日立物流は、運行するトラックに取り付けたセンシング機器からドライバーの自律神経など生体データを取得し、人工知能(AI)にて分析することで、運行中の事故を未然に予知・抑止する取り組みを進めている。自動運転技術の進化などによって車両の「安全・安心」にあらためて注目が集まる中で、新たなデータ活用の試みは、物流以外の広い領域でも活用される可能性を秘めている。
Date:2019/10/07
Text:ReVision Auto&Mobility 友成匡秀
「IoTが浸透し、AIが進化を遂げたことで、我々が目指す事故ゼロ社会の実現が近づいてきた」。日立物流執行役専務で経営戦略本部長の佐藤清輝氏は、こう語る。佐藤氏は、自身の東日本営業本部長時代に運行中の事故が立て続けに起こった経験があり、どうにかしてトラック事故をなくしたいという思いを持ち続けてきたという。
現在、物流業界ではドライバー不足や高齢化などが進み、運行中の事故は後を絶たない。しかし、これまでドライバーの疲労度を測るには、主に運行前点呼時の測定やドライバーの自己申告等で判断する以外に、手段がないのが現状だった。
産官学連携のオープンイノベーションの取り組み
こうした部分を改善しようと、日立物流では理化学研究所、関西福祉科学大学、日立製作所、日立キャピタルオートリースとともに、産官学連携のオープンイノベーションとしての共同研究を2018年にスタート。運行中のドライバーの心拍、自律神経などの生体情報をリアルタイムに測定・集積し、車の挙動などの運転行動情報とともに総合的にAIで判定する「スマート安全運行管理システム(SSCV)」の開発を進めている。
スマート安全運行管理システムとは、いわば生体データといった新しいタイプのデータと疲労科学に着目し、AIなどの進化するテクノロジーを活用して事故リスク低減を狙う安全運行支援技術だ。ドライバーに危険運転の兆候が出ると、システムが速やかにドライバーや運行管理者にアラートを発し、事故を未然に防ぐ仕組み。
現在、日立物流ではこのシステムの実用化・プラットフォーム化を進めている。また、生体情報測定の精度を高めるセンシング機器・IoT機器については、多くの企業との協業を続けているという。
日立物流では、将来的にはこのシステムをバスやタクシー、一般車両にも応用し、交通社会全体で事故を減らしていきたい考えだ。新たな全運行支援技術がトラック運転手だけでなく、すべてのドライバーにとって有効なシステムとなるかどうか、これからの取り組みに注目が集まっている。