電動化へ技術力をどう生かすべきか ‐1月25日開催ウェビナーレポート ‐


トヨタ自動車パワートレーンカンパニー常務理事の安部静生氏と、自動車ジャーナリストで当媒体編集顧問の清水和夫氏を講師に、第1回ReVision Premium Clubウェビナーを1月25日午後5時から1時間30分実施した。テーマは「クルマの電動化が加速する中で日本企業が培ってきた技術力をどう生かしていくべきか」。今回から時間を30分長くしたことで講師同士のディスカッションがより深まり、視聴者から多くの質問やコメントが寄せられるなど活発な情報交流が行われた。

2018/2/1
住商アビーム自動車総合研究所
プリンシパル 川浦 秀之

 

 

清水氏講演「EV旋風を読み取る」

 ウェビナーでは、まず清水氏が「EV旋風を読み取る」と題して講演。電力の効率的な利用の観点から電気自動車(EV)が開発された日本に対して、世界的には人体に有害な排出ガスゼロを目指す米国カリフォルニア州のZero Emission Vehicle(ZEV)の取り組みの一環でEV開発がスタートしたという歴史を紹介。また、ゼネラルモーターズ(GM)が経営破綻した際に手放したトヨタ自動車との合弁会社NUMMIをテスラが買取り、その後、トヨタやメルセデス・ベンツ、パナソニックのサポートの下ではあるが、電動化と電脳化の点で新しい車を提示して世界の扉を開いたという点でテスラの貢献を評価した。

 続いて、EVを取り巻く様々な議論の検証の必要性を説き、論点整理を行った。

  • 1. ZEVとCO2削減

EVには大気・人体に有害な排出ガスを出さないZEVとしてのニーズと、燃費=CO2削減のニーズの2つがあることを解説。EVは走行中のCO2排出量(Tank to Wheel)がゼロなので、現在はこの方法でCO2排出量が計算されているが、本来は発電時に排出されるCO2も勘案した総合効率で見るべきであるとしてWell to Wheelの重要性を説き、EVの議論に際してはZEVとCO2削減の両側面を見ることで、地球環境に優しい、将来にわたりサステナブルな自動車技術が進むと結論づけた。

  • 2. 国・地域毎の事情

・日本: 53年規制とオイルショックにより課された厳しい排出ガス・燃費規制に正面から取り組んだ日本の自動車産業は高い環境技術を持つ

・ヨーロッパ:燃費測定法(ECE R101)の削減計数(Reduction Factor)によって数字上のメリットが大きいプラグインハイブリッド(PHV)へのシフトが見られる。

・米国: カリフォルニア州を中心としたZEVの厳しい排ガス規制が存在。

・中国: EV旋風の震源地だが、補助金が出ているため過度なEVシフトは財源問題を顕在化させる。

 最後に、多様化する電動技術を解説。48Vのマイルドハイブリッドを電動車両だというメーカーもあるが、日本は2モーターのストロングハイブリッドを軸としてハイブリッド車が発展。これに加えてシリーズハイブリッド、PHV、バッテリーEV、FCVなど電動技術が多様化してく中で、どの技術を、どの国・地域に、どのメーカーが、いかなる戦略を持って投入していくのかが大きな話題となっていることを紹介した。

 

安部氏講演「電動車両普及に向けたチャレンジ」

 安部氏は「トヨタ自動車における電動車両普及に向けたチャレンジ」と題して講演。まず「トヨタの目指す姿」として、持続可能な社会とお客様の笑顔のために「安心安全」「ワクドキ(感動)」「環境」の3つの価値提供を通じて着実に経営の基盤を固めながら持続的に成長するという考え方を説明。そのなかで、車をめぐる100年に一度の大改革を大きなチャンスとして捉え、「もっといいクルマづくり」に加え、電動化・情報化・知能化に戦略的に経営をシフトすることを宣言した。

 続いて電動化についての取り組みを説明。トヨタでは全方位の技術開発を進めていると説明。2030年に販売するトヨタの車のうち、50%以上を電動車とし10%以上をEV/FCVにする、という今後の電動車両の展開計画について解説した。また、これらのマイルストーンを達成するためには、商品・技術・社会基盤の全方位での取り組みが必要とし、それぞれの取り組みを詳しく説明した。

  • 1. 商品の取り組み

従来の棲み分けに囚われず、各々の電動車の商品多様化が電動車普及に向けて必要となる。HVは従来のハイブリッドシステムを磨き上げることに加え、スポーツ車、ハイパワー車、新興国向けにはワンモーターやマイルドハイブリッド等のアフォーダブルなハイブリッド等、お客様のニーズに合った様々なシステムを開発していく。

