日立製作所は、コネクテッドカー・データを蓄積する「IoVプラットフォーム」を新たに構築し、「自動運転の高度化」や「配送の自動化」などのソリューションを顧客企業と協創することにより社会課題の解決に取り組んでいる。このデータ・プラットフォームの狙いはどこにあるのか。10月28日のReVisionウェビナーを前に、同社のライフ事業統括本部デジタルフロント事業部コネクテッドカー本部で事業開発部長を務める長船辰昭氏に聞いた。
Date:2020/10/22
Text:ReVision Auto&Mobility 友成匡秀
これまで日立では自動車メーカーなどの個別の顧客企業向けに、それぞれ顧客独自のデータプラットフォームを構築する事業は手掛けてきた。今回のIoVプラットフォームは、従来のような顧客主体のプラットフォームの構築ではなく、様々なコネクテッドカーに関するデータプラットフォームを日立側が主体になって構築し、機能ごとにまとめていこうとする、まったく新しい取り組みだ。
その理由について、長船氏は「データの持つ価値を検証していくため」と語る。
「これからは車がソフトウェア・デファインドとなり、価値の源泉がクラウド上のアプリケーションになっていく。そこを開発するためには、プラットフォームが必要になる。IoVプラットフォームは、これから日立が多くの企業への価値提供を進化させていくための土台となる」
フルセットではなく個別のニーズに応じてカスタマイズ
日立では、自動運転システムや運行管理、詳細地図の生成などクルマや移動に関連する幅広い技術やノウハウを持っている。こうした技術を機能ごとに分類し、車両やドライバー、周辺環境のデータ、および日立独自の分析力と組み合わせることで、高度でカスタマイズした機能やサービスを提供できるようになる。また、外部のパートナー企業との連携も広げ、さらにデータの精度やバリエーションを向上させる方針だ。
長船氏は「クルマに関しては、人為的な事故を防ぐ先進安全支援システム(ADAS)や自動運転システムの開発はますます求められてくる。物流に関していえば、コロナ禍で荷物の増加やドライバー不足は大きな課題になっている。これまで日立が培った技術とIoVプラットフォームを組み合わせ、モビリティの課題解決に挑戦したい」という。
「データ・プラットフォーム」というと、大掛かりなイメージだが、プラットフォーム全体をフルセットとして提供するのではなく、各企業のニーズや課題に応じて、異なる機能やデータセットを組み合わせて顧客企業と協創していく形だ。自動車メーカーやモビリティ事業者、物流事業者など、それぞれが持つ課題やニーズに柔軟に応えられるのが特徴。また、その一方でデータの高度化・活用に関しては、新たにパートナーとして協力してもらえる企業も募っていく方針だ。
データのオーナーシップを意識したビジネスモデルづくり
ただ、データ・プラットフォームには、データのオーナーシップやプライバシー、セキュリティなどのセンシティブな課題も多い。また、パートナー企業にデータを共有してもらうとなると、相手方にどのようなビジネス的なメリットがあるのか、という点も意識する必要がある。各企業とも、長年のデータの収集・蓄積にはコストがかかっていて、その共有には慎重だ。
長船氏もその点は十分理解している。「セキュリティは当然のこととして、データオーナーシップに留意したビジネス設計をしなければならない。例えばクルマのデータ・オーナーシップとして、一義的にはドライバーであり、制御に関するデータなら自動車メーカーに帰着するものと考えられる。日立で考えているのは、こうした1次データのオーナーシップを担保した上で、加工された2次データの活用をさせていただきたい、ということ。もちろん活用できる範囲は1次データのオーナーと合議の上で決まる」
つまり、パートナー企業には1次データを出してもらい、加工する機能をIoVプラットフォームで提供する。加工された結果として、データから何らかの“示唆”が得られる。その示唆を1次データのオーナーのみに返すのか、もしくはオーナー以外の領域に展開するのかは、相談次第というわけだ。
「例えば、クルマが高速道路から出口に向かううとき、どのタイミングでどのレーンを通るべきか、などといったことも、データから得られる一つの価値ある示唆。そうした価値を広い範囲に展開するのは美しい姿ではある。ただし、各企業が投資して集めたデータから得られた価値を広く展開する場合、ビジネス的に正当な理由が必要になる。それが金銭的なものかどうかは別の問題。ここは丁寧にビジネスモデルを作っていくのが本質だと考えている」
長船氏は、これまで20年以上、コネクテッドカー開発に携わり、ポータブルナビ開発、電気自動車向けテレマティクス開発などで、自動車メーカーやIT企業と開発仕様の調整等に長く携わった経験を持つ。また、欧州の自動車メーカーなどでつくる車両間コミュニケーションのコンソーシアム「Car-2-Car Communication Consortium(2C CC)」の委員も務め、欧州でのデータ標準化についても詳しい。こうした経験から、どのような新しいビジネスモデルを作っていけるかは注目だ。
“協創”の意識でパートナー企業を募る
このたびのコロナ禍を受けたビリティ業界の将来について、長船氏は「バランシング・ポイントが変わる」と表現する。
既に、一般市民の移動のあり方は、都市部や各地域において大きく変化している。鉄道やバス、タクシーなどは収益的に厳しい状況が続き、配送荷物の増大で物流においてはドライバー不足や効率化ニーズは高まっている。これからも各ユーザーによって公共交通、自家用車などを使う頻度は変わり、モビリティ全体に求められるものも変化していく、という認識だ。
先の見通せない時代だからこそ、柔軟に機能やサービスを組み上げることができるプラットフォームの存在は貴重になる、と長船氏は考えている。
「ビジネスモデルを考えるのは非常に難しい時代。日立の中でも、これからどうすべきか、議論を続けていかなければならない。こうした時代だからこそ、社会課題の解決を意識し、コネクテッドカーによる課題解決や価値あるサービスの提供を進めたい。また、共に課題解決に取り組もうとするパートナーを広く募り、難しいチャレンジに対して、ぜひ“協創”の意識で一緒に取り組んんでいきたい」。
◆無料公開ウェビナー 「モビリティの様々な課題に対応するデータプラットフォームと企業協創のあり方とは」
長船 辰昭氏(株式会社日立製作所 コネクテッドカー本部 事業開発部 部長) × 白石 美成氏(HERE Japan 株式会社 グローバルセールスディレクター)
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