車両運行管理、ロジスティクス市場拡大の可能性


新型コロナウイルス流行の影響を受けて、eコマースによる物流業界の変革は今後いっそう加速すると予測されている。英国に本社を置くJuniper Research Ltdは、フリート追跡ソリューションと物流ソリューョンをテーマに調査を行い、その内容をレポートとしてまとめて発行した。当レポートではエッジコンピューティングやブロックチェーンなどの最新技術を取り上げ、物流企業が業務を最適化するためにはどのような選択肢をとるべきか提言を行っている。今回は特に注目すべき最新技術の概要と2025年までの市場規模予測の一部を抜粋して紹介したい。

Date:2020/07/21

※このレポートはGlobal Informationより提供いただき掲載しています。

 

1.1 車両運行管理、ロジスティクスの定義

車両運行管理は、コネクティビティと管理ソフトウェアを用いて、フリートの位置や経路などの指標、ドライバーの行動をトラッキングし、最適な運用を導くツールとして定義づけられる。

一方、ロジスティクスとは、物品の顧客への配送、配送経路における資産のトラッキングなどの商業活動を指す用語である。

1.2 フリート管理、ロジスティクス市場の拡大要因、制限要因

フリート管理、ロジスティクス市場の成長を促進させているのは、エッジコンピューティング、キャッシュコンピューティングなど新たなテクノロジーの導入である。

 

1.2.1 エッジコンピューティング、キャッシュコンピューティング

エッジコンピューティングの概念は、コンピューティングとデータストレージを必要とされる場所の近くに配置することにより、その反応速度を上げ、処理の遅延を低減させるというものである。エッジコンピューティングはクラウドとローカルの融合技術であり、クラウドはデータの伝送、保存を担い、ローカルに接続されたデバイスがデータ処理を行う。エッジコンピューティングはその仕組み上、セキュリティリスクも高い。クラウドを通じた不正アクセスによりデータが盗まれる可能性があるからだ。ヘルスケア、政府官庁は機密性の高い情報を保有するがゆえにこうした不正のターゲットになりやすい。脅威に対抗するためデータ暗号化のオプションを検討すべきだろう。

キャッシュとは、迅速に取り出し可能な形で一時的にデータを格納するハードウェア、またはソフトウェアを指す。多くの場合クライアントのローカルに存在し、大規模なデータストレージとは切り離されている。キャッシュにより、直近に利用した、あるいは頻繁にアクセスされるデータの呼び出しが高速化されることになる。キャッシュコンピューティングでは、ネットワークを通じて情報をやり取りする代わりに、ローカルにキャッシュされたデータを必要に応じてメインフレームに転送する方法をとる。データ伝送の容量が減った分だけネットワークの負荷を軽減され、余剰リソースでより多くの車両のトラッキングが可能となるだろう。

 

表1: エッジコンピューティングの優位性

出典: Juniper Research

 

1.2.2 ブロックチェーン

ブロックチェーンの導入は、車両運行管理、ロジスティクスにいくつかのメリットをもたらすと思われる。

i. 運用効率の改善
ブロックチェーンはこれまで紙で管理されていた大量の情報を仮想化することができる。このため、文書の提出、管理に必要とされていた時間、経費が大幅に削減されるだろう。以前はすべて手書きでやり取りされていた車両、ドライバーの検査レポートはすべて電子化、自動化され、ブロックチェーンシステムに組み込まれることになる。ブロックチェーンの導入により、検査記録、管理データが瞬時に検証可能となり、サプライチェーンの各プロセスの標準化が進行すると考えられている。

ii. トランザクションの検証
ブロックチェーンは、世界的なサプライチェーンにおけるトランザクションの記録、検証を単純化、デジタル化するとされている。サードパーティの介在が不要となり、結果としてサプライチェーンに連なるステークホルダーが整理されるだろう。

iii. 透明性の向上
ブロックチェーンに記録された資産データは、サプライチェーン上の各ステークホルダーにより参照可能である。データのアップデートには関係者の同意が必要で、元帳に対して加えられた変更についてはすべて履歴が残るようになっている。これまでのように各社が個別にデータを保持し変更を行う代わりに、皆がひとつのデータベースを共有することになるのだ。それぞれの変更がいつ、どの段階でなされたか、誰でも簡単に読み取れる。このような状況下では、旧来の信義則に基づくやり方はすたれ、より明確な形で責任関係が生じることになるだろう。

iv. 不正行為の抑制
ブロックチェーンの導入は偽造品の流通を抑制する効果を持つとされている。物品データはブロックチェーンの共有元帳にすべて記録され、バリューチェーンの各段階における位置、所有者が明確にたどれるようになるだろう。取引の可視性と透明性が増すにつれ、出どころがはっきりしない偽造品が紛れ込む可能性は低くなってゆく。

物流市場は細分化されているため、すべての取引を包含する統合的なブロックチェーンが登場することはなさそうだ。最初の一歩として、ロジスティクス企業と各サプライチェーンのニーズに合わせた専用のブロックチェーンが複数立ち上がることになるだろう。そうしたプライベートなブロックチェーンの数が増えるにしたがい、その運用のためのルールや規制の整備がますます重要となってゆく。異なるブロックチェーン間で生じるやり取りには特に注意が必要だ。BiTA (Blockchain in Transport Alliance)など、いくつの団体がすでに立ち上がっており、標準化に向けて活発な動きを見せている。いったん基準が確立されれば、ブロックチェーン技術はより広く普及することになるだろう。

