「運ぶを最適化する」というミッションを掲げ、使い勝手のよいオンライン・データプラットフォームを武器に物流分野の課題解決を目指すスタートアップ企業Hacobu。代表取締役の佐々木太郎氏に、現在の物流の課題やこれからのMaaS発展に必要なアプローチについてインタビューした。
Date:2018/05/25
Text & Photo:友成匡秀
―― 日本の物流の抱えている課題としてトラックのドライバー不足などはよく指摘されています。佐々木さんはどのようにご覧になっていますか。
佐々木氏: 物流は大きく二つに分かれます。一つは倉庫内の話。あとは倉庫間、倉庫から店舗、さらにその先までを運ぶ世界です。ドライバー不足と言われているのは、運ぶ世界の課題なんです。倉庫内にもいろいろと課題はあるんですが、特に運ぶ世界の話でいくと、現在、すべてがアナログなんですね。運ぶ世界には物を運んでほしい人と運ぶ人、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)と言われる仕事を請け負う人などが存在しているのですが、彼らがオフラインでつながっているために、いろいろな非効率を生み出しています。ネットワークをいかにデジタル化していくかが、大きな課題だと捉えています。
ロジスティクスには協調すべき領域がある
―― 海外への事業展開もされておられますが、日本と海外の違いはありますか。
佐々木氏: 日本の場合、先に述べた運ぶ世界の方々はメーカーにしても、物流事業者にしても、デジタル化に対して非常に保守的ですね。ITを使おうという話が出たとき、じゃあそれによって工数がどれだけ削減されるか、その工数削減における費用対効果はどうかといったことを考えてしまうんです。デジタル投資は短期のリターンを求めるのではなく、ある程度、中長期的に考えていかなければいけません。
まずは中長期的な戦略を描いて、その戦略を遂行するためには短期的な効果が出なくても投資するというストーリーを組み立てなければいけないのですが、その戦略を描くところが欠けていると感じます。
海外では、目先のコスト削減効果ではなくて、事業モデル自体をデジタル化するくらいの意識で、トップが大きな投資の意思決定をするケースが主流です。ここに大きな違いがあると思っています。日本はやり方を根本から変えない限り、どんどん世界のデジタル化から遅れてしまいます。
―― Hacobuのデータプラットフォームはまさに事業モデルのデジタル化を進めるものと思いますが、その仕組みを教えていただけますか。
佐々木氏: 我々が取り組んでいるのは、運ぶ世界をデジタル化して、それを最適化するためのオープンプラットフォームを作ること。日本だけではなくてアジア全体でやろうと思っていて、6月からタイでも展開します。
そもそも、日本の物流情報を守らなければならないという問題意識を持っています。グーグルにインターネット情報を取られて、フェイスブックに個人情報を取られて、アマゾンに購買情報を取られています。ゆくゆくは、アマゾンが世界最大の荷主企業かつ物流企業として、どこにどういうものが動いているのかを把握し、運ぶ手段に関しても牛耳ってくる世界になるかもしれない。物を運ぶロジスティックスは国防にも資するような非常に重要な情報なのです。そこをなんとか守っていきたいという思いでやっています。
もう一つの問題意識は協調と競争。ロジスティクスの世界には競争するために投資すべき領域と、実は協調すべき領域があると思っています。たとえば、倉庫内でどういうロボットを使うかなどは各企業の強みを作るために投資すべき領域ですが、ドライバー不足に代表されるような、限られたアセットをどう生かしていくかという課題は協調領域だと思うのです。
―― もう少し具体的に教えていただけますか
佐々木氏: トラックの待機時間を例にして説明しましょう。倉庫の周りではトラックが荷降ろしをするために長い時間待つという非効率な状況が起きています。なぜそういうことになっているかというと、到着順に降ろすという、非常に原始的なルールで動いているからなんです。もしも事前に予約ができる仕組みがあれば、無駄に待つ必要はなくなります。
それぞれの業者が異なる仕組みを導入すると、たとえばイオンに配送するときにはこの仕組み、セブン-イレブンに行くときにはこの仕組み、という具合に別々の方法で入れなければなりません。それでは社会コストが増えてしまいますよね。企業や業界を超えて協調すればコストを抑えられる部分はまだまだたくさんありますから、そこを解決できればと思っています。
運ぶ世界には、大きく分けて三つの課題があります。一つは車両を調達するところ、車両の走っているところを管理するところ、最後に倉庫に入るところをスムーズにするところ。我々が提供するプラットフォーム上には三つの課題を解決するための“何か”があって、それぞれ連携して使えるというのが特徴になっています。
各機能を個別に提供している企業はありますが、すべてをワンプラットフォーム、かつ一つのIDで、その日から使える形で提供しているのは、日本では我々だけだと思っています。必要なIoTのデバイスを提供していることも特徴的なところですね。ハードウェアとソフトウェアを両方使いながら、この課題に向き合っています。
データ共有よりユーザーの利便性の追求が優先
―― 実際に利用している企業数はどれくらいでしょうか。
佐々木氏: それぞれの機能でユーザーの数は変わってきますので、一言では申し上げにくいですが、車両調達についてはプラットフォーム上に250社くらいの運送会社がいます。オンライン上で、荷物や運ぶ地域の情報を入力すれば、荷物を運べる運送会社の情報が一斉に出てきます。
我々の目標はアジアの情報・物流プラットフォームになることですので、タイだけではなくてASEANの他の国の可能性も探っていきたいと考えています。日本も含めてアジア全体で、多くの企業が我々の提供する「MOVO(ムーボ)」のアカウントを持っている世界にしたい。荷主企業が「MOVOのアカウントを持っている」と言ったとき、運送会社が「うちもアカウントを持っていますよ」となれば、プラットフォーム上でつながることができますよね。そういう世界を早く作っていきたいと思います。
―― MOVOの仕組みはMaaS(Mobility as a Service)を考える上でも参考になると思います。これから企業各社がデータを共有していくためにはどのような課題を乗り越えていかなければならないでしょうか。
佐々木氏: 「データ共有のプラットフォームを作りましょう」と言うだけでは、誰も動いてくれません。そうではなくて、ユーザーが便利だと思う機能をきちんと作り込んで、その機能をユーザーが自発的に使うことによって、いつの間にか多数のユーザーのデータが共有されている――そういうアプローチを取らないと難しいと思っています。
これは物流に限った話ではありません。ウーバーにしても、ユーザーが便利だと思ったから爆発的に広がったわけです。国が「これを使いなさい」と命じたところで、便利じゃなかったら誰も使いません。だからユーザーの課題を解決して、便利だと感じられるところをいかに作りこんでいくか、そこが大事だと思います。データ共有はあくまで結果であり、データを取ることを目的にしてしまうと、誰も協力してくれない気がしています。
―― 今後、貨客混載も含めたモビリティの可能性は広がっていくでしょうか。
佐々木氏: 旅客と貨物の混載はすでにテストケースも出ていていますし、今後はもっと実用的なレベルで進んでくる可能性はあると思っています。中距離、短距離であれば、十分に可能性はあるのではないでしょうか。
これとは別に、新幹線を貨物に使いたいといった話も出てくるかもしれません。将来的には人を運ぶ世界と荷物を運ぶ世界の分け隔てがなくなり、すべて一つのプラットフォーム上でうまく融合させていく可能性もあると思っています。
―― ありがとうございました。
◆佐々木氏が登壇する「ReVision Mobility第1回セミナー&交流会」は5月31日に開催いたしました。