急速成長のインド電気バス市場:市内バスと都市間バスの分析


 インテリジェントオートメーション分野に関する市場調査の国際的なプロバイダーInteract Analysisによる電気バス市場調査において、インド市場は中国に続く世界第二位であり、急速成長を遂げているが、混乱や様々な要因により、市場成長の可能性を発揮しきれていない現状が浮き彫りにされている。
 Interact Analysisと㈱グローバルインフォメーションによる11月の共同開催セミナー「商用車・オフハイウェイ車の電動化トレンドと電池市場:市場現状と製品戦略」に先駆けて、Interact Analysisがインド電気バス市場を都市間バスと市内バスに分類し、それぞれの市場の特徴、政府によるイニシアティブなどを考察したホワイトペーパー(2018年10月1日発行)を紹介する。

 

Date:2019/09/19

※このレポートはGlobal Informationより提供いただき掲載しています。

 

 重量6トン超のバスの2017年世界販売台数約43万台のうち、インド市場は7万台超を占めており、インドのバス市場は世界市場で大きな存在感を示している。インドでのバス販売台数のうち、電気バスの占める割合がわずかであっても、中国に次ぐ世界第2位の市場となる

市場の構造

 インドのバス市場は、デューティサイクルに基づいて、都市間バスと市内バスの2つに分類される。都市間バスは、コストよりもバスの品質と快適さが重視され、民間の輸送事業者向けという傾向がある。市内バスはコスト偏重で、地方自治体が運営する公共輸送事業者向けという性格が強い。このため、都市間バスは高い品質が求められるバス、市内バスは「まずまずの品質で十分な」バスと言い換えることができる。

 Volvo Busesは、2001年に初めて入札を勝ち取って以来、都市間高級バス市場をゼロから作り上げた。質の低いバスの運行では維持費がかかり過ぎて、ビジネスとして成功させるのが難しかった長距離路線を実現可能にしたのである。結果として、Volvo Busesは高級バス市場において最大のシェアを有するようになった。一方、「まずまずの品質で十分な」市内バスは、短距離路線に対応するもので、Tata MotorsやAshok Leylandといったインドのメーカーが優勢となっている。これら二つの市場は、それぞれ異なるマクロ経済的な要因の影響を受けており、電動化への適合性もこれらの要因に左右されている。

 

市内電気バスの導入を促す社会的かつ経済的な要因

 Interact Analysisは、2018年初頭以降、公表されている市内電気バスの総発注数932台および発注予定を公式に発表された総計1,243台の市内電気バスの追跡調査を行っている。これは、中国を除く全世界の電気バス発注台数の24.9%に相当する。 

 

 

 市内電気バス市場の成長を下支えしているのは、電動化の追い風となっている複数の社会的、そして経済的要因である。第一に、インドでは、中間層が拡大し、環境汚染が健康に及ぼす悪影響への認識も高まっていることから、多くの都市が自動車の排出ガス削減に向けて公約しているという点である。インド政府も私有車削減のために、公共輸送システムを発展させる施策を前向きに検討している。排出ガスの主な原因のひとつである市内バスは、重要な政治課題であり、予測可能なデューティサイクルで運行されることから、電動化に適していると言える。

 社会的そして政治的な機運の高まりを踏まえ、インド政府はFaster Adoption and Manufacturing of Hybrid and Electric Vehicles (FAME) と呼ばれる積極的な電気自動車製造および販売の促進スキームを導入している。2015年に発表されたFAME補助金スキームの第一段階は、ハイブリッド車と電気自動車の需要サイドに補助金を出すというものである。当初のプログラムには含まれなかったが、2017年には、電気バス導入に際して、初期費用の60%を賄う補助金が設けられた。

 政府の補助金に加えて、インドの多くの公共輸送事業者はOPEXモデルを採用している。このモデルではOEMは、固定月額料金や走行距離ベースで計算される変動料金で事業者にバスを提供する。同じような地域において一連の路線で使用するために、事業者がOEMと契約を締結することから、クラスターモデルと呼ばれることもある。このOPEXモデルを採用することで、電気バス導入の主要な障壁のひとつであるバスのCAPEXが不要となる。

 インドの市内バス市場における潮目の変化を感じ取った国外の電気バス専門OEMの多くが、インドのメーカーと戦略的提携関係を構築している。ポーランドのSolaris Bus & Coachは、JBM Autoと合弁会社を設立し、Solarisの電動ドライブライン技術を利用した電気バスEcoLifeの開発を進める。また、世界最大の電気バスメーカーである中国のBYDは、Olectra Greentech (旧Goldstone Infratech) と戦略的提携を結び、BYDの電気バスK9のシャーシを利用した電気バスを生産する予定である。さらにBYDは、コスト削減とバスのローカル化を推進するため、カルナータカ州の工場建設に6,880万ドルの投資を行っている。 

 

 

