自動運転に必要なブレークスルー ‐ウェビナーレポート-


 デンソーアイティーラボラトリ代表取締役社長の平林裕司氏と、名古屋大学特任教授でティアフォー取締役の二宮芳樹氏を講師に迎え、3月28日に実施したReVision Premium Club第3回ウェビナー「将来の完全自動運転実現を視野に技術とユーザーニーズを掘り下げる」の模様をレポートする。

Date:2018/04/04

Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部

 

 米国でウーバー・テクノロジーズが起こした事故によって、技術の使われ方や公道実験の是非など様々な議論を呼んでいる完全自動運転。ウェビナーではそのウーバーの事故にも触れつつ、自動運転がもたらす価値や、実現のために必要な社会的議論、技術面において今後求められるブレークスルーなど多様な観点から議論が行われた。

講師を務めた二宮氏(写真左)と平林氏

 

 講師の一人である二宮氏は名古屋大学で自動運転の研究に携わっているほか、大学発ベンチャー企業ティアフォーの取締役も務め、オープンソースの完全自動運転向けソフトウェア「Autoware」を開発している。講演では、Autowareを使った様々な自動走行の様子を動画で紹介しながら、これまで進めてきた各種実証実験の狙いや高精度地図などのテクノロジーについて解説した。

都市の交通革命

 

 二宮氏によれば、一般的な完全自動運転への道筋は大きく分けて2種類。自家用車の運転支援機能を発展させて自動運転レベルを2から3、4へと上げていく「パス1」と、モビリティサービスを意図して低速のレベル4車両を最初から実現し、次第に機能や地域を拡大していく「パス2」だ。トヨタ自動車のe-Paletteなどの例を挙げ、自動車メーカーにもパス2への動きが見られることを指摘した。

 「なぜパス2が盛り上がっているかというと、自動運転による都市の交通革命が挙げられる。渋滞が減り、それによって排出ガスが減り、また事故も減ることが期待されている」(二宮氏)

 さらに“所有から利用へ”といったトレンドや、車に乗っている間に有益な別のことができるというパッセンジャーエコノミー(乗客経済)への期待、物流革命など自動運転がもたらす社会構造の変化について触れた。その上で、「日本で特に期待されていることの一つは高齢化・過疎化とドライバー不足によって動けない人に移動の自由を与えるという、自動運転による運転代行のサービス」「一般道で完全自動運転を実現させることが自動運転のインパクトを生むために必要」と述べた。

 遠隔監視によって運転席に人が乗らない形で実施した自動運転実証実験や、三次元高精度地図を活用する様子も動画で紹介。ティアフォーとして様々な自動運転車両の構築をサポートし、人材育成として学生ベンチャーも支援していることも説明した。

完全自動運転へ開発加速

 続いて平林氏が「自動運転を支える認識技術」として講演。平林氏が社長を務めるデンソーアイティーラボラトリはデンソーの100%子会社で、ドライバー意図推定や周辺状況認識、情報解析・生成など様々な研究開発を自由な環境で行っている。講演では、認識技術やディープラーニングについて動画を使って説明しつつ、最新トレンドや社会課題も取り上げた。

 まず、2016年のテスラの事故や、今年3月のウーバーの事故を動画とともに振り返り、特にウーバーに関しては「暗闇でも見通せるLiDARを搭載しているため、それほど認識が難しい状況ではなかったはず」と、なぜ死亡事故に至ったのか、疑問を提示した。

 また、ゼネラルモーターズやアウディ、ダイムラーなど欧米各社は「完全自動運転は202x年」として段階的な自動化を示唆していたが、ここへきてレベル4開発を明言。「今はサービスを中心として開発が進み、自動運転レベル4から先に来るのではないかという状況になっている」と、完全自動運転の実現に向けて、各社の開発が加速しているという認識を示した。

