先日、第46回東京モーターショー2019が大盛況のうちに幕を下ろした。来場者数130万人超えは2007年開催以来の快挙。世界各地のモーターショーの来場者数が減少するなかで、やり方次第ではまだまだ人を集められることを証明して見せた功績は大きい。
ショー期間中は例年通り、さまざまなイベントが催された。その一つが、11月2日(土)に開催された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の活動の一環として行われたシンポジウム「持続可能な社会における自動運転の役割―安全・安心な未来に向けて―」だ。
Date:2019/11/12
Text&Photo:サイエンスデザイン 林愛子
地方都市の実証実験を通して顕在化した課題
登壇者はSIP自動運転推進委員会プログラムディレクターの葛巻清吾氏、サブ・プログラムディレクター有本建男氏に加えて、自治体代表として神奈川県理事(いのち・SDGs担当)の山口健太郎氏、長野県伊那市企画部長の飯島智氏。さらに安全・安心の専門家として国土交通省自動車局技術政策課自動運転戦略室長の平澤崇裕氏、警察庁長官官房参事官の堀内尚氏、日本自動車工業会自動運転検討会主査の横山利夫氏が登壇。ファシリテーターは当媒体の編集顧問で、国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏。
シンポジウム前半では神奈川県の山口氏と伊那市の飯島氏による基調講演が行われた。
神奈川県は「SDGs未来都市」の実現を目指し、交通関係でも「無人ロボットタクシー」「ロボネコヤマト」などさまざまな施策を推進している。東京オリンピック・パラリンピックでは江の島がセーリング競技の会場となることから、来年に向けて自動運転バスの実証実験にも取り組んでいる。
一方、伊那市は先日の市民ダイアログでも紹介されたとおり、道の駅を拠点とした自動運転の実証実験を実施。また、AIによる最適運行・自動配車サービス、ドローンを使った荷物配送などの実証にも取り組んでいるが、顕在化している課題として住民のデジタルデバイドがあり、加入率の高いケーブルテレビを使ったICTサポートなどを行う計画があるという。
続いて、安全・安心の専門家によるプレゼンテーションとパネルディスカッション「自動運転車に求められる安全」が行われた。ここでは、海外メーカーによるレベル3の実用化が近いことから、レベル3の技術的課題や法的課題について意見交換がなされた。特に、システムから人間へと運転の主権が移すタイミングが難しく、アラートの発し方や万が一に備えた対策などについて検討が重ねられているという。
一般市民の率直な意見に学ぶべきこと
最後は全登壇者によるパネルディスカッション「~持続可能な社会に向けて~ 自動運転車に求められる安全」だ。地域交通やMaaSにも話題が広がり、多様な意見が交わされた。
たとえば、自工会の横山氏は「自工会としてMaaSに対して、何が協調領域で、何が競争領域なのかを考える時期に来ている」との見解を示し、MaaSに必要なビジネス面でのソリューションは新たなメンバーを集めてチームを組む可能性があると述べた。
また、伊那市の飯島氏は実証実験で気付いたこととして混在交通の難しさを指摘し、「実証実験車両は一般車両よりも低速なので、渋滞の起点になってしまう。自動運転車両の存在をいかに周囲の車に伝達するべきか」と問題提起した。
さらに興味深かったのは質疑応答だ。今回のシンポジウムではSli.doで質問や意見を募ったほか、会場からも挙手で質問を受け付けた。
たとえば、会場からは「人間が運転するタクシーも呼べば来てくれるし、目的地を言えば送り届けてくれる。自動運転で何が変わるのか」という質問があった。これに対して国際自動車ジャーナリストの清水氏は自動運転推進の背景としてドライバー不足の問題があることを丁寧に説明。自動運転の意義を直接伝えられるのは市民参加型のイベントならではのことだと言える。
もうひとつ、「技術的なハードルを高く設定し過ぎて、コストや実現時期に悪影響を及ぼしているのでは」との質問も新鮮だった。ここでいう技術的なハードルとは安全・安心に関係することだが、言うまでもなく「コストが高いからと言ってハードルを下げることはできない」(自工会 横山氏)、「安全は妥協できない」(国交省 平澤氏)というのが大原則で、議論の余地はない。
しかし、一部の一般市民には自動車メーカーや監督省庁が必要以上に技術にこだわっているように見えるのかもしれない。自動車業界や運輸業界では当たり前のことでも、一般市民にはまだまだ丁寧に伝えていく必要があることを実感した。
SIP市民ダイアログやシンポジウムは市民との双方向の対話の場に位置づけられ、社会受容性の醸成を目的としており、今後も同様の取組みを続けていく方針だ。
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