市内電気バス市場拡大の障害となる可能性のある要因

 一見好ましい条件が揃っていると思われる市内電気バスの市場だが、その可能性はまだ完全に発揮されていない。主な障壁は「不透明感」である。FAME補助金を出しているインド重工業局 (DHI) は、OPEXモデルベースの電気バスへの補助金について最近まで迷走を続けていた。多くの地方自治体交通局は、補助金を受けても電気バス購入に十分なCAPEX予算を確保できない。しかし、この迷走状態では、予算不足の地方自治体交通局は、OPEXモデルを利用した補助金の申請に二の足を踏むと予想される。

 DHIの迷走に端を発するこの混乱の原因は、FAME補助金スキーム第二段階実施の度重なる延期にあると考えられる。この第二段階は、当初2017年3月31日実施予定であったが、2018年9月に4度目の延期で、さらに6カ月先となった。

 市内電気バスは、運航中のバスに比べれば優れているが、コスト偏重という点は変わらない。補助金がなければ、市内電気バス市場の成長は伸び悩み、普及率も低迷すると予想される。また、成長が見込めなければ、国内のOEMも、e-モビリティプログラムへの多額の投資には消極的となるだろう。e-モビリティのエコシステムを支えるインフラストラクチャの整備も同じ状況となる。 

 


強い逆風が吹く都市間電気バス市場

 都市間電気バス市場は、数多くの課題に直面している。その大半は、車両のデューティサイクルに関連している。第一に、都市間バスの路線距離は、最先端の電池を搭載した電気バスの航続距離よりもはるかに長い傾向があるという点である。例えば、利用者の多いバンガロール―ムンバイ路線は1,000キロメートル近くある。路線はインド各地に広がっているため、充電施設を全国に広く分散させる形で設置しなければならない。頻繁に利用される充電施設を都市内に数ヶ所設置するだけで済む市内バスと比較して、都市間バスではCAPEXが大きくなる。第二に、長距離路線では回生ブレーキを使用する機会が少ないため、電気バスのコスト効率のメリットが減るという点である。

 デューティサイクルにまつわる課題に加え、後発のOEMが製造する都市間高級バスに対する全体的な需要が低調で、電気バスの普及率が伸びないと予想されている。2018年6月には、スウェーデンのScaniaが、需要の低迷を理由に4年前から操業していたナラサプラの工場を閉鎖すると発表した。一方、欧州においてe-モビリティプログラムで成果を上げているスウェーデンのVolvo BusesとドイツのMercedes-Benzは、異なる路線を取るかもしれない。都市間高級バスの二大メーカーであるこの二社は、多くの欧州諸国では排気ガス規制をクリアできなくなったユーロ4およびユーロ5対応モデルを販売する市場として、インドの高級バス市場をターゲットにする可能性が高いと考えられる。

 さらに、ディーゼルエンジンを搭載したバスではなく、電気バスを購入するという判断は、現在も政治主導の色彩が強い。都市間バスの路線はひとつの都市のなかで完結しないため、電気バスへの切り替えを促す政治的そして社会的な圧力は、さほど大きくなさそうである。

競合企業各社の勢力図

 FAMEスキームの第二段階が実施されると、補助金は、電気バス導入の初期費用ではなく、インド国内でのリチウムイオン電池製造に振り向けられる可能性が高いと見られている。その場合には、国内OEMと最低限のローカル化を行っている合弁企業だけが国内で製造された電池の利用が可能となる。電池への補助金の副次的効果で、国内産電池を使うOEMは効率よくコストの削減ができるようになる。電気バスメーカーにとっては、インドで電気バス製造を完結させるための良い刺激となり、Make in Indiaイニシアティブの指針に沿うことにもなる。

 上述の結果、コスト重視の傾向が強い「まずまずの品質で十分な」市内電気バス市場では、国外OEMが国内メーカーと市場シェアを競うのは難しくなると予測される。インド政府による支援と保護のもとで、市内電気バスを製造する国内OEMは増加し、中国の新エネルギー車市場と同様に細分化された市場が生まれると予想される。細分化された市場では、シェア獲得に向けた激しい競争が展開されるだろう。補助金を段階的に削減し、インド政府が市場を自由化した後は、中国OEMとの競争となり、国内の小規模OEMは倒産する可能性がある。

 都市間高級バス市場における地位を確立するために、メーカー各社は困難に直面しており、この市場での電気バスの普及率は、既存メーカーの動きに影響を受けると推測される。また、市場を成長軌道に乗せるには、技術面や政治面のさまざまな障壁を克服する必要がある。

結論

 逆風は強いが、インドの電気バス市場は、他の国々よりも速いペースで成長を続けている。インド政府は、業界団体との定期的な会談を通じて、その政策が国内OEMのニーズに合致していることを確認している。モディ政権がある程度の成功を収めているのは、こうした姿勢によるものである。

 市内バスの市場は、政治情勢や経済的に有利な運用モデルという点で、電動化に適している。しかし、市場が持つ可能性を全面的に引き出すには、補助金の「明瞭さ」が必須であり、実施時期を滞りなく公表していく必要がある。


Interact Analysis・グローバルインフォメーション共同開催セミナー
「商用車・オフハイウェイ車の電動化トレンドと電池市場」

Interact Analysis社発行市場調査
調査レポート販売代理店:株式会社グローバルインフォメーション

 

 

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