 続いて、自動運転に必要な認識技術について概説。歩行者認識においては特徴を抽出したデータが重要で、二値の特徴量を用いる「バイナリコード化技術」によって、高速で省メモリな処理を実現することができるという。ディープラーニングを用いた歩行者認識と分散学習についても、実際に歩行者を単眼カメラで撮影し、身長や距離、体の向きを推定する手法を動画で紹介した。

 さらに自動運転の品質保証やAIの責任問題をどう考えるかなどについても触れ、品質保証に関しては「機械学習では、データの品質という新しい概念が出てくる」と指摘した

必要なLiDARの進化

 その後、二宮氏、平林氏によるディスカッションを実施。自動運転の意義に関して、二宮氏は「移動弱者にとってはタクシーを呼んだり、家族に乗せてもらったり、誰かのお世話にならないと移動できない、というのは大きな負担。(自動運転によって)自分の意志で自由に移動できるようになることは大切」と述べた。

 一方で平林氏は、ユーザーと車の関係性について、「すべての車がどんどん自動運転になるかというと、なんとなく違う気がして。車を所有して思ったように走る、ドライビングを楽しむ、という部分は残るのでは。サービスに提供する車と違って、オーナードライバーの自動運転車はA地点からB地点への移動を楽にできる、というものになるのではないか」と語った。

 ウーバーの事故に関しては、「映像だけで見ると、LiDARが使われておらず、カメラだけで見ているように感じる」(二宮氏)、「未完成な自動運転車が公道に出るのは問題。基準を満たすもののみ公道実験をする、(実験可能な)エリアを限定する、などといった方向になっていくのではないか」(平林氏)などの意見交換がなされた。

 これから技術的なブレークスルーが必要な点については、平林氏は「センサーとしてのLiDARの質」だと指摘。二宮氏も賛同した上で、「日本は光技術やデバイスが得意でポテンシャルを持つ国だと思う。今、尖ったものが出てきているのは米国やイスラエルの会社。ぜひ日本の会社にLiDAR開発を頑張っていただきたい」とエールを送った

 議論は、チャット形式で寄せられる質問やコメントにも答えつつ進行。視聴者へのリアルタイムアンケートも実施し、質問「完全自動運転の使い方で、最も『いいな』と感じるのはどれですか?」とのアンケートには、5つの選択肢の中から「お年寄りなど交通弱者の移動に使われてほしい」を選んだ人が最も多く、5割近くとなった。

 


講演および対談の模様は有料会員向けーカイブで全編を視聴可能です。いまからお申込みいただいた方も、年間会員であれば過去のアーカイブも視聴可能です。この機会にぜひご検討ください。

お申し込みはこちらから。


2018年3月28日開催
ReVision Premium Club 第3回ウェビナー
登壇者プロフィール

二宮 芳樹氏 
名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授、株式会社ティアフォー 取締役
 

1983年 名古屋大学大学院電子工学専攻修了。同年、(株)豊田中央研究所 入社。以後、30年間 自動車の知能化による運転支援や自動運転の研究開発に従事。専門領域はカメラ等のセンサの信号処理で、レーン逸脱防止や、カメラベースの自動ブレーキ、ナイトビジョンなどの実用化にも関わる。
2011年から情報エレクトロニクス研究部部長。
2014年から名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授に就任。名古屋大学COIのメンバーとして、高齢化社会のための自動運転の実用化を目指す。
2016年には、完全自動運転のオープンプラットフォームを開発する名古屋大学発のベンチャー(株)ティアフォーの取締役も兼任。

 

平林 裕司氏
株式会社デンソーアイティーラボラトリ 代表取締役社長

1977年、日本電装(現デンソー)に入社。マイコンを使ったエンジン制御、車載LANの研究開発を経て、1993年から、カーナビゲーションシステムの企画、開発に従事。日本、米国、中国等世界のカーナビゲーションを立ち上げた。2011年より現職。自動車という枠に縛られずに、あえて「デンソーらしくない」自由な雰囲気で、研究者のやりたいことができる環境を整え、グループの中でも独自の研究開発を推進している。自動運転に必要な人工知能の開発に力を入れている。

 

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