自動運転を実用化するために越えなければいけないハードルのひとつが法整備だ。既存の法律は人間の運転手ありきで設計されており、レベル3以上のようなシステムが運転タスクを担う状況を想定していない。法律が技術の進展の足かせとならないように、国内外の関連法の見直しがいままさに進められている。
Text:ReVision Auto & Mobility編集部
Date:2018/11/07
第3回:国際条約と国連作業部会(前編)
国内で道路交通に関する法律と言えば「道路交通法(道交法)」だが、国際的には道路交通に関する条約として「ジュネーブ条約」と「ウィーン条約」の2つが存在する。
道交法は1947年制定の道路交通取締法に代わり、1960年(昭和35年)に発布されたものだ。トヨタ自動車の新工場が稼働し、日産自動車セドリックやマツダ(東洋工業)R360が発売されるなど、モータリゼーションが加速した時代だった。
一方、国際的には1949年に道路交通に関する国際条約として、ジュネーブ条約が採択される(1952年発効)。
この時期の日本は国際舞台から遠ざかっており、条約策定に関与していない。日本が批准したのは東京オリンピックが開かれた1964年のことだ。既存の道交法と矛盾する部分もあったため、ジュネーブ条約に合わせる格好で道交法の一部を改訂している。
その4年後の1968年、ヨーロッパの国々が中心となって新たな道路交通に関する条約、ウィーン条約を策定した(1977年発効)。
現在、ウィーン条約加盟国は70超に広がっているが、アメリカやカナダ、オーストラリアなどは当初から加盟せず、日本も批准していない。日本が批准しなかった理由は定かではないが、ウィーン条約加盟国の多くはジュネーブ条約にも加盟しており(ジュネーブ条約加盟国は100超)、これまでウィーン条約未批准に起因した大問題は起きていなかった。
しかし、自動運転の議論が本格化したことで、両条約の位置づけは変わりつつある。
ジュネーブ条約もウィーン条約も「人間が車内で操縦/操作しなければならない」との記述はないが、「車内に人間の運転者がいる」ことを前提に考えられたことは明白だ。しかし、技術の進化を考えれば、今後は人間ではなくシステムが運転するケースや、車外から遠隔操作する状況もあり得る。自動運転技術を発展させていくには、条約の改正が必定で、そこではシステムによる運転を許容するか否かが争点となった。
先に答えが出たのはウィーン条約だった。2014年3月に国際連合・欧州経済委員会の道路交通安全作業部会(WP1)がウィーン条約改正案を採択し、システムによる運転を可能としたのである。加盟国の賛成を経て、2016年6月に発効している。
一方のジュネーブ条約でも同様の改正案がWP1で採択されたが、改正手続に必要な加盟国の賛成を得られず、頓挫してしまった。ウィーンにできてジュネーブにできなかった理由は決議にかかる規定の違いとの見方が有力だ。
ウィーン条約は有効票数に関係なく、賛成票が反対票を上回れば可決される。2014年の改正案に関する決議では反対票がゼロだったという。それに対して、ジュネーブ条約の改正には加盟国の3分の2の積極的賛成を必要としているため、加盟国の多数が賛成票を投じなければ、改正案が通らない。票数は非公表なので、詳細は不明だが、相当数の国が投票をしなかったと言われている。
100を超える加盟国のなかには自動車産業に関係のない国や地域も多い。彼らが自動運転に大反対ということではないだろうが、積極的に賛成する理由もない。よく分からないから態度を明らかにすることを留保した、という可能性が考えられる。
(後編はこちらから)
【監修】中山 幸二(明治大学専門職大学院法務研究科教授)