EV充電、オフピーク時への需要シフトで数十億米ドル規模のコスト削減目指す


eモビリティ分野の市場調査を精力的に実施しているPower Technology Research社(本社米国)が、電気自動車(EV)向け充電設備市場に関する調査をまとめた。同社の調査によると、EV充電市場では、交流(AC)充電から直流(DC)急速充電への移行が進んでいる。EV市場では当初、AC充電器が主流であったが、直近の10年間(2010年〜2020年)では、夜間のAC普通充電からDC急速充電へのシフトが顕著だ。“走行距離不安症”を解消するための急速充電ニーズの高まり、AC充電より優れたエネルギー効率性、バッテリーのサイズアップにより一部のAC充電で対応ができなくなった点などが主な要因と考えられる。当レポートでは、EV普及による送電網への影響ならびにその解決策について提言している。

Date:2021/09/16

※このレポートはグロ-バルインフォメ-ションより提供いただき掲載しています。

 

 

EVが送電網へ及ぼす影響

電力部門の発電面では、EVの普及率が高まると、電力系統の供給予備力 (i)が減少する。

供給予備力の減少は、システムの信頼性の低下を意味し、発電能力の増強が必要とされる。また、供給予備力は、地域の状況や発電の性質によっても異なる。例えば、米国の電気信頼性評議会(NERC)では、火力発電所に15%、水力発電所に10%の供給予備力を割り当てている。

EV充電により配電変圧器には大きな負荷が掛かり、それが変圧器の寿命を縮めることに繋がる。変圧器への影響が制御不能なほど進行すると、メンテナンスの必要性が高まり、変圧器の早期交換が求められる。

EV充電による変圧器への影響を軽減させるには、次の2つのことが必要となる。まず、システム毎の負荷プロファイルを把握するため、配電用変圧器と充電ステーション間に双方向通信を導入することだ。その上で、消費者の充電の傾向が制御できれば、変圧器にとって悪影響の少ないスムーズな負荷プロファイルを維持しつつ、充電の需要を満たすことが可能となる。次に、配電事業者(DisCos)による配電線の整備だ。これに伴い、追加のメンテナンスや導体の交換、システム全体の容量増加が必要になる場合もあり得るだろう。

 

送電網の整備費

送電網の整備費は、電力会社がほぼ全額負担する。電力会社は、EV充電による売上の増加により、費用の一部は回収できる見込みだが、電気料金の値上げは避けられないだろう。EVの導入が進むにつれ、電力会社による投資額は急激に増加すると考えられ、これは後々の電気料金の上昇に繋がるだろう。

 

超急速充電対応の送電網インフラ:整備状況と今後の見通し

Power Technology Research社の調べでは、2025年までに道路沿いの充電設備の大半は高出力DCカテゴリ(150~500KW)になる見込みだ。これに伴い、企業ならびにホテルやレストランなどの土地所有者が公共用に設置予定のEV充電設備も、高出力DC充電が中心になるだろう。送電網は、超急速充電による高負荷化が懸念される。送電網の補強や交換に向けた多額の投資など、長期計画に基づく対応が求められる。

今後、電気トラック用充電ステーションは全て中電圧送電網に接続されるだろう。数メガワットの容量を備える中電圧送電網は、低電圧に比べ、配電面で悪影響を受けにくい。

 

利用時間の最適化と双方向通信

ピーク時の需要を抑えるためには、EV充電を利用する時間帯の最適化が不可欠だ。消費者に対し、オフピーク時の充電にインセンティブを与えることで、ピークシフトは実現可能である。公共用充電は日中に、住宅用充電では夜間にそれぞれピークを迎える。時間帯別料金は、定額制とは異なり、ピーク時とオフピーク時で電気料金が異なる。EV充電による送電網への影響を軽減するため、時間帯別料金制を導入し、需要をオフピーク時にシフトさせることが不可欠だ。これにより、発電能力の増強に必要な数十億米ドル相当のコストを削減できる。米国内でピーク時の需要を5%削減すれば、システム内に625基もの発電所を追加する必要が無くなるとの報告もある。

前述の通り、ピーク時の需要を減らし、変圧器への負荷や電圧を一定に管理するには、送電網とEV充電器間の双方向通信が特に重要となる。市販の充電器にはすでにその機能が備わっている。図1が示すように、V2G(Vehicle to Grid Integration)などの技術は、通信及び電力の双方向フローを可能にし、EVと送電網間の相互作用を最適化する。このV2Gの実現には、スマートグリッド技術が欠かせない。スマートグリッド導入後は、配電側で発生する送電ロスの低減や電圧の安定性などの問題が解消され、局所的なバランス調整が可能になる。

(図1)充電の種類 出典:Power Technology Research

 

今後の展望

EVが送電網に及ぼす影響を軽減し、送電網の信頼性を確保するためには、複数のアプローチの検討が必要だ。送電容量の追加は言うまでもないが、その他には、使用時間帯の最適化によるピーク時の需要削減、EVバッテリーの効率化による充電間隔の延長、局所的なグリッドバランス実現に向けた通信・電気双方向の往来を可能にするV2Gの実現などが求められる。

 

(i)供給予備力とは、供給が需要を上回る状態を確保することであり、余剰容量(容量からピーク需要を引いた値)を電力系統のピーク需要で割った値のパーセンテージで求められる。電力系統の供給予備力は、容量電力料金に相当する多額のコストによって維持されており、緊急時の電力不足を確実に回避するために不可欠とされる。

 

引用元:
年間契約型情報サービス: 公共および民間の電気自動車充電設備市場:充電ポイントタイプ、充電容量、充電設備アプリケーション、顧客タイプ、地域、国別の分析、予測および成長機会(2018年~2026年)
発行 Power Technology Research  出版日2021年08月27日


調査レポート販売代理店:株式会社グローバルインフォメーション

 

 

 

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