EV+完全自動運転+モビリティサービスが自動車産業を変革する


 ここ1、2年で欧米の自動車会社は、自動運転開発の方向性をレベル3(走行中に自動運転モードと人間の運転モードが共存する半自動運転)からレベル4(一定条件下でスタートからゴールまでドライバーが運転に関与しない完全自動運転)へと大きく舵を切り始めた。レベル4の自動運転が実現されると、それを運用するモビリティサービスが必須となり、自動車産業の構造が大きく変化する。その際、クルマ側のICTの強化のみならずクラウドに存在するデータセンターとの結合と、その上での自動運転ソフトウェアの開発・改善は勿論の事、大量なデータ分析による市場ニーズに関する洞察や、継続的サービスの改善が成功の要となる。それらを更に高度化するためにディープラーニングの適用も重要性を増す。そうした方向性から海外の主要な自動車会社は自らのICT能力の高め、ベンチャーを含めたこれまでにない協調関係の構築に急速に動き始めている。日本でもこうしたモビリティ・エコシステムともいえる他社との新しい協調関係の構築に早急に取り組まなければ、将来に大きな禍根を残すことになる。

2017/9/3

名古屋大学 客員准教授
野辺 継男

 

野辺 継男氏

 2016年の半ば以降、欧米各社はレベル4の自動運転へのシフトを次々と発表している。これには、同年5月に発生した米テスラによる死亡事故が一つのトリガーとなっている。この事故は度重なるソフトウェア・アップデートにより、ドライバーが既に自分のクルマも自動運転になったものと誤解し起こった可能性が高い。今後、レベル3において、常に更新され続ける自動運転システムの機能をドライバーにその都度「どこまで出来る様になって、まだ何ができていないのか」を正確に理解してもらうのは困難であり、果たして自動運転モードから人間の運転に安全に引き継いでもらう事が可能なのか懸念が生じている。これが欧米各社がレベル3をスキップしてレベル4にシフトする一要因である。

 それに加えて、昨今のディープラーニングの急激な進化に基づき、コンピュータが人間の代わりにクルマを運転し完全自動運転化することの実現性が急激に高まったこともレベル4シフトへの重要な要因となっている。

欧米メーカーが続々とレベル3からレベル4へのシフトを発表

 2016年7月に独BMWはレベル4以上(レベル5は人間が運転できる状況であれば無条件に走り得る完全自動運転)の自動運転開発意向を発表し、2021年までに市場導入することを表明。独アウディは今年6月に他社に先駆けてレベル3と銘打ったAudi A8を発表しているが、実はそれ以前に、モビリティサービスに向けたハンドルやアクセル、ブレーキを持たないドライバーレス・カーの開発を目指す事をBMWと同時期、昨年7月に発表している。

 同年8月には米フォードも、2021年にはライドシェア事業に投入するレベル4の自動運転車を量産すると発表。また、米グーグル(現在、自動運転車開発部門はウェイモとして独立) は自動運転の開発を開始した当初(2009年)からレベル4の開発に照準を当てており、2016年にはドライバーの介入無しに平均8,000km以上の完全自動運転走行を実現し、今年6月から米アリゾナ州フェニックスで一般ユーザーを対象に実証実験を開始している。

 その上で、ウェイモと米レンタカー大手エイビスグループとの提携や、自動車会社によるウーバーテクノロジーズやリフト(Lyft)等のライドヘイリング事業者との提携等、レベル4の完全自動運転車を運用しメンテナンス等を行う事業も活性化しつつある。また、スタートアップの米ニュートノミー(nuTonomy)や米Lvl5等、技術提供会社の出現など、自動車会社以外の様々なプレーヤーが参入し、これまでの提携関係とは異なる合従連衡が急速に繰り広げられている。

米国やドイツでは政府も後押し

 ダイムラーのディーター・ツェッチェ会長は今年3月、米国で開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)での講演で、「40年間仕事をしていて初めて他産業からの脅威を感じた。これまでの我々のゴールに対して我々自身を評価する事はもはや意味がなくなり、我々は我々の先を行くグーグル、アップル、テスラと比較して我々自身を計測し、そうした会社よりも良くなる必要がある」と述べ、「生き残るために我々自身の組織構造や働き方を変えなければならない」と明言している。

