モビリティのインパクト要因・データ活用とサービス創出・コンピュータ進化


第3回ReVisionモビリティサミット 第2日目

2019年6月6日と7日、ReVision Auto&Mobilityはベルサール御成門タワー(東京都港区)にて第3回ReVisionモビリティサミット「自動運転とMaaS、ユーザーエクスペリエンス(UX)が変える次世代のモビリティ・ビジネスモデル」を開催した。イベントレポート後編では第2日目の模様をお届けする。

(前編はこちらから)

 

Date:2019/07/16
Text&Photo:サイエンスデザイン 林愛子

 

 第2日目(6月7日)のサブテーマは「モビリティのインパクト要因・データ活用とサービス創出・コンピュータ進化」。初日は主に自動運転やユーザーエクスペリエンスなどが取り上げられたが、この日はデータをいかにモビリティに生かしていくべきか、通信や量子コンピュータなどのトピックスも織り交ぜながら、ディスカッションが進んだ。

◆プログラムの詳細はこちらから◆

 

セッション4 "モビリティの進化に影響を与える主要要素"

経済産業省 眞柳氏

 最初の基調講演は経済産業省の眞柳秀人氏。タイトルは「CASEがもたらす将来モビリティ社会に向けた政府の取組の方向性」である。

 眞柳氏は、CASE(ツナガル・自動化・利活用・電動化)の潮流が産業構造を大きく変革することを前提に、これから起こるさまざまな変化について解説した。変化に伴い、懸念されるのが販売台数の減少だ。サービス化や自動運転が進めば、社会全体で必要とする台数は減る可能性が高い。眞柳氏は「新興国市場も含めてグローバルで見ると、まだまだ販売台数は伸びると言われている。いずれは自動運転やサービス化で頭打ちが来るかもしれないが、突然そうなるわけではなく、徐々に変化していく」と述べた。

 

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス イザディ氏

 2人目はブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのアリ・イザディ氏。基調講演のテーマは「電動化を巡る欧米・中国などの市場動向とそれぞれの課題」であったが、特に中国市場に関する報告が注目を集め、リアルタイムで質問を投稿できるシステム「Slido」でも非常に多くのコメントが寄せられていた。

 

 続いて登壇したのはインテルの野辺継男氏と、エリクソン・ジャパンの藤岡雅宣氏。野辺氏は「セルラーV2Xや5Gなど通信が変革する自動運転とモビリティ」と題した講演のなかで、「5Gは自動運転やADASにおいて必要だが、マストではない」だと述べた。5Gは技術として有望だが、普及には時間がかかる。4Gをはじめ既存の通信方式でも運用できるシステムを構築し、通信網が整備されれば適宜5Gに対応させていくのが現実的だという。

 藤岡氏の講演タイトルは「5G、セルラーV2Xなど通信技術の進化はクルマに何をもたらすのか」。エリクソンはMWC2019(Mobile World Congress2019)において自動運転トラックのデモンストレーションを行った。同社は本社のあるスウェーデンのヨーテボリで200台の自動運転トラックの導入計画を進めている。トラックに搭載したカメラの映像を見て、遠隔で操作できるという。

写真左から、エリクソン・ジャパン 藤岡氏、インテル 野辺氏

ゼンリン 竹川氏

 セッション4の最後は、ゼンリンの竹川道郎氏による基調講演「自動運転やMaaSの進化に地図が果たす役割」。竹川氏はMaaSにおける地図情報の役割をこう述べた。

「位置情報・空間情報で人々の移動をつなぐことをコンセプトにしている。そのためには、サービスをつなぐ、サービスの手段であるモビリティをつなぐことをやっていかなければならない。地図は現実世界をデータベース化するという概念であり、地域モビリティをつなぐ交通ネットワークだと考えている。つなぐための情報をサービス提供事業者に使いやすい形で提供していきたい」

 

セッション5 "クルマや移動に関わるデータを活用したサービス創出"

