MaaS活性化に取り組む経産省の意図


国内のMaaS(Mobility as a Service)活性化を狙い、経済産業省は6月に「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」を設置。有識者や企業との意見交換を進めている。10月に発表した中間整理では世界のモビリティサービス動向を整理し、日本における現状と課題、今後の取組みの方向性を整理して公表した。研究会設置に込められた意図とは何か、同省製造産業局自動車課課長補佐の眞柳秀人氏に聞いた。

 

Date:2018/11/13
Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部
聞き手:友成匡秀

 

――研究会の狙いや背景はどこにありますか

経済産業省 眞柳秀人氏

眞柳氏 IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)など新技術の進展によって、新しいモビリティサービスが世界で広がりつつあります。もとより、移動に対する人のニーズは多様です。地域、年齢、家族構成によってもニーズは異なりますし、現代ではそのニーズがさらに複雑さを増しています。

 日本では、海外に比べて公共交通が成熟していますが、これから人口減少や高齢化が進むと、地方では公共交通サービス維持が困難になったり、移動弱者が顕在化したりするケースが出てきます。一方で、都市部では渋滞や過剰な移動需要などの問題を抱えています。そうしたなかで、IoTやAIなどの新技術は、多様化・複雑化するニーズに応える新しいサービスを生み出せる可能性を秘めています。

 同時にこのことは、新産業の創出や新しいプレーヤーの活躍など、産業振興の側面からも大きな可能性を秘めています。こうした観点から、まずは現状の課題を整理して今後の取組みをまとめることが重要と考えたのです。

――新しいモビリティサービスによって、利用者と移動サービスの提供側に具体的にどのようなメリットが生まれるでしょうか。また、どのような未来をイメージしていますか

眞柳氏 ユーザーにとっては、移動の選択肢が増え、移動時間や費用が最小化される、といった価値が生まれるでしょう。また、移動を提供する側は稼働率を最大化できるといったメリットが生まれます。

 今は多くの人がスマートフォンを持っていて、アプリなどを通じて、移動したい人の需要を見える化することができます。移動を提供する側は、そうしたデータを活用することで、効率的に移動手段を提供できるようになると考えています。

 また、人が移動する先には目的があります。それはショッピングセンターだったり、病院だったり、観光だったりします。移動データをうまく活用することで、移動先と連携してさまざまな産業の活性化に資することも期待されます。さらに、移動の利便性が高まることで、外出を躊躇していた人たちが積極的に外に出るようになると、そこに新たな需要が生まれ、街が活性化します。こうした、誰もが快適に、どこへでも行ける世界というのが目指すべき将来の姿です。

 

モビリティサービス創出の前提となるデジタル投資

――海外に比べて、日本ではまだ新しいモビリティサービスの広がりが十分とは言い難いのではないでしょうか。日本に参考になるという点で注目している海外事例はありますか

眞柳氏 確かに、日本では新しいモビリティサービスの広がりはこれからです。そうした意味で、今回の中間整理では海外事例をたくさん盛り込みました。

 具体的に挙げるとすると、欧州でダイムラーが提供している乗り捨て型カーシェアリングサービス「car2go」には注目しています。一般的に、新しいモビリティサービスはマネタイズが難しい分野ですが、car2goは既にビジネスとしてペイしています。また、自動車メーカーが主体となって提供している点も注目すべきでしょう。

 ドイツでは、ダイムラーやフォルクスワーゲンなど自動車メーカーが新しいモビリティ分野に積極的に挑戦しています。これは、日本の自動車メーカーにとっても参考にできると思います。

 他の注目事例としては、相乗りタクシーやデマンドバスといったサービスです。例えば、米国の都市部では、「Chariot」や「Via」といった乗合いサービスが既に存在しています。これはまさに、IoTやAIが可能にする典型的なサービスです。インターネットで移動需要を収集し、AIで最適なルートをはじき出す、というアプローチは参考になるのではないでしょうか。