 昨年9月、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が発表したFederal Automated Vehicles Policyもこうした業界の動きを後押ししている。NHTSAはこの中で、「米国連邦自動車安全基準(FMVSS)を満たせば自動運転車の販売を制限する法律はない」との認識を示し、例えば、FMVSSの各項目に関して、適応除外や解釈の変更を求める陳情を通せば、限定的な範囲での完全自動運転が商用可能という指針まで提示している。

 昨年12月に米国ミシガン州で完全自動運転車の商用レベルでの路上走行を認める州法が可決された。現在、複数州で州法を準備している(注:既にアリゾナ州では2015年8月に完全自動運転の公道試験を認める州知事命令を出している)。その上で今年6月に米下院からNHTSAの権限を強化して州ごとではなく連邦政府レベルで完全自動運転の商用化を推進する自動運転関連法案が提出され現在米国議会で審議中である。この法案が通れば、全米各地で完全自動運転によるモビリティサービスの市場導入が加速される可能性がある。

 米国の動きは速いが、ドイツでも今年5月に、ドライバーがすぐ運転に戻れるという状態でいる限り、公道での自動走行が認められるように道路交通法が改正されている。

自動車産業はサービス事業へと変化する

 これらの動きの背景には、自動車会社、および自国に自動車産業を持つ政府の競争優位性の獲得や喪失に対する期待感や危機感もある。レベル4が実現し、人がクルマの運転に関与しなくなり、更にクルマの運用効率が上がるとモビリティコストが低下し($1/mileといった目標が提示されている)、多くのクルマは所有するものから利用するものへと移行し、移動を提供するサービス事業が重要となる。その際、売切り型のビジネス形態から日常的にユーザーと接点を持ち、サービスやオペレーションをクラウドベースで継続的に改善する事業形態にシフトしていく事が競争優位性獲得に繋がる。

 このモビリティサービスの付加価値を向上するのは、より強力な事業ロジックだ。そしてその事業ロジックはソフトウェアとして記載される。自動運転のためのアルゴリズムを改善し続け、三次元地図を管理し、それらをワイヤレスでクルマのソフトウェアを適宜アップデートする。その上でクルマがスマホ等を介して呼ばれたとき、効率的な移動を提供するカーシェアリングやライドシェアリング、ロボットタクシーのような配車管理システムも重要な成功の鍵となる。そうしたクラウド上に存在するロジックがサービス事業の基盤となり、それらがクラウド上にあるが故に、事業を国際的に拡大させる事が可能となる。そうした配車管理にはユーザー動向を分析してサービスやソフトウェアを常に改善し、ダウンロードしていく日常的なオペレーションも極めて重要になる。こうしたサービスを実現する技術はSNSに似た仕組みであり、今後は自動運転のみならず、多くの産業で重要な事業基盤となる。

自動車業界のピラミッド構造が変化する

 これまで、自動車事業は自動車会社を頂点とするピラミッド構造を形成してきた。一方、サービス事業に於いては、SNSと同様、常にユーザーとつながりユーザーの意向を把握し続け、サービスの改善や追加を継続的に行う事業体が技術革新も担い、ピラミッドの頂点に立つ。レベル4を用いたモビリティサービスが拡大する為には、両者のピラミッド構造は重なり、その頂点に立つのは、ユーザーと常に触れ合い、ユーザーの求めるサービスを常に提供し得る企業となる(右図)。クルマを作って売る、というビジネスモデルだけでは今後、自動車会社はピラミッド構造の中庸なレベルに押し下げられてしまう可能性が高い。

 欧米の自動車会社はこうした動きを認識し、レベル4以上の競争優位性を決定づける自動運転アルゴリズムの開発を強化すると同時にライドシェア企業やスタートアップと連携したり、自らシェアリングサービスを運営したりするなどして、業界ピラミッドの下部に陥るのを避けるエコシステム作りを懸命に模索している。

ソフトウェアの開発が最重要課題

 グーグル傘下、英グーグル・ディープマインド(Google Deep Mind)のAI囲碁プログラムAlphaGoが注目を集めたように、ディープラーニング、特に深層強化学習は、過去2年ほどの間に飛躍的な進化を遂げた。そしてディープラーニングを利用したセンサーデータからのオブジェクト認識や、それらを走行データとも関連づけた走行アルゴリズムの生成が重要な開発対象となっている。

