ReVision Mobilityセミナー&交流会の午後の部は、3つのプログラムで構成。自動運転の要素技術やサービス視点での自動運転の可能性、さらにはMaaSの議論まで、幅広いテーマで議論が交わされ、会場からも自動車業界が抱く切実な悩みが質問として多く投げかけられた。
Date:2018/06/20
Text:モビリティジャーナリスト 楠田悦子
Photo:フォトグラファー 早川マナ
(前編はこちら)
Uberの事故から考えるレベル4の課題
午後1つ目のプログラムのテーマは「レベル4の自動運転に向けて、各要素技術の進化と今後の課題を探る」。
スピーカーはデンソーアイティーラボラトリ代表取締役社長の平林裕司氏、名古屋大学未来創造機構特任教授でティアフォー取締役の二宮芳樹氏、そして、インテル事業開発・政策推進ダイレクタの野辺継男氏がモデレータを兼務する。
特に注目が集まったのは世界に激震が走ったUberの自動運転の事故だ。
野辺氏によれば、事故調査の公式発表では「車両にはLiDAR等が搭載され、歩行者を認識できたが、その仕組みと緊急ブレーキシステムがつながっていなかった」ことが指摘されているという。Uberの目的は自動走行システム開発のためのデータ収集であり、先にブレーキシステムが作動しては欲しいデータが集まらなくなる。だからシステムをつなげていなかった。「現段階では研究開発段階なので、これからより安全性の高いものを開発するべく、アメリカは動いている」という。
また、平林氏もUberの問題に触れて、「(あのような公道で)当たり前にテストが行われてよいものかどうか、そこが重要だ」だとして、自動運転の公道試験における基準や制度の必要性について述べた。
二宮氏は自動運転についてさまざまな問題提起をした。たとえば、自動運転車は既存の自動車に置き換わるものだろうか。人間ではなくシステムが運転するようになれば事故はゼロになるのか。二宮氏は「人間も事故を起こすのだから、その置き換えで考えているうちは事故がゼロにならない。つまり、センサーの性能向上とか、いかに地図を活用するかとか、そういった領域の強化が重要だ」と指摘した。
パネルディスカッションでもこれらの話題について議論が重ねられた。
自動車のデータ活用のために必要なことは?
午後2つ目のプログラムのテーマは「新しいサービスを生み出すため、車に関わるデータをどのように活用すべきか」。
スピーカーは、日産自動車アライアンスコネクテッドカー&モビリティサービス事業部サービスデリバリ&サポート管理部長の三浦修一郎氏、アマネク・テレマティクスデザイン代表取締役CEOの今井武氏、HERE Japan代表取締役の白石美成氏、日本オラクルクラウドソリューション営業統括Digital Transformation推進室 担当シニアディレクターの内田直之氏の4名。
それぞれのプレゼンテーションの後に行われたパネルディスカッションではコネクテッドの価値について議論が交わされた。三浦氏は「EVや自動運転の要請に応えるにはクルマをデバイスとしてとらえてモビリティサービスにつなげる、または自動運転に必要な情報を獲得することがコネクテッドの基本的な価値になってきているのではないか」と述べた。
一方、前職がホンダである今井氏は東日本大震災のすぐあとにインターナビのデータをいち早く公開し、目まぐるしく変化する被災地の交通情報を発信した経験を持つ。そのときはホンダの動きが契機となり、トヨタや日産もカーナビのデータを公開して、より充実した情報を発信することができた。
「(企業を越えた)データ共有が必要との認識は広がっているが、具体的な行動に結びついていない。企業ごとにこのデータは出せる、出せないといった事情もあるだろう。そこで共同出資で企画会社をつくり、どういったモデルならば成立するのか、知恵を出し合ってはどうか。今日は『そういう仕組みをともに創っていきませんか』と、それを伝えたいと思って来た」(今井氏)
この呼びかけには会場から大きな拍手が起こった。
なお、HERE Japanの白石氏と、日本オラクルの内田氏からも、それぞれに専門性の高い意見や情報が発信され、話題は走行データの所有権の確認やデータ所有者の個人特定をいかに扱うべきか、モビリティにおけるブロックチェーンの可能性などにも及んだ。両氏は7月5日開催のウェビナーにも登壇予定だ。
日本におけるMaaSの動向をITサイドから
セミナーの最後のプログラムではMaaS(Mobility as a Service))をテーマに、ディー・エヌ・エー執行役員オートモーティブ事業本部長の中島宏氏、Hacobu代表取締役の佐々木太郎氏、そしてIDOM経営戦略室 CaaSプラットフォーム推進責任者の天野博之氏が登壇した。
保有から利用へとユーザーのマインドがシフトしているなかで、旅客、小売、物流の視点から新たな潮流を生み出そうと取り組む三氏が、これからのモビリティサービスについて考えていく。このセッションでは会場からの質問が多数寄せられた。
そのひとつが「プラットフォーマーが自動車をツールとし、いろいろなサービスや概念を作る時代になってきているが、既存の自動車ディーラーは生きて行けるのか」という問いだ。
天野氏は「IT化という心理的バリアを取り除くうえで“リアルプラットフォーム”である店舗を全国に持っていることは強み」と回答。さらに、天野氏が務めるIDOMは中古車売買のガリバーなどの店舗網を有するが、「若者は人が介在することに煩わしさを感じるため、コミュニケーション手法の見直しは必要でないか」と述べた。
また、中島氏はアフターサービスに注目し、「ディーラーネットワークとその背後にある整備ネットワークは利益を出せるバリューチェーンだ。シェアカーの運用など、取扱メニューを増やすとこで、さらに可能性は広がるのではないか」との見方を示した。
一方、物流業界に特化して事業を展開するHacobuの佐々木氏は「物流業界がはいまだにアナログで非効率」であることに問題意識を抱き、企業の壁を越えてつながれるオープンプラットフォームを立ち上げた。
「(モビリティのプラットフォームで)やりたいことが何かといえば、物理的なモノを動かすということ。それが多分ニーズなんですよ。その目的さえ達成できればよく、極論すれば、どんなクルマでもいいし、鉄道を交えてもいいし、ディーラー網を活用してもいいかもしれない。移動というニーズを満たせる、あらゆる手法のなかから最適なものを提供する、そういうプラットフォームがそのうちできるはず。そこでは貨客混載や過疎地の移動支援といったことも話題になってくるだろう」(佐々木氏)
セミナーのあとは別会場にて交流会が開催され、会場内ではセミナー講師や参加者が名刺を交換したり、セミナーでの話題について意見交換をしたりする姿が多数見られた。ここから新しいネットワークが広がり、豊かなモビリティ社会の実現に資するビジネスが生まれることを期待したい。