自動運転を実用化するために越えなければいけないハードルのひとつが法整備だ。既存の法律は人間の運転手ありきで設計されており、レベル3以上のようなシステムが運転タスクを担う状況を想定していない。法律が技術の進展の足かせとならないように、国内外の関連法の見直しがいままさに進められている。
Text:ReVision Auto & Mobility編集部
Date:2018/10/27
第1回:運転と交通に関係する国内法
自動運転に関係する日本国内の法律は大きく二種類に分類できる。ひとつは運転と交通に関係する法律で、もうひとつは交通事故の法的責任に関係する法律だ。それぞれに細かな法律や政令が定められており、本稿では前者を取り上げる。
【運転と交通に関係する主な法律】
・道路法――道路網の整備を図るための法律。道路そのものだけでなく、道路標識や柵などの道路の付属物も対象とする。
・道路構造令――道路法に基づいて制定された政令。道路の新設や改築に関係する。
・道路運送車両法――道路運送車両(自動車、原動機付き自転車、軽車両)の所有権や安全基準等について規定。
・道路運送法――道路運送事業(旅客自動車運送事業、貨物自動車運送事業、自動車道事業)の運営に関して規定。自動運転ビジネスと深くかかわる。
・道路交通法(道交法)――道路および交通の安全のための法律。運転中のサブタスク(スマートフォン操作等)禁止など交通ルールの根拠を定める。
2013年の東京モーターショー開催時期に合わせて、自動運転の公道実証が行われたが、その際に人間の運転手がハンドルから手を放しても良いかどうかに注目が集まった。
自動運転のレベル3以上では人間がハンドルを操作しない場面がある。しかし、道交法の第70条(安全運転の義務)には「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と明記されているため、運転者は常にハンドルを握っていなければならないのではないかと議論を呼んだのだ。結果的には、すぐさま操作できる体制であれば、ハンドルから手を放しても問題はないとの見解が警察庁から示され、実証は当初計画通りに行われた。
このように、技術の進展に伴って、現実と法律の間にギャップが生じることがある。2013年のときのように法解釈を明らかにすればよい場合もあるが、部分的な法改正や附則追加の検討が必要なケースや、時間をかけて社会の合意を得るべきケースも考えられる。
今年4月、政府は2020年をめどにレベル3以上を実現するために必要な法整備の方向性として「自動運転に係る制度整備大綱」を取りまとめた。この大綱に基づき、関係省庁が中心となって、法律の専門家や有識者を交えて議論を重ね、具体的な制度整備に取り組んでいる。たとえば、自動運転の際のサブタスクについては道交法の改正が必要かもしれない。また、自動運転の車両の安全性は道路運送車両法が関わる。車検や運転免許制度の在り方も変わっていくことになるだろう。
【監修】中山 幸二(明治大学専門職大学院法務研究科教授)
◆参考
・自動運転に係る制度整備大綱(平成30年4月17日)
・官民ITS構想・ロードマップ2018(平成30年6月15日)
※この記事は2018年10月時点の情報をもとに作成しています。