ラストワンマイルだけじゃない物流のディープな世界


ラストワンマイルがメディアで注目を浴びているが、企業間物流にもスポットをあてないとスーパーにモノが並ばない時代が来る。

 

Date:2019/08/28
Text:Hacobu代表取締役社長CEO 佐々木 太郎


※この記事はMOVO Channelより提供いただき掲載しています

 

目次

1 物流市場外観
2 企業間物流という「舞台裏」
3 物流危機がもたらすもの
4 企業間物流におけるトラックドライバーの労働実態
5 トラックドライバーの労働実態改善に向けて

物流市場外観

 物流の世界に関わっていない人々に、物流に関わる仕事をしている、というと、ヤマト?佐川?と聞かれることが多い。世の中一般では、物流=宅配便という認識をされている。それは第一に一般消費者が関わる物流といえば通販で商品を受け取る場合が多く、その場合に直接接するのは宅配便事業者となるからだ。また、2017年ころからメディアでも物流危機というタイトルで記事が出ることが増えたが、その際の物流は宅配便を指すことが多く、これも物流=宅配便というイメージを醸成している。

 もちろん、通販市場の伸長により、宅配便の需要が増え、ラストワンマイルにおけるリソースのひっ迫は大きな社会問題である。しかし、物流業界の人々からすると、ラストワンマイルも重要だが、その後ろを支える企業間物流の世界が大きな問題を抱えており、そこにスポットが当たっていないことへの焦燥感がある。

 そもそも、物流市場とはどのような市場なのか。ある地点からある地点に貨物を運び、その対価として運賃を得る、という物流市場の国内規模は、13兆円から14兆円といわれている。それ以外にも貨物を運んでいるトラックはあるが、自社の貨物を運んでいる場合は運送業務に対する対価としての運賃が発生していないので、貨物運送免許が不要となり、上記の13兆円の市場には含まれていない。13兆円の市場は、大きく分けると、宅配便の市場と企業間物流の市場に分けられる。宅配便の市場が2~3兆円、残りの10兆円が企業間物流の市場だ。

企業間物流という「舞台裏」

 10兆円の企業間物流の市場でどのようなことが行われているか、一般の消費者にはなかなか見えてこない。例えば、食品メーカーの工場で製造したものを食品メーカーの在庫センターまで10トン車で運び、食品メーカーの在庫センターから食品卸の在庫センターに10トン車で運び、小売りチェーンの店舗に4トン車で運ぶ、というような運送が企業間物流だ。食品流通の世界であればまだ想像がつくかもしれない。食品流通における企業間物流以外にも、例えば鉄鋼業界では、高炉メーカーから鉄鋼商社、そこからコイルセンター、最終的に自動車メーカー、などに鉄鋼が輸送されるが、そこでも大型・中型トラックが活躍している。

物流危機がもたらすもの

 宅配便市場でのドライバー不足問題はよくメディアに取り上げられているが、企業間物流市場でのドライバー不足はより深刻だ。トラックドライバーの平均年齢は50歳弱まで上昇してきており、新たにトラックドライバーに就業する若年層が減少してきていることを意味している。有効求人倍率は全職業平均で1.35であり、この値も採用が困難といわれるレベルであるが、トラックドライバーに限ると2.68となって、採用が極めて困難である事実が見て取れる。このままいくと、2027年には96万人のトラックドライバーの需要に対して25%が不足すると推定されている。そうなると、コンビニやスーパーで隙間なく商品が陳列されている世界が当たり前ではなくなる。これこそが物流危機がもたらす真の光景だ。

企業間物流におけるトラックドライバーの労働実態

 それではなぜ、トラックドライバーが不足しているのか。国交省のレポートでは、労働条件に問題があるとされている。まず、賃金を見てみると、全産業平均の賃金が2016年に490万円であるのに対し、大型トラックのドライバーが447万円、中小型トラックのドライバーが399万円である。一方、年間労働時間は全産業平均が2,124時間であるのに対して、大型トラックで2,604時間、中小型トラックで2,484時間となり、平均を大きく超えている。国交省の分析では、その要因は荷待ち時間にあるとしており、トラックドライバーの平均拘束時間13時間27分のうち、1時間45分を荷待時間が占めているとする。したがって、この時間を削減できれば、トラックドライバーの労働時間を大きく短縮することができるわけだ。

トラックドライバーの労働実態改善に向けて

 企業間物流におけるトラックドライバー不足問題に対応するために、国やトラックメーカーなどが主導して、トラックの自動運転や高速道路のトラック隊列走行などの研究が盛んになっている。自動運転にはいくつかの段階があるが、トラックドライバーが不要となるレベルの自動運転となるとレベル5の完全自動運転が必要となり、実現までの道のりは長い。一方、トラック隊列走行は2022年の商用化を目指しており、技術的な難易度は完全自動運転よりも低く、数年後ろ倒しになる可能性はあるが、2025年には商用化が可能と思われる。それによって、幹線におけるトラックドライバー不足は緩和される可能性がある。しかし、上記のような25%のドライバー不足をトラック隊列走行で解決することは難しいと考えられ、そもそものトラックドライバー不足の要因となっている労働実態の改善が急務である。とすると、荷待ち時間を削減することによって労働時間を短縮するという解決策が短期的に有効となり、それを実現するトラック予約・受付システムの普及が不可欠だ。国交省が推進する「ホワイト物流」推進運動の中でも、取り組むべきアクションプランの一番手としてトラック予約・受付システムの導入が掲げられているのは、このような背景があってのことだと考えられるのだ。

 

著者プロフィール / 佐々木 太郎

Hacobu代表取締役社長CEO。アクセンチュア株式会社、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。卒業後、ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経てグロッシーボックスジャパンを創業。ローンチ後9ヶ月で単月黒字化、初年度通年黒字化(その後アイスタイルが買収)。食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流業界の現状を目の当たりにする出来事があり、物流業界の変革を志して株式会社Hacobuを創業。

 

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◆佐々木氏は、ReVision Auto&Mobilityが10月9日(水)、LIFORK Lab(東京都千代田区)にて開催する第2回 ReVision オープンラボ「商用車と物流テクノロジーの進化がもたらす未来の物流のあり方を探る」に登壇します。

 

 

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