「2017年を振り返る(前編)」 高度なLv2と世界初のLv3が話題!


 まもなく2018年が始まる。来たる新年を占うためにも、2017年の自動運転にまつわるトピックスを振り返っておきたい。

2017/12/22

清水 和夫(自動車ジャーナリスト)

 

 クルマの動力がエンジンから電気に代わり、運転の主体が人から人工知能(AI)に代わると、私たちの社会はどうなるのだろうか。

 人間のドライバーは実に多様で、クルマの動きが読みにくいために事故が起きる。ITの専門家は「交通事故の90%以上がヒューマンエラーなら、人はコンピュータソフトのバグ(虫)のようなもの。その対策は我々の得意分野」と考えている。AIは運転ルールとモラルに忠実なので、クルマの動きが読みやすい。事故削減や渋滞緩和、交通の効率化に、車両の自動化は避けて通れないだろう。

 同時に、自動運転の時代は車両だけでは語れないとも思っている。大学生と自動運転について議論したとき、彼らは「クルマには興味がないが、車両の自動化や電動化で、社会がどのように変化するのか、そのイノベーションには興味がある」と述べていた。自動運転という手段が実用化したとき、どんな社会となるのか、その受容性が大切ではないだろうか。ニーズやウォンツをじっくりと考えてみるべきだろう。

 さらに学生たちに「ライドシェア」について意見を聞いたところ、面白い答えが返ってきた。何人かの学生はアパートをシェアしている。経済的なメリットもあるが、「友達と繋がる」ことは衣食住に続いて大切なことなのだという。

 ミレニアル世代は「クルマを運転していてイヤなことは繋がらないこと」だそうだ。団塊の世代から団塊ジュニアの世代までは密閉された個室のようなクルマに魅力を感じる。つまり繋がらないことがクルマの価値なのだが、ミレニアル世代は真逆だ。欧米では自動運転について「自動化(automated)」「繋がる(connected)」という2つの価値を提案するのに対して、日本は「繋がる技術は自動化に必要なもの」と考えやすいが、日本でも若い世代は異なる観点を持っているようだ。

 自動運転との親和性についてはもうひとつユニークな事例がある。

 主婦のなかにはロボット掃除機に対して愛着を感じ、話しかける人が増えているらしい。ペットのように名前で呼ぶ人もいる。実は、我が家でも同じことが起きていた。妻に「全自動洗濯機にも名前を付けているの?」と聞くと、答えはノー。掃除機と洗濯機のどこが違うのか、答えはシンプルだった。

 「動くか、動かないか、その違いよ」

 自動で部屋の中を動き回るロボット掃除機は擬人化しやすい。法律では人を自然人、会社を法人と規定する。果たしてAIは“AI人”になり得るだろうか。ロボット掃除機を可愛がる主婦は自動運転車に対して「運転できないからつまらない」とは思わないかもしれない。むしろ、無人で走り回る姿に愛情を感じるかもしれない。いや、AIを設計するエンジニアには、人に愛される自動運転車を開発してほしいと思っている。

 クルマの自動化で、私たちの社会は大きく変わる。社会が変われば、ライフスタイルも変わるだろう。未来を作るのは若い世代だが、老若男女を問わず、未来社会に大きな夢を描きたいものだ。

11月に開催された内閣府SIP市民ダイアログでは「モビリティと都市」をテーマに、大学生や一般社会人と熱い議論を交わした

「CASE」を掲げるダイムラーがますます加速

 さて、ここからは自動運転に関するトピックスを振り返ろう。

 今年も勢いがあったのはやはりメルセデス・ベンツだ。年初のCES、秋のフランクフルトモーターショー、東京モーターショーと、大型イベントのたびに新戦略「CASE(Connected、Autonomous、Shared&Service、Electric Drive)」の重要性や先進性を訴えてきたわけだが、このCASE、実はモビリティのビッグバンを予言しているのではないかと密かに感じている。しかも、その中身は着実に具現化しつつある。

 まず大前提として、メルセデスにとって安全技術は最重要テーマで、これまでも衝突安全や予防安全の分野で、さまざまなイノベーションを起こしてきたという事実がある。オフセット衝突試験法やABS・ESC(横滑り防止・自動安定装置)はメルセデスが実用化した技術だし、衝突安全と予防安全の間に存在する衝突に備えるというプレ・セイフティ技術(日本ではプリクラッシュ技術)もメルセデスの提案による。同社は実際の事故を詳しく調査し、その時点でできる最善の技術を実用化してきた。

 Eクラス(W213型)に採用されたドライバー・アシストシステムは現存する新車の中ではもっとも進化している。機能的にはテスラの自動車線変更機能と同じだが、メルセデスはユーザーの誤解や過信を恐れて、自動運転(オートパイロット)ではなく、インテリジェント・ドライバー・アシスト・システムと呼ぶ。システムの中心はアクセルとブレーキの高度化。前方車両との車間距離を維持するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)と、突発的な事態に対応する自動ブレーキ(ブレーキアシスト・プラス)が組み合わさっている。

