヨタとレクサスは自動運転のコンセプトに「チームメイト」という言葉を重視している。今回、レクサスLSに搭載される「Lexus Safety System + A 」を女満別に位置する株式会社デンソーのテストコースで体験してきたので報告する。

 今回の試乗会ではレクサスLSに搭載される7つのシステムが紹介されたが、従来から実用化されている技術を合わせると数多くの機能が存在する。こうしたシステムを個別に説明しても、言葉だけでは分かりにくい部分もあるので、私流に2つのテーマにセグメントして説明してみたい。実際に色々なドライバー・アシスト・システムを使ってきた経験では場面場面で感じるのは「安心安全」と「便利快適」という感覚なので、この分類で最新のシステムを説明してみよう。

 

 対歩行者PCS(プリ・クラッシュセイフティ)を実証するレクサスLS

 

<安全と安心のためのシステム>

対歩行者PCS(プリ・クラッシュセイフティ)

 新しいシステムとして注目するのは、歩行者を検知して、自動的にステアリング操作を介入させながら、緊急的に自動停止する対歩行者PCS(プリ・クラッシュセイフティ)だ。今年市販されるメルセデス・ベンツSクラスにも同様のシステムが実用化されるが、同じ時期にレクサスとメルセデスが実用化したことは興味深い。歩行者が巻き込まれる事故は日本だけでなく、アメリカでも増加しているという。主にカメラで歩行者を認識し、同一車線内に限定してステアリングで補助しながら、停止する。今回のテストでは時速60km/hくらいで車線の左側を走行し、同一車線上にいる歩行者を検知。クルマと歩行者の位置の条件を絞っていたが、実際は様々なケースが想定される。どのくらいの効果があるのか、未知数なところもあるが、歩行者の重傷死亡事故を減らすきっかけとなれば幸いだ。仮に歩行者とぶつかっても、速度が下がればその被害(傷害)も低減できるはずだ。ちなみに同一車線に限定している理由の一つがR79という自動操舵に関する国連法規があるからだ。EUや日本はこの基準の緩和を段階的に取り決めているので、近い将来は周囲の安全を確保した上で、さらに大胆に回避できるようになるかもしれない。

ドライバー異常時停車支援システム(デッドマン=LTA連動)

 レベル3の自動運転ではシステムと人の間で運転が移譲されるため、ドライバーをモニターする必要がある。だが、レベル3でなくても(レベル1~2でも)ドライバーの意識喪失でクルマが暴走する問題を解決したい。そこで国土交通省の車両安全対策委員会では数年前からデットマン・システムの導入を検討してきたが、今回レクサスLSが、初めて本格的にデッドマンシステムを実用化した。車線を維持するレーントレーシングアシスト(LTA)も連動している。 実際にテストしてみると、高速道路をACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とLTAを使って走行しているときに、もしドライバーの意識がなくなると、まず速度を70Km/h前後までゆっくりと減速する。急な減速は追突のリスクがあるからだ。このケースではすぐに緊急停止するわけではなく、後続車に衝突の危険を回避させる時間的な余裕を与えていることが大切だとレクサスの担当者は述べている。さらに45km/hくらいまで減速すると、クラクションとハザードで異常事態を周囲に知らせ、最終的には停止する。しかし、システムは電動パーキングブレーキを作動させて、ドアロックを解除し、レスキューを受け入れやすくする。同時に「ヘルプネット」に救助を依頼する。

FCTA(フロント・クロストラフィック・アラート)

 このFCTAは見通しの悪い交差点などで、他の車両が接近すると、前の側方レーダーで検知し、HUD(ヘッドアップディスプレイ)で注意喚起するシステムだ。もし接近車両を無視して前進すると音などで警告する。このシステムは従来のブラインド・スポットモニター(隣の車線で後方から接近する車両を警告)と同じように、ドライバーのうっかりミスをなくす「安心感」のあるありがたいシステムだと思った。

パーキングサポートブレーキ

 このシステムは従来から実用化している「インテリジェント・クリアランス・ソナー(ICS、ペダル踏み間違い防止)」やバックしている際の接近車両との衝突回避可能な「リヤクロス・トラフィック・オートブレーキ(RCTAB)」に加えて、後方の歩行者検知システムも機能する。実際にクルマで面倒なのは駐車だ。大きいクルマほど神経を使うのは周囲が見えにくくなっているからだ。レクサスLSが採用したシステムでは後方の子供もしっかりと認知してくれるので、安心だ。
 

レーントレーシングアシスト(LTA)では地図からコーナーの曲がり具合を想定し、速度を自動調整する

 

<快適便利のためのシステム>

レーントレーシングアシスト(LTA)

 すでにメルセデス・ベンツSクラスが欧州で実現したように、地図からコーナーの曲がり具合を想定し、速度を自動で調整するシステムだ。従来のACCでは設定速度を上限とし、前車がいればその車間を維持して走ることしかできなかったが、LTAが備わったことで、単独で走っていても、コーナーを安全に曲がれる速度に調整してくれる。実際にテストしたケースでは時速90kmを超えて走行していても、高速コーナーが近づくと、僅かに減速してくれる。さらにコーナーの出口に向けて、スムースに再加速する丁寧なドライビングはメルセデスSクラスと同じだった。HUD(ヘッドアップディスプレイ)に自車の実勢速度と設定速度が表示され、とても見やすい。

レーンチェンジアシスト(LCA)

 テスラやメルセデス・BMWが実用化した自動で車線変更するLCAはどこまで便利なシステムなのか疑問もあるが、レクサスLSはドライバーの意思を明確にシステムに伝えるためにウィンカーレバーを半分押してから機能するように工夫している。ブラインド・スポットで隣のレーンが安全であることを確認してから、自動操舵が機能する。車線変更が完了すると、自動的にウィンカーは終了する。レーンチェンジ可能であると判断すると、青く太い矢印がHUDに表示されるのはとてもわかりやすい。実際の動きはかなり安全を優先しているので、車線変更がゆっくりだ。セッカチな私には耐えられそうもない。だが課題はそこではなく、自動操舵の基準が今後どのように制定されるのかによって、システムの機能に影響があるところだ。まだ自動操舵は始まったばかりなので、現状のLCAに大きな期待は寄せられない。近いうちにレベル3を実用化したいと考えているアウディはLCAにはまだ懐疑的な考えを示している。アウトバーンでは200km/h以上のスピードで接近するクルマもいるので、現状のセンサーではまだ性能が不十分だと考えている。とは言え、色々なケーススタディを考慮して開発されただけあって、安心できるシステムに進化できるだろう。

ACC&ロードサインアシスト(RSA)

 カメラによって標識を読み込むシステムは世界中のメーカーが研究しているが、認知判断は問題なくても、そもそも道路標識がドライバー(AIシステム)にとって使いやすくなっているのか、疑問も残る。樹木によって看板が見えないケースもあるし、他車のケースでは30を80と誤判定することもある。従来のインフラで用意される標識を読むよりも、将来は地図から情報を得ることが望ましいと思った。

 

 

 今回レクサスLSに採用された様々なシステムは高度なドライバー支援システムである。中途半端なレベル3(半自動運転)よりも成熟した運転支援は実際のユースケースでは快適で、安心感が増す。クルマの自動化ばかりが話題になるが、高度に洗練された運転支援の価値はさらに進化するだろう。その意味では高度なレベル2の価値を十分に感じることができた。

 

コメントは受け付けていません。