自動運転を実用化するために越えなければいけないハードルのひとつが法整備だ。既存の法律は人間の運転手ありきで設計されており、レベル3以上のようなシステムが運転タスクを担う状況を想定していない。法律が技術の進展の足かせとならないように、国内外の関連法の見直しがいままさに進められている。
Text:ReVision Auto & Mobility編集部
Date:2018/11/26
第5回:公道実証実験を実施するために
自動運転の技術開発において、公道を使った実証実験は欠かせない。一般車両に混じって、多様で複雑な実際の道路環境で走るからこその気づきや発見がある。自動運転を使ったサービスの開発や検証でも公道での実証実験は有効だ。将来の自動運転時代を見据えた法改正を進めるのと同時に、さまざまな実証実験をスムースに行うための環境づくりにも取り組む必要がある。
公道実証実験への道が大きく開けたのは「日本再興戦略2016」がきっかけだった。日本再興戦略は2014年に第一弾が打ち出され、2016年は改訂版という位置づけではあるが、ここで2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに自動運転を実現するという目標年が掲げられた。また、「官民 ITS 構想・ロードマップ2016」も、サブタイトルはズバリ「2020 年までの高速道路での自動走行及び限定地域での無人自動走行移動サービスの実現に向けて」である。
こうした政策を背景に、関係省庁は2020年のオリパラに向けて環境整備を加速させることとなった。
道路交通法を管轄する警察庁は2016年5月に「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を発行した。これにより、保安基準に適合している車両かつ、運転者が乗車していれば、届出がなくても公道での実証実験が可能になった。
また、2017年6月には都道府県警や関係諸機関に向けて『「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」の策定について』とする文書を発信。車内に運転手がいなくても、外部に遠隔監視・操作者がいれば、道路使用許可を受けて公道実証実験が可能になったのである。これはかなり画期的な取り組みとして、話題を集めた。
一方、道路運送車両の保安基準を定める国土交通省は2017年2月に「道路運送車両の保安基準等の改正」を発表した。「官民 ITS 構想・ロードマップ2016」に基づき、ハンドルやアクセル・ブレーキペダルを備えない自動運転車であっても、代替の安全確保措置が取られていれば、公道を走行できるとしたものである。代替措置の一例として、実証実験の実施環境の制限(時間・天候等)、走行速度の制限、走行ルートの限定、緊急停止スイッチの設置、保安要員の乗車などが挙げられる。
これらの取り組みによって、日本はいま世界でもっとも公道実証実験が行いやすい国とも言われるほど、環境が整った。2017年度は日本全国で20件もの公道実証プロジェクトが動いている。
【監修】中山 幸二(明治大学専門職大学院法務研究科教授)
◆参考
・日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―(平成 28 年6月2日)
・官民 ITS 構想・ロードマップ 2016 -2020 年までの高速道路での自動走行及び限定地域 での無人自動走行移動サービスの実現に向けて-(平成28年5月20日/高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)
・自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン(平成28年5月/警察庁)
・「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」の策定について(通達)(平成29年6月/警察庁交通局長)
・道路運送車両の保安基準等を改正します -国際基準の改正への対応と自動走行車の公道実証実験に係る環境整備について-(平成29年2月9日/国土交通省)
※この記事は2018年10月時点の情報をもとに作成しています。