キーマンが語るメルセデス次世代戦略 ーCESレポート後編ー



『Mercedes meが提供するもの』 
ザビーネ・ショナー氏(デジタル&IT メルセデス・ベンツ マーケング/セールス担当バイス・プレジデント)

デジタル&IT メルセデス・ベンツ マーケング/セールス担当バイス・プレジデントのザビーネ・ショナー氏

清水: サービスブランド「Mercedes me」は2014年に発表され、昨年から旧サービスとの完全統合化が図られていますが、最初にMercedes meの発表を聞いたときは大変驚きました。なぜなら、Mercedes meは自動車メーカーであるメルセデス・ベンツが自動車を売るだけでなく、自動車にまつわるサービスをすべて並列に提供するからです。つまり、ただの自動車メーカーではなくなる、少なくともそういう方向に転換していく決意の表れだと思うのですが、ユーザーの反応はいかがでしょうか。

ショナー: 非常にポジティブです。私たちは自動車メーカーとして初めて、このようなソリューションを提供したわけですが、ほかのメーカーも後追いを始めています。背景にあるのは、製品としてのクルマを提供するだけでは十分ではないという思い。つまり、クルマに関連するサービスそのものを提供しなくてはいけないと思っています。そのために全体のポートフォリオがどういうあるべきかを確定しつつあります。これによってお客様の囲い込みができますし、それと同時にお客様の将来的なニーズを把握することができます。

清水: 将来的なニーズとは。

ショナー: 一人ひとりのカスタマイズしたニーズという意味ではありません。もっと大きなトレンドを捉え、その傾向にあったサービスを提供しようとしています。たとえば、クルマの充電には現状とても時間がかかっていて、使い勝手が悪いという課題がありますから、より快適に使えるようなサービスを考えています。しかも5年前に比べると、さらに進化していくようなものにしたい。これを“Services is beyond the car.”と呼んでいます。

清水: 今までは困ったときの対処法を提供していたところ、ITをうまく使うことでニーズを先読みし、問題を回避できるような情報を提供していくわけですね。たとえば、渋滞を回避するとか、エネルギーをセーブするとか、事故を回避するとか、そういったところに効果を発揮する。だから、ポテンシャルが高いサービスだと考えているのですよね。

ショナー: たとえば、私たちが解析した事故にかかわる全てのプロセスをもとにしたデジタルサービスの提供が可能です。今までは事故を起こしたら、ドライバーが自分ひとりで最初から最後まで行わなければならなかったのですが、スマートフォンで事故の写真を送ると、次に取るべき手段をこちらから提示します。また、駐車場を探している場合に、こちらから一番便利な駐車場、あるいは適切な駐車場の情報を提供できるように開発を続けています。クルマを持っているオーナーにとっては、こういったサービスが必要な周辺サービスだと思っています。

清水: これらサービスのなかで既に実用されているものは何ですか。

ショナー: 現在は5つのサービスが稼働しています。そのひとつが“EQ residence application”というもの。これは非電動車両オーナー向けのサービスで、現在所有している車両をモニターし、「もしも電動車両に乗り換えるなら、このクルマがぴったりです」ということを提案します。また、“Company go application”という決済に関係するサービスも提供しています。ヨーロッパではガソリンを入れた場合、いちいち建屋の中に入ってお金を支払わなければならないのですが、このアプリを使えば、クルマの中で支払いが済むというもの。このようにITを活用してあらゆる周辺サービスを提供することは、エコシステムをMercedes Meの下に作るようなものと。このエコシステムの中に入ることで、オーナーは時間的な余裕が生まれて楽になりますし、快適性も増しますから、Mercedes Meにずっと滞留していただけると思っています。

清水: 日本ではEV普及促進策のひとつとして、車両の電力を系統電力に供給するビークルトゥグリッド(V2G)、あるいは仮想の発電所(バーチャルパワープラント、VPP)の議論が広まりつつあります。要はEVをコネクトしておいて、補助電源あるいはサブバッテリーとして使おうという発想です。東日本大震災のような非常事態が発生したときに、どのEVにどのくらいの電力があるかという情報あれば、非常用電源として使おうとか、移動用に使っても大丈夫だとか、電力利用の最適化を図ることができるわけです。クルマに限らず、エネルギー全体のマネジメントに対してはどのようにお考えですか。

ショナー: 現時点では考えていませんが、新しいアイデアにはいつもオープンなスタンスです。いま私たちが重視しているのは、従来のクルマを持っているオーナーの行動を分析し、その方たちにより良いクルマの使い方を提案していくことです。クルマの使い方は世界各地で異なります。ヨーロッパやアメリカ、アジアのなかでも違いますから、日本では日本のお客さまに合ったものを提案していきます。

清水: 新しいアイデアはどのような形で生まれるのでしょうか。

ショナー: 今回のアイデアはスタートアップから出てきた案をそのまま活用しています。アイデアはスタートアップに限らず、パートナー企業や社内からも出てきますし、お客さまとのコミュニケーションからも生まれます。何かしらのアイデアを試そうとなったら、まずはβ版を作り、クローズドなグループで実際に使いながら、本当に需要があるかどうかを検証します。あると判断すれば資金を投入して、実際の製品化を進めていきます。検証グループには販売部門のパートナーや子会社なども入っています。

清水: Mercedes Meは無料ですよね。課金は考えていませんか。

ショナー: 現在は無料ですが、課金の可能性もあります。第一にパートナー企業からの間接的な課金、第二に実際の商取引を通じた直接的な課金、第三に社内的なアフターセールです。

清水: これからMercedes Meはまだまだ進化しそうですね。ありがとうございました。

Mercedes Meはヒトとクルマの接点を大きく変えていく

 

インタビューを終えて

 2016年のパリオートショーで、メルセデス・ベンツは「CASE(Connected, Autonomous, Shared & Service, Electric Drive)」というコンセプトを打ち出した。非常にセンセーショナルなものであったが、すでにこのコンセプトが次世代モビリティにおける世界のスタンダードとなったようだ。フォードやトヨタも同じようなコンセプトを打ち出している。

 特筆すべきは各社の軸足がモノからコトへと移り、モビリティのサービス化への転換を示唆していることだ。この流れを受けて、多くのサプライヤーは新しい技術に熱心に取り組んでいるし、これまでクルマ業界とは縁がなかったようなスタートアップ企業も新しい提案を行っている。まさにイノベーションの嵐が起きているのだ。

 テクノロジーはますます進化する。社会への実装も進むだろう。そのときモビリティ社会とはどうあるべきか。メルセデス・ベンツが語り続ける「人間中心」という言葉を改めてかみしめたい。

 

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