交通事故と法的責任


自動運転を実用化するために越えなければいけないハードルのひとつが法整備だ。既存の法律は人間の運転手ありきで設計されており、レベル3以上のようなシステムが運転タスクを担う状況を想定していない。法律が技術の進展の足かせとならないように、国内外の関連法の見直しがいままさに進められている。

Text:ReVision Auto & Mobility編集部
Date:2018/10/31

 

第2回:交通事故と法的責任

 自動運転は交通事故の削減を大義に掲げているが、現実問題として、多種多様なシチュエーションが存在する交通社会で事故ゼロを実現するのは容易ではない。当面は自動運転ではない車両も多く通行する。多種多様な車両が混在する環境は人間にとってもシステムにとっても複雑で、予期しない出来事が起こらないとも限らない。
 より良い交通社会を実現するためには技術を磨く一方で、交通事故を起こさせない社会の仕組み作りや、事故が起きた場合の補償等の制度設計にも取り組んでいく必要がある。
 現時点、交通事故の場合の法的責任については主に下記の法律が適用される。

 

【交通事故の法的責任に関係する主な法律】

・刑事法――加害者に刑罰(懲役・罰金)を問う法律。刑法の業務上過失致死傷罪、自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪や過失致死傷罪が適用される可能性がある。

・民事法――加害者に損害賠償を求める法律。民法のほかに自動車損害賠償保障法(自賠責法)や製造物責任法(PL法)などの適用可能性がある。

・行政法――道路交通法(道交法):道路および交通の安全のための法律。道交法違反の結果として公安委員会から運転免許の停止や取り消しが行われる場合がある。

 

 現行法は人間以外が交通事故の加害者になることを想定していない。もしも事故原因が自動運転システムの過失だった場合、つまり意図せずに起きたシステムの不具合だった場合は、誰にいかなる責任を問えるだろうか。

 民事についてはPL法による損害賠償や、自賠責法による被害者救済など、現行法の延長線上で対応できる可能性がある(もちろん慎重な議論や解釈の明文化は必要)。

 これに対して、刑事はやっかいだ。不具合があったシステムに懲役や罰金等の刑事罰を科すことはできないし、開発者に刑事責任を問うことも難しい。もしも事故のたびに刑事責任が問われるとしたら、誰もリスクの高い技術開発に挑戦しなくなるだろう。国際的に開発競争が激化する中で、新たな技術の芽を摘むことは社会全体にとって大きな損失である。

 だからと言って、交通事故の刑事罰をなくすというのも社会の合意を得にくい。技術の進化を妨げず、かつ社会としても納得できる法的責任とはいかなるものか。ここが法改正を巡る議論のポイントだ。容易に答えが出るテーマではないが、いつの時代も法整備は技術のあとにやってくるものだ。

 1901年(明治34年)、横浜共同電灯会社が電気を無断で使用した企業に対して訴訟を起こしたが、当時の法律には電気というカタチのないモノを盗むという概念がなく、一旦は無罪判決が下った。しかし、上告で判決が覆り、使用者には窃盗罪が言い渡される。そして、1907年、刑法に「電気は財物とみなす」と明文化されるに至った。

 自動運転時代の交通事故における法的責任はどうあるべきか。第1回で紹介した【運転と交通に関係する主な法律】と同様に、法的責任に関連する法律についても、関係省庁が中心となって議論が重ねられている。

【監修】中山 幸二(明治大学専門職大学院法務研究科教授)

 

【参考】
自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書(平成30年3月)

 

※この記事は2018年10月時点の情報をもとに作成しています。

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