【インタビュー】トヨタを変えるために踏み込んだ…トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー 井形弘


自動運転やEVなどのブレークスルーによって、自動車が変化しようとしているいま、次世代通信規格「5G」も、実用化に向けた検討が進められている。自動車のブレークスルーとITが通信によって融合したとき、モビリティはどのように変革するのか。トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー BR MaaS(マース)事業室 設計企画グループ長の井形弘氏に聞いた。

2017/9/26

※この記事はレスポンス(Response)より提供いただき掲載しています

 

 

《聞き手 三浦和也 佐藤耕一》

 

■トヨタを変えるために

---:昨年10月、モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)構想や、DCM (Data Communication Module) の全車搭載を2020年をめどに進めるという発表がありました。非常に積極的な姿勢ですが、何がトヨタをそうさせているのでしょうか。

 

井形:これまでにも、自動車の製造販売ビジネスから脱却しなければならないという取り組みはあったのですが、アメリカで急速なシェアリングの普及が起きているのを見ると、新車を買って乗るのが好きな日本人も、影響を受けて合理的に判断するようになってくるのではないか、モビリティサービスの時代に対応しなければならない、という想いがひとつめ。

そしてもうひとつは、車の作り方を変えるための一手という意味です。コネクテッドになることで、従来の車づくりとは違って、データを見て、何が起きているか把握しながら開発を進めることができる。そのために一番重要なデータを押さえたいということです。

 

---:一般論としては、自動車メーカーが通信を利用する動機は、自動運転やOTA (On The Air update) のためだと思うのですが、トヨタの場合はそうでなくて、サービス企業として車を扱っていくにあたって、データーベースプラットフォームと通信することが必要であると。その動機が、他の自動車メーカーと違うと感じます。

 

井形:トヨタ全体のカルチャーを変えていく、という意味で積極的な言い方をしてしまいましたが、ただ、DCMを全車標準でつけましょうということは、やっぱり一歩以上踏み込んでいるということなんですよね。逆に言うと、標準搭載するだけのメリットを引き出さなきゃいけない。だから幅広い分野で検討が進んでいるわけです。

例えば、どのデータをどれくらい取ればいいのか。サンプリング時間5ミリ秒で正確にほしい。そんな条件でたくさんのチャンネルを取っていったら、いくら5Gと言えどもお話にならない。本当に必要なデータは何か、それで実現できることは何か、というすり合わせをしなければなりません。

 

---:DCM全車標準搭載を決めたことで、それを利用するアイデアがたくさん出てきている状態ということですか?

 

井形:その通りです。

 

---:そのいっぽうで、サービサーへの投資を世界中でしていますね。「ゲットアラウンド」や、つい先日には「グラブ」に出資しています。これも、モビリティをサービスにしていくという目標に向けた動きの一環ということですか。

 

井形:そうですね。今年6月の株主総会で社長が、「これからトヨタはM&Aも含めてあらゆることをやっていきます」ということを話しました。トヨタのカルチャーを変えてくことを期待していると思います。

 

---:まったく新しい社風の会社を取りこむことで、トヨタを変えていくという意図があるということでしょうか。

 

井形:トップの意図はそうだと私は理解しております。アライアンス、出資を含めてベストなことをやっていきたいです。

 

---:なるほど。そういったアイデアを実現するためのプラットフォームとしてのMSPFという構造ですね。

■エッジコンピューティングが必要

---:トヨタが総務省に提出した先日の資料「Connected Car社会の実現に向けた研究会」によると、具体的に通信量を想定されていますが、5Gに対する期待も大きいのではないでしょうか。
(参考  http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000315.html

 

井形:はい。コネクテッドサービスの内容がとても多様なので、リアルタイム性の要不要や、圧縮や選別も含めてバランスをとって、サービスに対して最低限必要なものは何かっていうものを積み上げて、5Gと、ほかの通信手段も組みあわせてベストパフォーマンスが出るように設計していかなければなりません。

 

---:自動運転において、ローカル(車両)とクラウドの関係、役割分担というのはどうなるのでしょうか。

 

井形:自動運転向けの巨大なデータを作っていくときに、画像センサーのデータも全部アップしましょう、というのは不可能です。車両なり、車両の近傍のエッジで前さばきすることがとても重要です。これまでの車載ECUの設計は、データをいかに小さくするかという発想でしたが、これからはそうではなく、車両側にどれだけバッファを持たせるか、など、考え方をガラっと変えないと期待するものが実現できません。そういう意味で、車の設計は大きく変化すると思います。

 

---:近傍のエッジとは具体的には何ですか。

 

井形:まだ研究の段階ですが、信号機やセルラー網の基地局に少しリソースを置いて、必要な演算をしたり、返したりするなど、盛んに研究されています。

 

---:通信手段については、国内では760MHz帯があり、欧米では5GHz帯もあります。そのうえでセルラー網も使うことになりますね。

 

井形:DSRCについては地域ごとにしっかりやっていくということです。5Gに関しては、NTTなどとAutomotive Edge Computing Consortium (AECC) を通じての取り組みもありますね。
(参考  http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/18135037

 

---:エッジコンピューティングを含めたビッグデータの活用、ということですか。

 

井形:そうですね。5Gを利用してより効率的な通信を実現したいと考えています。5Gが実現した暁にはいろいろと活用させていただきたいと思っています。

 

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“【インタビュー】トヨタを変えるために踏み込んだ…トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー 井形弘” への1件のコメント

  1. 1505177658 より:

    確かに自動車は「走る曲がる止まる」機能と「A地点からB地点への移動」用途だけではなく、「繋がること」自体が付加価値以上にメジャーな使われ方になって行くだろう。技術開発が進みインフラが整備されてくるこれからが本格普及の時代を予感させるのだが、「DCMを全車標準でつけましょうということは、やっぱり一歩以上踏み込んでいるということ」なのだろうか。GMなどはもう20年も前からテレマティクスを乗用車に搭載し、15年以上前から42全プラットフォームに今で言うDCMを搭載していた。最近のドイツ御三家も同様だ。それなのにあまり積極的に使われてこなかったのはビジネスモデルとして確立されていなかったからだと思う。本当に普及させたいなら、通信料をユーザーに課金するのではなく、FBのように広告主とタイアップしてサービスを盛り上げることを真剣に考えなければなるまい。

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