新しいモビリティ潮流の中でEVが持つ潜在力とは‐12月19日開催ウェビナーレポート‐


第9回ReVision Premium Clubウェビナー「新しいモビリティ潮流の中でEVが持つ潜在力とは ―日本・中国の急速充電規格統一の動きをきっかけに―」が12月19日に開催された。講師は、一般社団法人チャデモ協議会 事務局長/日産自動車株式会社 渉外部担当部長 兼 グローバル技術渉外部主管 吉田 誠氏、株式会社日本電動化研究所 代表取締役 和田 憲一郎氏が務めた。

Date:2018/12/26

Text :住商アビーム自動車総合研究所
プリンシパル 川浦 秀之

 

超高出力急速充電規格と将来展望

 ウェビナーではまず吉田氏が講演を行った。

 吉田氏が事務局長を務めるCHAdeMO(チャデモ)協議会の現在の加盟数は42カ国の417法人。製造業のみならず電力会社、通信会社、認証団体、大学、自治体が加盟したコンソーシアム型の組織が特徴であり、昨今の電気自動車(EV)ブームにより会員数が急増中だという。CHAdeMO規格の急速充電器は現在71カ国に2万2000基あまりが設置されている。欧州では設置台数が約8000台で、さらに増加中。日本では約7000台。地理的にくまなく普及が進んだことにより伸びは鈍化しているという。

 協議会の方針はCHAdeMO仕様の急速充電器の普及を目指すことであるとし、地理的、機能的、対応車種のそれぞれの領域での拡大を目指すとした。

1.  地理的拡大:グローバル(Global)展開を目指すにあたりオープンプラットフォーム戦略をとり、安全性・互換性・グリッドへの影響を担保する「コア・プロトコール」を遵守すれば、充電器の設計・製造・認証・販売・仕様・修理については現地化(Local)を認める(Glocal戦略)


2.  対応車種の拡大:現在普及している50kW~150kWの仕様を核として、トラック・バスや建設機械・船舶・航空機用の350kW・500kW以上の大型のもの、トゥクトゥク・電動二輪車・小型モビリティ用の小型のものにCHAdeMO規格の展開を図る


3.  機能拡充:車載電池の容量が増加する前提で、分散電源としての利用(V2X)やIoTを活用した適切な充電スポットの提案等

 

 さらに、吉田氏は急速充電器の高出力化に伴う課題について解説した。

 現在のリチウムイオン電池では充電器の出力を上げても、充電時間の短縮には限界がある。100~150kWhの電池を搭載するEVには350kWの充電器は意味があるが、40kWhの日産Leafリーフを充電するならばオーバースペックだという。しかも、350kWの充電器は一般家庭30軒分の電力に相当することから、大電流による温度上昇、高電圧によるアーク放電など高出力化ならではの危険性がある。これらへの対策のためにケーブルは重くなり、充電器の挿抜性は悪化し、充電器のコストも高くなると指摘した。

 続いて吉田氏は2018年8月28日にCHAdeMO協議会と中国電力企業連合会が合意した新しい充電規格の共同開発に触れた。合意内容は「安全で信頼性が高く、互換性が担保された、拡張性のある規格を共同で作成すること」。具体的には、既存のCHAdeMOおよび、中国の国家標準規格GB/Tの充電器が無駄にならないよう、後方互換性を確保すること、CANを通信規格として採用すること、2020年に仕様を策定することに合意したと解説。

 この合意は、中国国内で20万台超が普及しているGB/Tと、71カ国で普及するCHAdeMOを掛け合わせることにより、数と面の両面で市場の拡大が見込まれることが利点だ。新たな規格案は現在、Chaojiという仮称で呼ばれている。最大値900kWを規格化する予定で、「現在までにCHAdeMOが仕様書を策定している350~400kWを超える規格は”Chaoji”として提供していきたい」と述べた。

 最後に吉田氏は前述の高出力充電器が普及した後の電気自動車の世界について言及した。

 2025年には、充電は非接触を含め自動化、最小化(充電時間が短くなる/気付かないうちに充電される)され、クルマは電源になるとし、消費者の指向がモノからコトへと変わるなかで、お客様の要望は「クルマを所有し自由に移動したい」から「移動したいときに適切なサービスが欲しい」に変化する。このとき重要なのは移動効率やコスト。所有の時代に求められた余裕を持った仕様は不要となり、用途にピッタリ合った仕様が求められるようになる。また現在競われているEVの電池の高容量化は「必要な航続距離に応じて選べるEV」へと変わると論じ、講演を締めくくった。

講師の和田氏(写真左)と吉田氏

 

世界的なMaaS潮流の中でEVはどう使われていくか

 続く和田氏の講演では初めに、11月に視察を行った中国の雄安新区について紹介した。北京の西、河北省に開発されている雄安新区は、習近平主席の主導で「国家千年の大計」として2017年4月に発表され開発が始まった。最終計画の総面積は1770平方キロメートル(香川県とほぼ同じ面積)、第一期の完成時期は2035年を予定。人口は当初は100万人、将来的には200~250万人が計画されているという。

