大学発企業ティアフォーの“壮大な実験”


名古屋大学の特任教授としてモビリティやソフトウェアの研究を続けながら、自動運転システム開発のベンチャー企業ティアフォーの取締役として大学・企業の垣根を越えたチャレンジを重ねる二宮芳樹氏。自動運転の課題や大学発ベンチャーに取り組む意義をどう感じているのか、話を聞いた。

Date:2018/03/26

Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部

聞き手:友成匡秀

 

――名古屋大学で取り組んでおられるお仕事を簡単に教えていただけますか。

名古屋大学未来社会創造機構特任教授で株式会社ティアフォー取締役の二宮芳樹氏

二宮氏: 特任教授として、研究をメインに行っています。これまでは科学技術振興機構(JST)のセンター・オブ・イノベーション(COI)プロジェクトで、名古屋大学が拠点となっている高齢者の移動支援や自動運転のプロジェクトに携わってきました。こちらは9年間のプロジェクトで4年目が終わり、そろそろ社会実装に入るところです。今年からは、同じくJSTの産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)のプロジェクトのほうに移り、開発してきた自動運転ソフトウェア「Autoware (オートウェア)」を、「ハーモウェア」という人間や社会に調和するプラットフォームに進化させるための研究をしています。自動運転の社会受容性を評価することもテーマです。

――オートウェアは二宮先生が取締役を務める自動運転システム開発の大学発ベンチャー、ティアフォーでも扱っていますよね。

 

二宮氏: はい。今、自動運転の開発では、人工知能(AI)や通信、クラウド、センサーなど戦場が大きく広がっていて、単一の自動車会社やサプライヤーがクローズで開発するだけでは追い付かなくなっています。オートウェアはオープンソースのプラットフォームです。オープンソースにすると、大学も含めて世界中の多くの人を巻き込んだ開発ができ、うまくいけばデファクトスタンダードを生み出せます。新しいモビリティサービスをいち早く実現するため、こうした取り組みで自動運転技術とその周りのサービスを支えることができればと考えています。ビジネスとしては、オートウェアを使って自動運転車を作りたい人がいるとそれを手伝ったり、教育をしたりしています。

モビリティサービスの一部を担うことも

――オートウェアを発表してから3年、どのような変化がありましたか。

二宮氏: 早い段階でオープンソース化したこともあって、オートウェアは広く使っていただいています。民間会社は100社以上、大学・研究機関も80以上が使っています。オートウェアは、使い勝手がよくなるようにどんどん変えています。地図も当初考えていたものでは情報が足りなかったため地図フォーマットも変えていっています。あと、オートウェアは基本的に地図とLiDARで一般道路のレベル4を目指しているのですが、レベル2で使いたいという声もあって、ビジョンベース、カメラベースのバージョンも出すようになっています。いろいろな企業とのアライアンスも生まれています。

――オートウェアは無償公開だそうですね。企業としてはマネタイズが気になるところです。

二宮氏: 現時点ではオートウェアを使ったシステム構築支援サービスや教育がビジネスになっていますが、将来的にはモビリティサービスの一部を担うことも考えています。車両を使うお客さんから料金をいただくこともあり得ますし、例えばスマートフォンのアンドロイドOSのようにOSに載せるサービスから料金をいただいたり、車に乗ってもらった人に広告を見ていただいて広告収入をいただく、などいろいろな可能性があると思っています。

――数多くの実証実験にも関わっていらっしゃいますね。

二宮氏: 本年度、愛知県内の10市町で実施した実証実験にはすべてオートウェアが使われています。名古屋大学がダイレクトに実施したものが1カ所、COIプロジェクトでも豊田市と春日井市で行い、春日井市だけでも4件を実施しています。地図会社のアイサンテクノロジーの実験車はオートウェアで動いていて、国土交通省の道の駅を拠点にした自動運転実証実験にも参画して、日本各地で走っています。これとは別に、東京都杉並区での実証実験や、日本郵便との配送実験など、いろいろな実証実験でオートウェアを使った車が走るようになっています。

――ティアフォーはハンドルやペダルのないワンマイルモビリティ車両「Milee(マイリー)」も発表されていますが、いつ頃、実用化されますか。

二宮氏: 実用化の定義によりますが、今月中に公道ではないところで実証実験は行う予定です。ナンバープレートを取得するには少し時間がかかると思いますが、本年度中には公道で実際のサービスに近い実証を始める予定です。ただ、公道ではないところの移動ニーズも沢山あります。遊園地の中だとか、モールの中だけ走らせるとか。Mileeの走行速度は20km/h程度なので、それほど長い距離ではなく、ワンマイル(1.6km)くらいの距離のサービスを考えています。公道では駅から家までとか、最寄りのコンビニまで、などのイメージです。

ティアフォーのワンマイルモビリティ車両「Milee(マイリー)」

 