 車線認識にはカメラを使い、電動パワーステアリングで車線をキープする。車線から逸脱しそうになるとステアリングホイールに内蔵された加振器が振動してドライバーに知らせる。それでも逸脱したままだと、ESC (ESP)のブレーキ制御を使って瞬時に元の車線に戻す。しかも、実線と破線では異なる制御を行う。実線はその先に走行レーンがないので、高リスクと判断してESPのブレーキ制御で対応するが、破線の場合はミリ波レーダーで隣のレーンの状況を判断し、クルマの有無でリスクを計算。素早く戻るときはESPのブレーキ制御、時間的な余裕があるときはステアリング制御でカバーする。

 メルセデスの自動車線変更機能はステアリングから手が離れて10秒後にアラームが点灯するようになっている。警告を無視し続けると、今度は自動的に速度が低下し、最終的にはハザードが点灯して緊急停止する。この機能はデッドマンシステムとも理解できる。たとえばフリーウェイをACCで走行中に急病で運転不能になった場合、このシステムがあれば二次的な事故を防げる。もちろん自動運転車にも同様のシステムは必要となるはずだ。

 メルセデス・ベンツにはガソリン自動車を開発したメーカーとしての自負があり、クルマの課題は自ら解決するとの気概に満ちているのである。

9月の東京モーターショーでも「CASE」をアピール ©Daimler AG

 

世界初レベル3を実現するアウディA8と法律問題

 自動運転の定義は現在6段階(レベル0~5)あるが、ドライバーにサブタスク(スマホの操作など運転以外の行為)が許されるレベル3以降が本格的な自動運転だと考える専門家は多い。しかし、レベル3ではシステムから人間に運転の主体を切り替えるハンドオーバーが起こる。いつ、どのタイミングなら安全にハンドオーバーできるのか。この問いが難しいため「レベル2を進化させて、そのあとは一気にレベル4に行く」と考えるメーカーが増えている。

 そうしたなかで、アウディからレベル3を実現する「アウディAIトラフィックジャム・パイロット」を搭載した新型A8がデビューした。

 ドイツ国内法(道路交通法)ではウイーン協定に基づきドライバーの運転責任が規定されているが、アウディは高速道路の渋滞時のみ(60km/h以下)、ドライバー責任を免除する限定的なレベル3をドイツ政府に申請した。その結果、なんとドイツでは法改正がなされた。これによりドライバーはハンドルから手を離し、サブタスクが可能となった。

 アウディが考える初期的なレベル3はドライバーのサブタスクは限定的で、システムがドライバーをモニターできる範囲に限定している。システムからのトランジッション・タイム(権限移譲)は10秒。ドライバーがシステムからの要請を受け入れないときは自動で緊急停止する。

 システムが運転中に起きた事故はアウディが責任を負うため、事故時のデータはすべてレコーダーに記録される。事故が起きれば、所有者が加入する保険会社が調査を実施し、車両に起因することが認定されれば、メーカー責任というわけだ。EUは国によって法律が異なり、今まさに各国で討議が進められている。法律問題は100%クリアされたわけではないが、2018年度にはEUの一部の国ではレベル3で走れるかもしれない。

 ちなみに、メルセデスはこうしたレベル3を時期尚早と考えている。新型Sクラスにはアクティブ・ディスタンス・アシスト・ディストロニックが搭載され、カーナビで登録した目的地まで、自動で加速と減速を行う。たとえば、高速道路の出口ではHEREの地図から道のカーブを想定し、自動で速度を調整するが、その加減速が見事な完成度であった。

 アウディの技術とほぼ同じ内容に思えるが、メルセデスは自社の技術を「洗練したレベル2」だと位置づける。レベル3に積極的なアウディ、慎重なメルセデス。両社の考えの違いが興味深いが、いずれにしても、法律が整備され、責任問題がクリアになれば、レベル3も意味がありそうだ。渋滞で正々堂々とスマホを操作することができるのだから。

世界初レベル3を実現したAudi A8 ©Audi AG

侮れない運転支援システムの高度化

 日本企業は日産を除けば、自動運転の分野について、やや静観の構えを見せていたが、ついにレクサスが動き出した。2017年1月のデトロイトショーで華々しくワールドプレミアされたLSに最新システム「Lexus Safety System + A 」が搭載されたのだ。

 今年6月に日本でLSをお披露目した際に、先進技術を指揮する伊勢清貴専務はあえて自動と言わず、あくまでも高度な運転支援システムだと紹介した。トヨタとレクサスは自動運転のコンセプトに「チームメイト」という言葉を織り込む。これは、ドライバー(人)の存在を排除せず、人が中心の自動運転を考えていることを意味する。