 注目されているのは「北京首都機能の分散」「イノベーションによる発展モデルの育成」「キーワード『グリーン・協調・イノベーション・解放』」という建設目的で、これらを実現するための「世界一流のデジタル都市を目指す」「地下空間を活用(駐車場、ショッピングセンター等)」「域内は自動運転車のみ走行可能」が特徴だと述べた。

 新区のなかでは既に百度(バイドゥ)のアポロプロジェクトの自動運転車(GMの乗用車を改造)「NEOLIX」の無人搬送車が時速20km程度で実証実験を行っており、来年以降は数多くの自動車メーカーがここで自動運転を実現することを目指しているようだと指摘。街自体はまだ「市民サービスセンター」だけが完成している状況だが、将来的には北京・天津と高速鉄道で結ばれ、高速道路も開通予定、近隣に北京第二空港の建設も予定されていることから、今後の発展を毎年ウォッチしていく必要があると強調した。

 続いて和田氏は新エネ車の動向について解説した。

 2018年の中国の自動車販売台数は対前年比3%減の2800万台程度で、28年ぶりに減少する見込みながら、新エネ車は11月末までに既に103万台を販売しており、2017年通年の77万7000台を超え、120万台程度に着地の見込みで、新エネ車の販売が順調に拡大していると指摘。2019年から実施される中国のNEVクレジットは日中の販売台数から見ると日系メーカーにとっては達成のハードルが高く、達成できない場合は他社からクレジットを購入する必要があり、クレジット価格が暴騰する可能性があると警告した。

 最後に和田氏はMaaS(Mobility as a Service)について触れた。

 従来、自動車の電動化の目的は地球温暖化対策としてのCO2排出量削減、大気汚染を防止するためのゼロエミッション化と言われてきたが、9月に北欧を訪問し、「生活の向上→交通機関利用時のストレス軽減→効率のよい移動システムの導入→MaaS」という潮流が、新たな動きとして出てきていると言及した。

 和田氏はMaaSを「モビリティのサービス化、さまざまな交通機関を組み合わせて人の移動をシームレスに行うもの」と定義し、フィンランドのWhimのサービスを例に取り、クルマを所有していなくても便利に移動できることを解説、日本においても、JR東日本が「モビリティリンケージプラットフォーム」として従来の「駅から駅まで」のドメインを、「自宅から駅、駅から目的地」もドメインにしようという試みを行っていることを紹介した。

 また、2018年を日本におけるMaaS元年と位置づけ、日本版MaaSアライアンス(JCoMaaS)が12月3日に設立され、来年から具体的な動きがあるだろうとの予測を披露した。

 MaaSの普及後について、今自動車メーカーは販売会社を通じてエンドユーザーに自動車を販売しているが、MaaSプラットフォーマーが生まれると、従来のエンドユーザーはモビリティユーザーとなりMaaSプラットフォーマーからサービスを購入することとなり、自動車メーカーにとってはつらいことになると指摘する一方、MaaSになることでクルマの稼働率が高まり、消耗品の需要は増えるのではないかと予測、誰がMaaSプラットフォーマーになり、どのように普及していくか、が関心事であるとし、講演を締めくくった。

 続いて対談が行われ、視聴者から寄せられた質問にもリアルタイムで対応。「新しい充電規格の開発にあたり何故中国と組むのか」という質問に対して、吉田氏は「技術流出、知財、特許の問題を先ず訊かれるが、中国の市場規模を勘案し、技術流出して失う部分と相手から得る部分を考えると、得る部分の方が多いと考えた」「中国はEVを本気で普及しようとしており、欧州/米国のCOMBO規格に対するCHAdeMOの技術的優位を熟知した上でアプローチしてきた」と回答した。

 さらに、「 充電器は技術的には難しくない。プロトコールが胆。ノウハウは必要だがいずれはわかってしまう」「 その一方で、まだ差別化できる部分はある。高電圧・大電流を扱うため安全性が極めて重要であり、良いものを大量に作ることができる日本にとっては中国市場はオポチュニティと位置づけられる」「 中国からコスト削減/量産技術の吸収が可能になる」「中国の規格にもの申すことができるようになる。我々の意見が入った規格が中国の規格になるのは、世界最大のEV市場である中国でクルマを売っていく上で有利になる」と解説した。

 これに対し、和田氏は「CHAdeMOとGB/Tがタッグを組むことはCOMBO陣営とっては脅威のはずで、今後大容量の電池を搭載するEV大型トラックが市場投入されることも考えると、新規格の“Chaoji”は世界標準を狙えるのではないか」と指摘。吉田氏は、中国依存度が高い欧州メーカーは今回の共同開発に関心を持っていて、既に個別にアプローチがあり、採用する欧州メーカーが増えれば良いとの期待を述べた。

 最後に、和田氏は「EV化の進展にあたり、日系メーカーは従来の延長線上ではなく、ピンチをチャンスと捉える新しい切り口で取り組むことによりまだ伸びる可能性がある」、吉田氏は「EV/充電という括りではなく、世の中でこれから何が欲しがられるのか、一歩前に進み、引き続き市場に受け入れられるクルマを作っていく」と、それぞれの展望で締めくくった。

 


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