 HERE Japanの白石美成氏とヤフーの佐藤伸介氏による共同講演 「地図をベースにしたデータ連携が拓く可能性」では、両社の屋内地図に関する取り組みが発表された。

 ヤフーが提供する地図サービス「Yahoo! MAP」は累計ダウンロード数1700万を突破する人気アプリだ。ヤフーは今年春、ららぼーとTOKYO-BAYでアプリを活用した施設内実証実験を行った。既存の地図情報サービスは道路情報と比べ、施屋内情報が圧倒的に不足している。この実証実験ではアプリを通して施設内マップが提供されるので、ユーザーは広大な駐車場のどこに自車を置いたか、どのエントランスから入ったか、目指すお店まではどう歩けばいいか、といった情報を得ることができる。この屋内地図を提供したのがHEREだ。

 「施設内で目指す店舗の場所が分からないとき、多くの人が案内カウンターなどに行かず、お店に直接電話したり、自分で捜し歩いたりする。屋内地図はそんな困りごとに応えられるもの。当社ではHERE Venuesと呼んでいる」(白石氏)

 商業施設までの経路も何かしらの地図サービスを使っていることが多く、その延長線上に屋内地図があれば、利用者にとってはシームレスで利便性が高い。屋内地図の取組みはまだ始まったばかりだが、これから一気に普及する可能性を秘めている。

写真左から、HERE Japan 白石氏、ヤフー 佐藤氏

 

 セッション5の後半はパネルディスカッション「クルマや移動に関するデータをどう集約・活用すべきか」。日産自動車の三浦修一郎氏が座長を、日本マイクロソフトの内田直之氏、TencentのPeter Zhou(周平)氏、ディー・エヌ・エーの長谷歴氏、東京海上日動火災保険の小坂昇氏がパネラーをそれぞれ務めた。

 中国のIT大手TencentはSNSサービス「QQ空間」やメッセンジャーアプリ「WeChat」などを提供しており、そこにモビリティ関連サービスが紐づいているという。そんなZhou氏のプレゼンテーションを受けて、三浦氏は「(日本とはアプローチが)全然違う。テレマティクスのアプローチはOEMがお客さんを囲い込み、IDも自動車会社発行のものを使ってもらう。しかし、Tencentではライフサイクルをマネジするようなサービスを提供するWeChatのIDを使い、そこで生まれるデータはOEM側も使うことができる。マーケティングプロセスの最初にWeChatがあって、そこからモビリティサービスを作っている。デジタルトランスフォーメーションをそのまま行っているようなイメージ」だと述べた。

 また、ディー・エヌ・エーの長谷氏はタクシー配車アプリ「MOV」の提供事業者の立場から、東京海上日動火災保険の小坂氏は保険サービスの観点から、それぞれプレゼンテーションを行った。

写真左から、日本マイクロソフト 内田氏、Tencent Zhou氏、ディー・エヌ・エー 長谷氏、東京海上日動火災保険 小坂氏、座長の日産自動車 三浦氏

 パネルディスカッションに続き、日本マイクロソフトの内田直之氏による講演「MaaSなど新しいモビリティサービス構築に必要なデータプラットフォーム」が行われた。内田氏は自動車に関係するデータプラットフォーム検討ユースケースを「メーカ・ディーラサービス」「車両研究開発」「社会サービス」「モビリティサービス」の4つに分けて解説。そのひとつ、車両研究開発については高度なデータ解析としてADASの信号の活用例を紹介した。

日本マイクロソフト 内田氏

 「車両のADAS信号から路面の状態や環境情報を分析する取組みを進めている。たとえば、スタビライザー系の信号がドンと出たら、そこの道路は横滑りしやすいということなので、その情報を半径500mの車に信号として送る。自動運転ではなく、あくまでテレマティクスの機能として行う。先般NVIDIAの協力のもとに半径1km以内の200台に伝えるシミュレーションを行い、成功した。難しいのは信号の分析。スタビライザー系と言っても、OEMごとに設計が異なり、信号の出方にも特徴がある。そういう差分を全部吸収する方法を検討している」(内田氏)