 新型LSで注目すべきは歩行者を検出し、衝突の可能性が高い場合にはステアリング操作を介入させ、緊急時には自動停止するプリクラッシュセーフティシステム (PCS、歩行者検知機能付衝突回避支援タイプ)の採用だ。これは歩行者の巻き込み事故に対処するもので、メルセデスSクラスにも同様のシステムが搭載されている。この機能をレクサスとメルセデスが同時期に採用したことは興味深い。

 また、ドライバーが心臓発作などで突如、運転不能になった場合に停車を支援するドライバー異常時停車支援システムも搭載された。高速道路ではレーダークルーズコントロール(LCC)と、車線維持に必要な運転操作の支援を行うレーントレーシングアシスト(LTA)を同時に作動できるが、その状態で無操作状態が続くと、システムが危険と判断。①70km/h前後までゆっくりと減速、②さらに45km/hまで減速、③クラクションとハザードで周囲に異常事態を知らせて停止、④電動パーキングブレーキを作動させてドアロックを解除(レスキューを受け入れやすくする)、⑤「ヘルプネット」に救助を依頼、というプロセスを自動で行う。すぐに緊急停止しないのは後続車による衝突を回避するため。時間的な余裕を与えておき、その間にクルマが安全な停止を支援する。

 LTAは安全安心の機能であると同時に、便利快適の機能でもある。従来のACCは前車との車間を維持して走ることしかできなかったが、LTAは単独走行でもコーナーを安全に曲がれる速度に調整してくれる。実走行テストでは90km/hを越えても高速コーナーが近づくと、わずかながら減速。コーナーの出口が近づくと、スムースに再加速する丁寧なドライビングはメルセデスSクラスと同じようにハイレベルな制御だった。

 このほかにもLSには新しい機能が多数採用されているが、いずれも高度なドライバー支援システムである。このスタンスはメルセデスと同様。成熟した運転支援は実際の公道走行において、半自動のレベル3よりも快適で安心感があるのではないか。こうした高度に洗練された運転支援の価値は今後ますます高まっていくだろう。

満を持して発表されたLS500(提供:レクサス)

EVと自動運転の素晴らしき関係

 イーロン・マスク率いるテスラは電気自動車(EV)だけでなく、自動運転にも積極的だ。筆者が初めてテスラの自動車線変更を体験したときは、その機敏でスムースな動きに驚かされた。また、ACCについても目を見張るものがあった。他社のACCはどんなに優れていても前車を追従するときのタイムラグが気になってしまう。原因はエンジンとギアボックスのダイレクト感がないことだ。反応が鈍いエンジンと節度感のないギアボックスではACCの自動追従も困難になる。テスラのモデルSはEVゆえにモーターの応答性が高く、前車の追従性能が鋭い。つまり、EVと自動運転は非常に好相性なのだ。

 減速する際もEVならではのメリットがある。モーターに流す電流をカット(アクセルオフ)すれば、モーターが発電機となって0.2G前後の回生ブレーキがすぐに使えるのだ。従来のブレーキシステムはペダルを踏む→ブレーキ液圧でキャリパーのシリンダーを押す→パッドがローターに押し付けられて制動力を発揮」というプロセスを経るが、モーターならば瞬時に回生が得られるので、減速の応答性が抜群に良い。

 これまでEVは環境に優しい、化石燃料不使用、走行中のCO2排出量ゼロなどと喧伝されてきたが、モデルSユーザーの心理はそれではない。テスラのEVがとてもセクシーで、自動運転機能などの新技術が満載されていて、クルマとして魅力的だからだ。

 モデルSをフル加速すると、F1並の加速Gが体感できる。ポルシェやフェラーリのように何千万円と積まなくても、EVならばエンジン車にはない官能的な感動を味わうことができる。EVは航続距離が短い、充電が面倒など、デメリットがあるのは確かだが、エンジン車にはない魅力を持っていることもまた事実。

 この領域ではテスラが圧倒的な強さを見せているが、この市場にメルセデスがいよいよ本格的に進出する。昨年、メルセデスは「EQ」というブランドを立ち上げた。このEQはエンジンを搭載しないピュアEVだけでなく、ハイブリッドやプラグインハイブリッドも含めた電動化車両の総合ブランドに位置づけられる。

 注目はスポーツブランドのAMGも「EQPower+」としてセグメントされていること。3億円以上のスーパーカー「Project ONE」もファミリーの一員で、メルセデスはこの戦略により、テスラやポルシェなどのライバルと差別化する計画だ。

 2018年は電動化されたクルマのパフォーマンスの競争が始まりそうだ。

技術の粋を結集した「AMG Project ONE」(C)Daimler AG

 

###後編へ続く

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