モビリティショーに吹いた西高東低の風の行方


日本自動車工業会が主催する「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー)」が東京ビッグサイトで開催された(2023年10月26日から11月5日、一般公開は10月28日から)。来場者数111万2000人は名称を刷新して臨んだ初回イベントとしては大成功だったが、いわゆる自動車業界とモビリティ業界との温度差を改めて感じる場でもあった。

Date:2023/11/13
Text&Photo:サイエンスデザイン 林愛子

 

東京ビッグサイトで開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」(提供:日本自動車工業会)

 

東京モーターショー(以下、TMS)からJAPAN MOBILITY SHOW(以下、JMS)へーー。慣れ親しんだモーターの文字がなくなるのは寂しいが、このパラダイムシフトともいえる大きな変化は起こるべくして起こったものだと言える。

TMSは1954年に全日本自動車ショウとして始まり、多少の変動はありつつ発展を続けてきた。しかし、リーマンショックや米国BIG3(GM、フォード、クライスラー)の経営危機を機に冬の時代を迎える。この苦境はTMSだけの話ではなく、ドイツやパリのモーターショーも低迷したが、自工会は豊田会長のリーダーシップで立て直しを図り、2019年TMSは東京オリンピック・パラリンピックのため会場が変則的になりながら、近年最多の130万人の来場者を集めた。

しかし、その年の末から新型コロナウイルスが猛威を振るう。2021年、自工会は史上初めてTMS開催中止を決定し、同時に「次回はモビリティショー」とすることを発表。ドイツのIAA、通称フランクフルトモーターショーも2021年からIAAモビリティに名を改め、開催地をミュンヘンに変更したので“そういう時代だった”と言ってよいのかもしれない。かくして、「第47回東京モーターショー2021」は幻となり、TMSとしての歴史も幕を閉じた。

会場がどよめいたスバルのプレゼンテーション

イベント名で「モビリティ」を掲げたのは今年が初めてだが、2019年のTMSでもモビリティはかなり意識されていた。海外メーカーの参加が見込めないため「業界を超えてオールインダストリー」として出展社の枠を広げ、e-スポーツやドローンなどの展示、パーソナルモビリティや電動キックボード、オリパラ会場向けの自動運転車両の試乗などを用意した。

一方で、トヨタは当時社長だった豊田氏のを模したアバターがスピーチを披露し、日野自動車は架空の未来の社長と現社長が掛け合いを見せ、レクサスやメルセデス・ベンツのショーアップしたコンセプトカーは会場を彩った。この年は伝統ある自動車業界がモビリティ業界に胸を貸すような、王者の風格、ある種の余裕を見せていたように思う。

 

多様なモビリティが並んだ「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」オープニングセレモニー
(提供:日本自動車工業会)

 

今年のJMSにその雰囲気はなかった。確かに、イベント全体のテーマ「乗りたい未来を、探しに行こう!」は自動車業界にとっても違和感がない文言だし、東京ビッグサイトの東展示棟1~6ホールには自動車メーカーのブースが並び、「ここがメイン」という感じはあった。また、レクサスのコンセプトモデルやホンダの小型モビリティなどは誰もが楽しめるものであると同時に、TMSを長年見てきたファンにとっては技術的な歩みや変化を目の当たりにできる展示であり、継続的なイベントの意義を見出すこともできる。

しかし、会場に覇気がない。初日の記者向けのカンファレンスはトヨタから始まって主要メーカーを順に回るのだが、良くも悪くも優等生ばかりだった。スクリーンでは多様性に配慮した映像を流し、プレゼンターは安全・安心、人に優しく、環境配慮という3要素に、走る楽しさなど自社のこだわりを織り交ぜてそつなくスピーチをこなす。かけていた布をさっと外してコンセプトモデルをお披露目するショーらしい演出もなされたが、かつてのTMSのような新鮮さや高揚感はなかった。

そうしたなかで、目を見張ったのがスバルのカンファレンスだ。EVコンセプトモデル「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」をお披露目したあと、暗転したステージ後方から円盤型の「SUBARU AIR MOBILITY Concept」が飛び出してくると、会場からはどよめきが上がった。

今回は実際に飛んでいるわけではなく、6個のプロペラとコンパクトなコックピットを備えたボディは頑丈なアームで支えられている。しかし、映画『未知との遭遇』を髣髴する照明の効果もあって、モビリティの可能性や移動の未来像にワクワクする心地だった。スバルは1917年創設の飛行機研究所を源流とし、中島飛行機として空の移動を実現してきた歴史を持つ。航空宇宙と自動車のエンジニアの協業のもと飛行実証を進めているというエアモビリティの進化に期待せずにいられない。

 

空のモビリティ「SUBARU AIR MOBILITY Concept」と、EVコンセプト「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」

6個のプロペラで有人飛行を可能とする「SUBARU AIR MOBILITY Concept」。フロント部分にはしっかりスバルのロゴが刻まれている

 

会場内に吹く西高東低の風は本物か、それとも?

東展示棟1~6ホールが優等生ぞろいだったのに対して、そのほかの展示棟は個性豊かな技術を披露するスタートアップや、モビリティという言葉を柔軟に表現する企画コーナーがあり、躍動感や活気が感じられたように思う。

たとえば、西展示棟1階は「東京フューチャーツアー」という、来場者にさまざまな形で未来のモビリティを体感してもらう場だった。三精テクノロジーズの新型の4足歩行型ライド「SR-02」、デンソーの水素を発生させられる巨大な「H₂」型ブランコなど、実際に見て触れられる展示が充実していた。また、ベアリングや油圧のように、モビリティに欠かせないけれども地味な技術を、来場者が楽しみながら学べる工夫もあった。

南展示棟では2019年のTMSでも好評だったキッザニアとのコラボ企画「Out of KidZania in JMS 2023」が開催されたほか、「コラボレーション」コーナーではツバメインダストリのロボット「アーカックス」などが展示された。アーカックスは『機動戦士ガンダム』のモビルスーツのごとく、人間が乗り込んで操作するというコンセプトに特徴がある。

モビリティという言葉は浸透しているが、ときに解釈が揺らぎ、確固たる定義があるようでないように思う。つまり、それだけ自由度が高く可能性があるということであり、JMSのような場で業界や産業の垣根を越えて対話する意味があるのではないか。今回の出展社数は475。近年のTMSは200社にも届かなかったが、公式サイトで「自動車産業は550万人、モビリティ産業では850万人」と示しているように、モビリティ業界にも積極的に働きかけたことで、出展社数は過去最多を記録した。

だからこそ、東1~6ホールと、ほかのホールや展示棟との温度差が心配になる。TMSからJMSとなり、主役がモビリティになったわけだが、それは自動車が主役の座を降りたということではない。これまで移動の自由を実現してきた自動車業界にこそ、不確かなモビリティを確かなものにしていく役割を担ってほしい。

自工会会長は通常2年交代だが、豊田会長は異例の3期目で、2019年にTMSを立て直し、2023年に名称を含むイベントそのものを刷新した。次回はどうなるだろうか。JMS最終日のイベントでは「毎年開催」という声もあがったという。いまからJMS2024を実現することは難しいだろうが、それが必要なくらい技術の進化が早く、人びとの関心も移ろいやすい。JMS2025を成功に導けるかどうか、次期自工会会長の手腕が問われている。

 

トヨタのプレスカンファレンスの一コマ。ぜひクルマの未来を変えていってほしい

 

 

 

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