多様な選択肢から示される“わたしだけの経路”ーナビタイムとMaaSー


あらゆるモビリティをシームレスかつストレスなく利用できたら、どれほど人々は自由になれるだろう。移動の自由は世界を広げ、豊かさをもたらす。その実現のためには車両などハードウェアの進化だけでなく、ハードウェアを使いこなすソフトウェアの発展が欠かせない。経路検索エンジンを提供する株式会社ナビタイムジャパン 取締役副社長 兼 最高技術責任者 菊池新氏に、MaaSをテーマに話を聞いた。

 

Date:2018/11/15
Text&Photo:ReVision Auto & Mobility編集部
聞き手:株式会社サイエンスデザイン 林愛子

 

路線バス100%対応のオンリーワンサービス

――MaaS(Mobility as a Service)は2018年の流行語と言ってよいほど、広く浸透しました。御社事業はまさにMaaSだと思うのですが、昨今の動向をどのようにとらえていますか?

ナビタイムジャパン 菊池 新氏

菊池氏 当社は2000年3月に「経路探索エンジンの技術で世界の産業に奉仕する」を経営理念に掲げて創業し、翌年12月からナビゲーション総合サービス「NAVITIME」の提供を開始しました。最近はおっしゃるとおり、MaaSが注目され、問い合わせもありますが、我々は特に意識しているわけではありません。創業以来、変わらず、あらゆる交通手段をつないだトータルナビゲーションサービスを提供しています。

 ただ、事業環境は変化してきて、最近はカーシェアリングやサイクルシェリングなど、交通手段が多様化してきました。

 東京都区部は公共交通が発達していますが、便利な経路がない場所も存在します。たとえば、南青山と六本木は近いのですが、両者を直接つなぐ公共交通がなく、意外に時間がかかります。しかし、最近はシェアサイクルのおかげで自転車でも行けるようになりました。少々遠回りでも地下鉄で移動したい人もいれば、天気が良ければ自転車がいいと思う人もいるでしょう。当社としてはユーザーに多様な選択肢を提示したいので、交通手段の多様化は歓迎すべき流れだと思っています。

――他社の同種サービスと比べて、御社の『ナビタイム』は圧倒的な多様性が特徴です

菊池氏 日本全国の路線バス515社に対応するのは当社だけです。11年前から全国各地のバス会社を訪問し、当社サービスにご協力いただく意義を説明して、このほど路線バス100%対応を実現しました。この『ナビタイム全国バスデータ整備プロジェクト』は2018年度グッドデザイン賞ベスト100にも選出されています。

 実は、路線バスとの連携には電車と違った大変さがありました。いわゆる時刻表改正は年一回ですが、通学利用者が多い路線では夏休みに朝夕の便を運休するなど、こまめに運行スケジュールを変えているケースがあるのです。システム側はその都度メンテナンスが必要ですから、電車よりも工数が多いです。また、停留所のプロットも駅以上に大変でした。事業者自身がバス停の位置情報を持っていないケースがほとんどでしたから、地道に調べて対応させました。

 地域のコミュニティバスについては全国の3分の1ほどに対応しています。同じバスとはいえ、路線バスは企業による運営で、コミュニティバスは自治体による運営という違いがあります。自治体の数は全国1700ほど。そのうちの約1400がコミュニティバスを運用しています。そのすべてと連携するには時間がかかりますが、あらゆる交通手段をつなぐことに意味があるので、路線バス同様100%を目指して取り組んでいます。

 

今後のテーマは決済機能への対応

――ユーザーにとってはますます便利になりそうですが、多様性に対応するほどに経路検索エンジンには負荷が高まっていくのではないでしょうか

菊池氏 確かに取り扱うデータ量が多いほど、回答を出すのに時間がかかりますから、演算装置を含むハードウェアとアルゴリズムの双方から研究を続けています。

 また、「本当は検索の際に考慮したいけれど、計算のリソースが足りないので、あえて加えていない」要素もあります。代表的なものが天気です。気象状況をリアルタイムで計算に反映できれば、もっと良い選択肢を提示できると思います。天気が良い日はシェアサイクルの経路も表示するとか、雨が降ってきたら屋外の移動を最小化する経路を優先表示するとか、そういった細やかな提案ができるわけです。

――MaaSでは多くの事業者と連携し、サービスを拡充させていく必要がありますが、御社では今後どの領域を強化していこうとお考えでしょうか

 菊池氏 決済機能は必須だと思っています。ユーザーにとっては、ナビタイムで経路検索して、そのままオンラインで一括決済ができれば便利ですよね。

 現状は各交通事業者さまが自社で決済に対応しておられます。窓口対応が必要なサービスもまだまだありますが、いずれは決済も含めてすべてがオンライン対応になるでしょう。そうなったとき、交通事業者各社が他社と連携して決済することは非現実的ですから、各社とのネットワークを持つ当社のようなサービス会社が一括決済に対応するのが、ユーザーにとっても、交通事業者にとっても、良いだろうと思っています。

 交通事業者は連携に必要なAPI(Application Programming Interface)等を公開することになりますが、決済システムを自前で用意する必要がなくなるので、その分、本来業務に注力していただくことができます。

 オンラインの一括決済システムは現在運用されている交通系ICカードのシステムがベースにできるのではと考えています。日本の交通系ICカードは全国に巨大なネットワークが確立されており、機能面でもサービス面でも世界に誇れる水準にあります。予約システムとの連動や、各社サービスのログイン情報の統合化など、これから検討しなければならない課題は山積していますが、これからの社会にとって必要不可欠なサービスですから、前向きに取り組んでいきたいと思っています。

 


菊池氏も登壇予定の「ReVision Mobility第2回セミナー&交流会」は11月21日開催です。


 

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