 内田氏からはそのほかデータに着目し、モバイルサービスのデータプラットフォームベンダーでありクラウドベンダーの立場から、さまざまなアイデアが紹介された。

 

セッション6 "コンピューターの進化がもたらす未来"

 2日間にわたるモビリティサミットの最後のセッションはコンピュータの進化がテーマ。慶應義塾大学の柏山正守氏、デンソーの寺部雅能氏、日本電気の白根昌之氏、そして住友商事の植田徹史氏が登壇し、講演とパネルディスカッションを行った。

 まずは柏山氏がセッション6全体に通じるトピックスとして、コンピューティングシステムの進化と、その進化を阻み得るボトルネックなどについて概説。機械学習や人工知能(AI)の定義、量子コンピュータの種別などについても解説した。そして、今後、AI関連技術の発展のためにはコンピューティングパワーの課題の克服が必要であること、AIと量子コンピュータのフュージョンコンピューティングが実現しそうなこと、自動車に影響を与える技術分野で大きなブレークスルーが起こることなどを述べた。

 デンソーの寺部氏は量子コンピュータの最近動向を紹介。デンソーではタイでの交通流最適化、マルチモーダルサービス最適化、工場での物流最適化などに取り組んでいる。他社もやはり量子コンピュータに注目しており「VolkswagenとGoogleは渋滞解消に取り組み、BMWは工場でのロボアームの軌道最適化に活用、FordもNASAとの活動開始を表明するなど、自動車業界で盛り上がりつつある」という。

 日本電気の白根氏は量子アニーリングでできることとして、AIと組み合わせ最適化の流れを図示。起点は実世界にある人・モノ・環境といった要素で、その先はサイバー空間の「見える化、分析、対処という流れ。この対処の部分を最適化するのが、組み合わせ最適化の役割。よく例に挙げられるのは配送路の最適化モデル」だと紹介した。

写真左から、デンソー 寺部氏、日本電気 白根氏、住友商事 植田氏、慶應義塾大学 柏山氏

 パネルディスカッションでは、はじめに住友商事の植田氏がプレゼンテーションを行った。

 「(量子コンピュータのような最先端技術を事業に取り入れていくために)全社横断の最先端技術によるビジネス検討会を発足した。設立のポイントは、事業横断で取り組むこと。組織依存にならないよう有志のメンバーで取り組むこと。社内だけでなく社外とも連携を図ること。4月にはオープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」を設立した。多彩なパートナーとの価値創造につなげたい」(植田氏)

 昨今、急激に注目度が高まっている量子コンピュータは果たしてどういったところから社会実装されるだろうか。

 寺部氏は「現時点ではモビリティよりも工場が先ではないかと思っている。渋滞解消の計算を高速化できたとして、どうやって車両を制御するか、マネタイズはどうなるのか、課題が多い。工場はそのあたりが明快。我々としては工場で実証を積み重ね、モビリティに持っていけたらと思っている」と語った。

 一方、白根氏は「モビリティではなく、金融や製薬業界」を挙げた。高価なハードウェアを購入し、ある程度まで独自開発するとなると、相応のリターンが見込める業界でなければ難しいだろうとの見立てだ。

 また、Slidoから寄せられた質問「モビリティ分野では量子コンピュータをルート最適化以外の何に使えるか」に対して、寺部氏は「CASEのなかではシェアリングと相性がいいと思う。シェアリングエコノミーがそもそもリソース配分の最適化という概念だ。たとえば、相乗りをどう組み合わせるかといったこと」と回答した。

 このほかにも多数の質問に対応し、時間をややオーバーするまでディスカッションは続いた。

 

 次回のReVision モビリティサミットは12月に開催予定。

 

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