自動車メーカー、テクノロジー企業を巻き込んだ自動運転の開発競争が激しさを増している。ADASや画像認識、ロボティクスなど知能化関連技術について長く研究・開発を続けてきた本⽥技術研究所R&DセンターX上席研究員の坂上義秋⽒は、いま何を必要と感じているのか。12月5日のウェビナーを前に考えを聞いた。 ※坂上氏登壇のウェビナーは終了いたしました。
2017/11/30
聞き手:友成 匡秀
―― 自動運転に関して、今後何が大きな技術課題になり、競争領域では何がカギを握ると思いますか
坂上氏: レベル3(条件付き自動運転)段階では、自動運転で何ができるのか一般ドライバーにうまく伝わらない可能性があることが大きな課題だと思っている。また、競争領域としては各社が機能・性能を追求していく中で、その突き詰め方が競争になってくる。例えば、白線がかすれているような道でもきちんと車線を維持して走れるかどうか、そうした部分の性能をいかに上げるか、といったところ。
―― センシングは勝負どころですね
坂上氏: センサーは大きな要素になる。認識処理と、耐光性・耐候性、ロバスト性、いわゆる光の変化だとか天候に対してどれほど検出・認識ができるかというところが鍵になる。例えば、モービルアイなどは古くからそうした画像処理をやっているし、各OEMでもそれぞれやっている。一方でNVIDIAやテスラなども独自でやってるわけで、そういった競争で画像処理技術やセンサー技術が向上してくると、自動運転も性能が上がってくると期待している。カメラだけではなく、ライダー(LIDAR)も重要。こちらはまだかなりコストが高く、どれだけ値段が下がってくるか注目している。
―― コスト競争力は自動運転の普及にも重要です
坂上氏: ライダーを手掛けている企業は国内ではまだ少なく、なかなか性能が上がってきていない。海外はもうベンチャー企業が10社、20社と当たり前にライダーの開発をやっていて、そういったところが少し心配ではある。
画像処理の精度、ディープラーニングの質を上げて、アルゴリズムで戦う
―― 海外経験も長いですが、ドイツや米国と日本を比較して気付かれる点ありますか
坂上氏: ドイツは、標準化に向けてOEMや大手サプライヤーが中心となって、領域を分けて取り組んでいる。そこから個々の企業に戻った形で開発に入るといった、最初のコンセプトレベルがものすごくしっかりしていると思う。アメリカは、ご存じのようにいろいろなベンチャーを集め、エコシステムづくりがうまい。一つ例を挙げると、サプライヤーでもレーダー専門、画像処理専門などといった部隊を外から集め、自分たちの技術に拠らずチームをつくって自動運転を開発しているところもある。そういう意味では、日本では自動運転ベンチャーやベンチャーそのものも少ないため、なかなかそうした形になってはいない。
―― 国内で注目している取り組みはありますか
坂上氏: いま経済産業省がOEMから車両のカメラデータを集めるプロジェクトを進めている。OEMとして「データを守りたい」という面もあるが、「画像処理の精度を上げるべき」「ディープランニングでたくさんデータが必要」というところであれば、そうした取り組みに協力するのは賛成。もっと細かい、「ブレーキを踏んだ、加速した」とか、「どこでそういうことをしたか」のような、人の行為の情報までは、その後のデータビジネスにも響いてくるので難しい。まず認識100%じゃないものを信頼度を上げるため、一つのやり方として画像を集めるのはよいと思う。
―― 具体的にどこを一緒になって取り組み、どこで競争するべきかというイメージはありますか
坂上氏: ディープランニングでは、それぞれの画像に対して人間かオブジェクトか、またオブジェクトでも「これは自転車」「これは歩行者」というアノテーション(意味づけ)をある程度、手作業でやっている。グーグルやマイクロソフトはある程度、自動でやっているが、やっぱり人が確認しないと質が上がらない。その作業において、国に標準化されたデータがあれば、それをベースにアルゴリズムの優劣を競い、戦うことができる。ベンチマークのデータベースとしては、ドイツのマックスプランク、カールスルーエ大学と豊田工業大学シカゴ校が立ち上げたキティ(KITTI)という自動運転用の画像処理ベンチマークデータベースがあるが、逆に学習用のデータを拾ってくるのは意外と大変。その部分で画像を集める取り組みが増えれば、各社ともアルゴリズムにフォーカスして戦える。今は、同じ自動車やトラックを認識するのに、各社とも中国やインドの会社に依頼してラベル付けをするなどしている。無駄にお金を使っているように思う。
クルマ同士が道路状況を共有しあえる仕組みを
―― 研究されている技術の中で、今後生かしていければというものはありますか