―― これから完全自動運転の実現へ向けた課題はどこだと捉えていらっしゃいますか。

二宮氏: 技術的には、認知・判断・操作への信頼性と、車両が自分の能力を超えた状態かどうかを自ら判断する能力をもっと向上させる必要があると思っています。また、社会受容性や法律の問題もありますし、いわゆる交通親和性の問題も大きいですね。Mileeのような20km/hの車両を走らせるとすると、交通の中で他の人たちに迷惑がかからないか、インフラにしても車を右折用の信号は今と同じでよいのか、などの問題を解決する必要があります。

倫理的課題にも社会のコンセンサスが必要

――完全自動運転が実現することで、交通事故はどのくらい減らせるでしょうか。

二宮氏: 残念ながら、事故はゼロにはならないです。相手にぶつけられたり、飛び出しがあったりもしますので。人間の運転より、どれだけ事故を減らせるか、という点がポイントだと思います。それを、社会としてロジカルに判断できるかどうか、日本は苦手な部分ですね。欧米では「新しい技術に犠牲はつきものだが、それ以上の社会便益があるからやる」という考え方があります。「新しい事故が多少増えるかもしれないけど、事故によって亡くなる人を20%減らすことができるなら、そのシステムを導入しない方が社会的に悪ではないか」という意見もあります。

――社会的な議論が必要ですね。また、プログラミングするときに、自動運転システムが2つの害悪のうち、いずれか1つを選択して遂行しなければならないようなときにどうするのか、倫理的な問題もあるのではないでしょうか。

二宮氏: まず、前提として、AIにしても機械が判断するのではなく、あくまでプログラミングするのは人間で、どのような状態のときに何を選択するかを決めるのは人間だということです。まだ世界的にも答えは出ていませんが、どのような場面でどうすべきか、私は社会的なコンセンサスを得ていくべきだと思います。マサチューセッツ工科大学(MIT)では広くアンケートも実施しています。目の前に子供が5人いるときにはハンドルを切って崖から落ち自分が犠牲になるべきかどうか、などの難しい問いに意見を聞いています。車はドライバーを優先的に守るべきだ、とか、崖から落ちてでも子供を守るほうを選ぶべきだ、などといろいろ意見があり、答えは出ていません。ただ、そうした問いに対しては今、人間も明確な回答を持たずに運転しているわけです。私は、こうした問題には、「社会的にこのような場合はこうしましょう」というコンセンサスを重ねていき、いずれは最終的な判断基準を人間が決めていくべきことだと考えています。

――大学として自動運転ベンチャーに関わる意義をどう考えていますか。

二宮氏: 大学というところは学生もどんどん卒業していきますし、多くのプロジェクトも期限付きですから、恒久的なサービスを続けていくためにベンチャーを立ち上げる必要があったのは事実です。また、研究したことを本当に社会実装しようとしたら、企業的な組織が推進役を果たさなければならない、とも考えています。そういった経緯から、親会社をティアフォーとした学生ベンチャーも数多く作っていて、経営やビジネスの側面からも人材を育成しています。こうしたことがこれから重要になってくると思っています。

――日本の産学連携の現状を、海外との比較でどう見られていますか。日本で、大学・研究機関が取り組むべきことは何でしょうか。

二宮氏: やっぱりドイツなどと比べると、日本は企業も自前主義ですし、大学と企業の間の壁も厚いと感じます。たとえばドイツでは、大学の教員になるための条件は企業でのマネージャー経験だったりします。逆に企業で技術開発を牽引していくためには大学での実績も重視されます。大学教員が「来年から3年間は企業で研究します」などということも普通にあって、企業・大学間の垣根が非常に低いです。

 アメリカでは大学で当然、基礎研究をやっていますが、最近は教員が多くのベンチャーを興しています。ベンチャーを作って大学を辞め、そのベンチャーを売ってまた大学に戻ってくる、などということもあります。ベンチャーがビジネスにつながる研究を生む土台になっていて、そうした活動を企業が支援して先進技術を手の内化する、または買う、というスタイルができています。

 それに対して、日本の企業は階層化がすごいですね。事業部、先行開発、基礎開発、みたいに分かれていて、大学と連携するのは基礎開発の方々で、事業からはすごく遠かったりします。企業の中も、基礎研究から応用研究をやり、そこから10年くらいかけて実用化するというのが基本的なイメージだと思います。今やそんな時代ではなくなってきています。ソフトなんかは、できた瞬間にビジネスです。これまでは企業内で商品開発を大学と一緒にやることなんて考えたこともなかった、という方がほとんどではないでしょうか。ドイツはたぶん違います。そういう意味で、大学発ベンチャーのティアフォーは、ある意味、日本での壮大な実験でもあります。

二宮芳樹氏と名古屋大学の実験車両

 

 


二宮氏が出演するウェビナーは2018年3月28日(水)17:00スタートです。
ウェビナーでは今回のインタビューをより深く掘り下げた内容を予定しております。
ご視聴いただくには事前に有料会員へのお申し込みが必要です。
詳細は下記URLよりご確認ください。

◆ReVision Premium Club 第3回ウェビナー詳細

 

“大学発企業ティアフォーの“壮大な実験”” への3件のフィードバック

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