 概ね従来のプログラミングはIf-then-elseといった条件実行式に記述されてきたが、これで人間が世界各国で数多ある運転判断を記述しつくすのはほぼ不可能である。そこで人間の脳の構造からヒントを得たニューラルネットワークを利用し、大量の周囲の環境情報を学習し、コンピュータが理解出来るように走行環境をアノテーション(意味づけ)し、機械的な反復学習によって次の走行ステップに関する予測モデルや評価モデルを導き出し、人間以上に巧く運転をこなすようにする。こうして、人間の判断に近い形でより上手い走行アルゴリズムを機械的に導きだすことが、今後の競争の重要ポイントの一つとなる可能性が高い。

高度なICTの知見が必須になる

 自動走行の実現に三次元地図が必須である事は言うまでもない。人間の視覚の代わりに各種センサーで見える範囲の物体を確認し、それらを三次元地図に照らし合わせ、例えば「自分の見るべき直近の信号を探し、赤信号であれば止まる」といった判断を行う。ここで三次元地図を参照することで認識処理の負荷を軽減すると同時に正確性も格段に向上する。三次元地図と走行アルゴリズムは相互に連携する。見えない範囲の情報はデータセンター上の三次元地図を介して他のクルマからの情報を集合知として活用し、計画的な自動走行に利用する。この際、グローバルに利用されるためには、計算負荷を低減すると同時に実装コストを軽減する為に、地図データを扱いやすく軽量化する事が重要な課題となる。

 分析に必要なデータは、可能な限り多くのクルマからデータセンターに上げる必要がある。それには画像等大容量のデータを含み、いつ頃、どのように(ネットワークの経路やデータ圧縮等)、どういったタイミングでネットワーク負荷も検討しアップロードするのか、データセンターでの計算結果をどういうタイミングでクルマにダウンロードするのか、車載コンピュータでのプログラムのインストールやアップデートはどういったタイミングで安全に行うのか、データセンターと車載器の負荷分散やコスト配分をどうするのか、ネットワークセキュリティやプライバシー保護に問題はないか等、すべての局面で高度かつ広範なICTの知見が必要になる。こうした技術検討も走行アルゴリズム作成の一環となる。

 この点に関して、欧米では自動車会社とベンチャーを含むICT企業との積極的な関係構築が模索されている。日本でもそうした仕組みを早急に構築し、今後のコアな競争領域となる走行アルゴリズムづくりを早急に進める必要がある。もちろん、人材の問題も大きい。データを扱うソフトウェア・エンジニアの確保や育成も急務だ。

「すべてを自前ではできない」

 今後の発展に向けて、特に強調しておきたい点は、クルマ(アナログ)とIT(デジタル)では開発思想が根本的に違っているという点だ。概ねアナログの技術がベースとなる自動車業界では、自社内で技術を作り込み蓄積する、いわば「匠の精神」が求められ競争力のコアとなってきた。一方、ITの世界では技術はコピーしても品質が劣化することはない。他社がより優れた技術を生み出した場合、同じものを別の方法で作っている時間はなく、全てを自分で作っていては技術の進化に追い付けない。より優れた技術は使わせてもらい、その上に自らのクリエイティビティを追加的に実現するという競争でデジタルの世界は成り立つ。自社に技術を抱え込むのではなく、他社にも使ってもらいデファクト標準が形成され、それが競争優位性にもなる。

 EV化やモビリティとの融合でますますクルマのデジタル化が進む中で、「クルマ作り」も変わっていかなければならない。アナログにデジタルを融合する際には「すべて自前ではできない」、ということを強く認識することが重要になる。有効な技術ならば外部からでも取り込み、最新のAI技術を活用しながらソフトウェアと走行アルゴリズムを作り、テクノロジー企業やサービス事業者と連携して、新たなモビリティサービスを生み出していく。それが今後、日本の自動車・モビリティ産業がグローバルで戦っていく上で、競争力向上の最重要なキーポイントとなるだろう。

 

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野辺 継男 (のべ つぐお)
1983年、日本電気株式会社に入社し、パソコン事業に関連した海外事業、国内製品技術、及びソリューション事業関連で国内外での各種プロジェクト立ち上げに携わる。退職後、国内最大級のオンラインゲーム会社を含む複数ベンチャーを立ち上げた後、日産自動車株式会社入社し、カーウイングスやVehicle IoTの開発等をリードする。2012年よりインテル株式会社入社。チーフ・アドバンストサービス・アーキテクト&ダイレクターを務める傍ら、2014年から名古屋大学客員准教授を兼務。

 

 

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