――今回の中間整理では、今後の取組みの方向性として3点を挙げていましたが、まず最初に「デジタル投資促進とデータ連携・利活用拡大のための基盤整備」を挙げていました。その理由は何でしょうか

眞柳氏 複数の移動手段のデータを連携させることで、新たなサービスが提供可能となったり、移動の利便性が大きく高まったりすると考えています。たとえば、鉄道、バス、タクシー、カーシェア、自転車シェア、など多数の移動手段の連携です。フィンランドの「Whim」では、すでに複数の移動手段を連携させ、検索から予約や決済のほか、定額乗り放題サービスも提供して、非常に利便性が高いサービスとして注目されています。

 日本で、こうした取組みを進めようとすると、まずは鉄道やバスの時刻表・運行情報などがデジタル化される必要があります。紙に書かれた情報でやり取りするのは難しいですので。

 加えて、リアルタイムの運行情報、タクシーやシェアカーの在庫情報なども必要でしょうし、連携するには、こうしたデータをオープン化・標準化する必要が出てきます。その意味で、デジタル投資促進はまずサービス創出の前提として必要と考えています。

 デジタル投資を促進するためには、まず各交通事業者としてどのようなベネフィットが得られるのかを示していくことも重要になってきます。

 具体的に共有すべきデータとして重要なものは何か、といった議論を進めなければなりませんし、移動を提供する企業側にとってどのようなメリットがあるのか、そのインセンティブ設計も重要になります。こうしたことを、一つひとつ議論していくべきだと思っています。

 ただし、日本全国、津々浦々まで一律のサービスを提供する必要はないと思っています。地域によって課題は異なります。地域やそれぞれの都市の特性を考え、どのようなモビリティが必要かを見つけていく作業も必要です。

 

スタートアップや自治体にも期待

――データの共有や異業種協業をする上で、日本企業独特の慎重さ、といった難しい課題もあるのではないでしょうか

眞柳氏 国内では最近になってトヨタ自動車とソフトバンクが連携してモビリティサービスを手掛ける新会社を立ち上げる、といった動きもありましたし、自動車メーカーや大企業も積極的になってきています。

 他方で、中間整理ではスタートアップ企業の活躍余地にも触れていますが、「まず、やってみる」という姿勢においてはスタートアップの役割が重要になってくると思います。経済産業省としても、これからいろいろなスタートアップの方々のお話も伺いながら、スタートアップや異業種等との協業などを促進していきたいと思っています。

 また、地域ごとにニーズ、課題、ステークホルダーも多様です。こうした中で、異業種のプレーヤー同士の垣根を取り払い、連携を促進していく、という意味においては自治体の果たす役割も大きいと考えています。自治体は、その地域のニーズや課題を分かっています。地域ニーズや課題への理解は、異業種の人たちをコーディネートしていく上で大きな力になります。そういう意味で、柔軟な発想とイニシアチブを発揮して取り組む意欲ある自治体を積極的に後押ししていきたいと思います。

――これから、多くの企業で新しいモビリティサービスの創造に関わる方々に伝えたいことはありますか

眞柳氏 IoT、AIといった技術進化によって、第4次産業革命がモビリティの世界にも到来している現在は、企業にとっても大きなチャンスだと思います。新しい産業の創出や新たな移動需要の喚起、といった意味で、新しいモビリティサービスの創出は幅広い関連産業の活性化にもつながります。

 新しいサービスを生み出すためには、「まず、やってみる」という姿勢がないと、なかなか前には進みません。安全・安心を確保することが大前提なのは言うまでもありませんが、その上で、スタートアップの方でも、大企業の方でも、積極的に新しいモビリティサービス創出に取り組もうとする方々を、我々はしっかりとバックアップしていきたいと思っています。

 

◆参考

「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理(平成30年10月17日、経済産業省)

 


眞柳氏も登壇予定の「ReVision Mobility第2回セミナー&交流会」は11月21日開催です。


 

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