坂上氏: カメラを備えたクルマが道路状況を共有し合える仕組みを作れれば安全に寄与できると思う。一つの目よりも複数の目で状況を見ることができるし、隠れた危険も発見できる。日本メーカーだけといわず各OEMが協力し合うことで安全レベルが上がればいい。グーグル系のウェイモは主に米国アリゾナ州でテスト走行しているが、アメリカは歩行者が少なく、よほどの都市中心部じゃない限りは周りを見通せる。しかし、自動運転で問題になるのは過密な場所。東京とか上海、ニューヨークで自動運転をやろうとすると、非常に難しい。安全な自動運転を実現するには、情報共有を進めるほうがいいと私は思っている。OEM、サプライヤー、通信企業が連携すればできるはず。
あと、ディープラーニングでは認識を100%に近づけることと、これからは予知・予測のアルゴリズムが必要になってくるだろう。
―― ホンダとウェイモは提携されていますが、ホンダの車でウェイモが日本で実証実験する可能性はありますか
坂上氏: MOU(基本合意書)を結んだところで、まだ様子見の段階。ウェイモはロボットタクシーを発表しているが、日本では、先ほど言ったとおり環境の違いがあるため、いきなりそのロボットタクシーを東京に持ってきても多分動けないと思う。過疎地など、アリゾナと似た環境のところなら可能かもしれないが、日本の山間部では白線がかすれていたり、雪で道路自体が見えなくなったり、草が伸びて道路端が分からないといった道路がよくある。3Dのデジタル地図を作るとより可能性は広がるかと思うが、逆に山間部などでは、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)が難しいという技術課題もある。また、お年寄りはそうしたところに住まわれていることも多く、そうした地域の人たちにサービス提供ができるのは、まだもう少し先かと思う。それをウェイモができるかというと、まだ見えない部分はある。ただ、そういうチャレンジはやってくべきだと思う。
―― ウェイモに協力してしまうと、データを持っていかれるのでは、といった危機感はありますか
坂上氏: 既にウェイモはFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の車で実証実験をしているわけだから、彼らは好きなデータを取っていけることになってるはず。問題は、どのようなデータを使ってどういうサービスをするかだと思う。
―― 今後はどのようなサービスが発展していくでしょうか
坂上氏: 2005年頃、ロボットをやっていたときに「複数のロボットをネットワーク化して、個人の携帯とも、家のシステムとも、それから車ともつなぐことができる」という話をしていたことがある。実際にロボット同士や人と繋がる仕組みは開発した。車のナビと家をつないで、帰ってくるとお風呂が沸いているとか、暖房で部屋があったまっているとか、そういったことは今はもう簡単にできる。ロボットが将来家にいるとして、帰ってくるときに出迎えてくれるとか、例えば掃除ロボットも定期的に動くのではなくて、住んでいる人が出張しているなら帰ってくる前にやる、など人の活動とリンクさせてロボットを有機的に使うことができるようになるのではないか思う。お客様の生活の質を上げるための一つの手段として、今後はIoTと自動運転サービスをつなげるサービスが大きくなってくるだろう。
モノづくりへのディスカッションやトライを、どんどんやっていくべき
―― 自動運転レベルが3、4と上がってくるとき、消費者は何に不安を感じると思われますか
坂上氏: クルマが何をどこまでできるのか分からないから不安、というのはあると思う。また、「車のハンドルを誰も握っていなくていいのか?」というのは、やっぱり心配な部分だろう。現在の自動ブレーキも含め、システムに限界はあるわけで、それをユーザーに正確に理解してもらうことが一番重要。ユーザーにきっちりと分かってもらうことが実は最も難しい。このあたりに自動運転を進める上での大きな課題がある。その他には、サイバーセキュリティに関する部分も不安に感じられるのではないかと思う。
―― こうした点もウェビナーでディスカッションできたらと思います。また、自動車メーカーや関連業界は、今後どのような取組みを進めるべきと感じますか
坂上氏: 今後はさまざまな立場の方が、多様な意見を出していく必要がある。ぜひウェビナーで皆さんとディスカッションできたらと思う。それから、協調・競争の部分に関していえば、一緒に取り組むことでレベルが上がることは一緒にやったほうがいい。ヨーロッパ式がベストかどうか分からないが、研究の段階でお互いの役割を決めてやっていくことは結構重要。いい技術はオールジャパンでなくてもいいし、技術や人材がいる会社と一緒にやっていけばいいと思う。基礎研究でやっていることと量産のギャップはものすごく大きくて、そこを埋めるという点ではOEMや大きなサプライヤー中心にならないとシステムとして動かない部分もある。また実際にモノにするのは日本が得意なところ。今後のモノづくりにつなげるためのディスカッションやトライみたいなものを、どんどんやっていくべきだと感じている。
◆坂上氏が登壇する第2回無料公開ウェビナーは終了いたしました。ありがとうございました。