 

1.2.3 物流の最適化

効率性、生産性の向上は事業主にとって永遠の課題である。リスクを最小限に抑えつつ、投資効果を最大化することが物流企業には常に求められている。車両管理システムを通じてこうしたニーズにアプローチしようとする企業が増えている。

車両管理システムとはネットワークに接続された車両の情報を一元管理する仕組みを指し、車両自体の管理以外に、車両トラッキング、配送ルートの最適化、ドライバー管理など多様な機能を実現するものである。

車両から送付されるデータによって、管理者は車両の状態をリアルタイムで把握することができる。さらに、運行速度、唐突な車線変更、急激な加速やブレーキなど、ドライバーの行動についても詳細な情報を入手することが可能だ。過去の履歴に基づき、燃費のよい理性的な運転を促せば、ドライバーの生産性は向上し、全体的なランニングコストは抑制されるだろう。

また、各車両の利用状況に応じて適切な整備点検を行うことにより、車両の耐用年数が延びる可能性がある。更には各車両の位置を常に監視していれば盗難のリスクは必然的に低くなるだろう。

クラウドベース車両運行管理システム導入の拡大は公的な規制によるところも大きい。

 

i. 車両保守、追跡システム
EUでは乗客、運転者の安全性向上を目的として、新型車すべてにテレマティクス機能を統合した車両緊急通報システム(eCall)の搭載が義務付けられている。このシステムは事故発生時に緊急サービスに自動接続し、ファーストレスポンダーに対して事故車両の位置情報を提供する。

ii. ELD(電子ログ記録装置)
米国運輸省の機関である連邦自動車保安局(FMCSA)は、すべての商用車に対してELD(電子ログ記録装置)搭載を義務付けている。この装置は運転者の労働時間を計測し、適切な労務管理のもとで交通事故の削減を目指すものである。
また、欧州では大型車両へのスマートタコグラフ装着が義務化されている。タコグラフは休憩時間も含めて運転者の労働状況を記録している。また、運転速度や運行距離なども同時に計測可能なため、管理者はドライバーの稼働状況をより包括的に理解することができる。運転者の行動や車両診断など、より詳細なデータを収集すれば、予期せぬダウンタイムを最小化し、かつ効率性を最大化するといった効果も期待できるだろう。

iii. CO2 排出量の削減
EU域内では、道路輸送関連のCO2排出量の4分の1は大型車両によるものだとされている。2019年8月、EUで大型車向けの新たなCO2排出規制が施行され、2025年、2030年に向けた平均CO2排出量の削減目標が示された。米国でも環境保護庁と道路交通安全局により、大型車両の温室効果ガスの排出を削減する政策が打ち出されている。

 

1.3 2025年までの市場規模: 地域別の資産追跡ツール導入状況

資産トラッキングソリューションを導入する企業は全世界で9000万社に達すると予測されている。この数は今後5年間で、27%成長し、2025年までに1億1400万社を超えるだろう。

 

表2: 2020年資産トラッキング導入事業者数:9000万社

出典: Juniper Research

 

  • COVID-19流行下で、サプライチェーンのレジリエンス強化が課題となっている。その克服へ向けての取り組みの一環として、資産トラッキングソリューション導入が促進されるだろう。ロジスティクス各社は資産の位置、配送の状況をリアルタイムで捕捉する必要性を感じており、接続性を確保する安価な技術として、RFIDやLPWAへの注目が高まっている。
  • 中国が資産トラッキング市場をリードする見込みである。2020年時点における中国の資産トラッキングに対する支出総額は30億米ドル、2025年にはこの規模が110億ドルまで拡大し、全世界の34%を占めることになるという。中国は世界に対する輸出国であり、強力なIoT基盤を備えている。COVID-19流行の結果としてeコマースがますます加速してゆく中、中国はこの組み合わせにより盤石な地位を築いてゆくだろう。
  • 欧州の顧客はトレーサビリティに対する期待値が高いと言われている。中国の製造業者、輸送業者はこうしたニーズに応えるために資産トラッキングソリューションを導入することになるだろう。最新の追跡情報を提供しないと、たとえ費用が高くなったとしても代替の業者を探す顧客が多くなりそうだ。
  • 2025年時点の資産トラッキングソリューションに対する支出総額は、全世界で330億米ドルと予測されている。資産トラッキングの導入により、顧客体験の向上、客離れの防止などの実現が可能となる。固定客に依存する一部の中小規模の企業にとってこのソリューションに対する投資は特に有用だろう。長期的な顧客囲い込みという点で、初期投下費用を相殺して余りあるメリットが期待できるからだ。

 

当レポートはソリューションの導入を検討する企業向けに各ベンダーのポジショニングインデックスを提供している。また、客観的な指標となる各種市場データに加えて、対話型の予測ツールが用意されており、企業の事業プランの作成に最適な内容となっている。

 

引用元レポート:
フリート追跡ソリューションと物流ソリューションの世界市場:主な課題と戦略的提言:2020年~2025年
発行 Juniper Research Ltd  出版日 2020年06月16日


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