  • 2. 技術の取り組み

1997年のプリウスの発売以来、電動化技術・ノウハウを蓄積してきた。しかしながら、電動車550万台は異次元の世界であり、電動車の普及のためには電池がキーファクターとなる。2020年代前半の実用化を目指す全固体電池はより小型で安全、そして飛躍的な性能向上の可能性があるが、こうした技術をトヨタ単独で担うのは非常につらい状況であるため、トヨタはパナソニックと車載用角形電池分野での協業を発表した。

  • 3. 社会基盤の取り組み

モビリティの電動化と資源エネルギー問題は不可分の関係にある。従来から取り組んでいるHV用電池のリユースやリサイクルをEV用電池でも行うことを考えている。特に定置型蓄電池へのリユースについては、発電所や工場などの事業所での用途にも活動の幅を拡げ、電気エネルギー社会の発展に貢献できる取り組みを進めていく。

 「商品」「技術」「社会基盤」への取り組みは電動化だけでなく、情報化や知能化にもつながる。これらを戦略的に進め、もっといいクルマ、いい街、いい社会を作るための価値提供を行い、持続的な社会とお客様の笑顔に向けてこれからも活動を続けていく、と語った。

 

ディスカッション「これからの電動化車両普及へのアプローチ」

 講演に引き続き、「これからの電動化車両普及へのアプローチ」というテーマでディスカッションを行った。

 まず昨今のEVへの風潮をどう感じているかという清水氏からの問いかけに対して、安部氏はEV市販への要望が寄せられていることを明かした。テスラのようなお客様の心をつかむ電動車両を先んじて市場に投入できなかったことを反省しているとしつつ、2050年に向けたCO2削減計画については手を緩めておらず、EVはその一つの手段であり、CO2の削減が予定通り進むよう取り組んでいると強調。清水氏は、トヨタは地球環境に本当に利のあることへ軸をぶらさずに取り組んでいるとし、トヨタの考え方、哲学を理解しなければいけないと説いた。

 シリーズハイブリッドに関連し、清水氏が日産自動車のノートe-Powerについての意見を求めたところ、安部氏は「他社のことに言及するのは得意ではない」と断りながらも、トヨタ社内でも評判が高いとし、モーターと電池をサイズアップすることで実現した電動化ならではの走りの訴求を上手にやっていると評した。加えて安部氏は、電動化による環境性能の追求だけではお客様にとっていいクルマにはならず、電気でしか出せないレスポンスを実現することで、内燃機関車に対して差別化に成功していると評価した。

 講演でも触れられていたが、清水氏はPHVについて「一度に少なくとも200kmは走るという使い方では30分程度でバッテリーが空になってしまう。トヨタのストロングハイブリッドは燃費が良いので、ストロングハイブリッドのままで良いのではないか。逆に、近くに買い物に行く程度であればEVで事が足りる。プラグインハイブリッドはユーザーメリットをどこに出すのかが難しいのではないか」という疑問を呈した。

 これに対して安部氏は清水氏の意見に賛同しつつ、「2010年比で車からのCO2排出量を90%削減する『環境チャレンジ2050』を視野に入れると、どこかでハイブリッド技術だけでは対応できなくなり、外部から導入したエネルギーが必要となる。これを見越して、走行エネルギーの何割かを外部から持ってきた電気で走れるようにする。この割合が新型プリウスのPHVでは約6割、これが2010年比でCO2の9割削減への道程に乗っている」と解説した。これを受けて清水氏は、「政策による要求(デジュール)とユーザーニーズ(デファクト)の両面を見なければならないとなると、マーケティングやセールスマンによるユーザーへの説明が大変複雑になる」と指摘、安部氏も同意した。

 また、安部氏がエンジン技術者であったことから、議論はガソリンエンジンのイノベーションにも及んだ。清水氏は新型カムリに搭載された2.5L 4気筒のレーザークラッドバルブシートを採用したロングストロークエンジンを絶賛、日産の可変圧縮、マツダのスカイアクティブXと並ぶガソリンエンジンのイノベーション技術と評し、「エンジンを忘れてはいけない」と力説。安部氏はレーザークラッドバルブシートが可変圧縮・希薄燃焼と同等に評価されたことに感激し、2030年の目標を達成したとしても、900万台のトヨタ車にはエンジンが積まれるため、TNGAのエンジン技術の進化は900万台に影響する非常に大事な技術であることを説いた。

 このほか、中国市場の動向やアプローチ、シェアリングを見越した給電・充電に関するテクノロジー、大型トラック・バスのEV化の利点、メルセデス・ベンツのブランド戦略、バッテリーのリユースによる価値還元など、多岐にわたる議論が展開された。

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