現地レポート:フランクフルトモーターショー、静かなる幕開け


 世界最大規模のモーターショーのひとつ、フランクフルトモーターショー(IAA2017)が9月12日に開幕した。先進国市場の行き詰まり感や自動走行を巡る競争など課題は山積しているが、足元ばかりを見ているわけにはいかない。各社それぞれが語ったクルマの未来図とは—。現地からレポートする。

2017/9/15

株式会社サイエンスデザイン代表
林 愛子

(写真提供:中谷 智)

電化がもたらす価値をどう表現するか

 今年で第67回を数えるフランクフルトモーターショー、会場内は電化一色だった。プレスカンファレンスでは各社のエグゼクティブが電動化の目標を掲げ、どこを見ても電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)があり、サプライヤのブースには電化に関連する技術展示が目立った。

 そのなかでも圧巻の存在感を見せつけたのがダイムラーグループだ。“公道を走れるF1”の異名を持つ「AMG Concept ONE」のような自動車好きが喜ぶモデルを披露しつつ、パリショーで発表して話題になったEVの新ブランド「EQ」に、SUVの「Concept EQA」とスマートをベースにした「Smart EQ fortwo」を加えて、今後の方向性を指し示している。

 ダイムラーの自動運転といえば、F015に代表されるようなハイクラスのイメージが強いが、今回はスマートEQを主役にしたデモムービーを披露した。

 映像の中の世界は少し先の未来。スマートEQを使ったシェアリングサービスが普及し、友人や家族の出迎えなどに活用されている。駅周辺には出迎えのスマートEQがずらりと並んでおり、このままでは埋もれてしまいそうだが、車体の外側はほぼ全面がモニタだ。顔写真に切り替えれば、すぐさま見つけることができる、というわけだ。

 また、ダイムラー専用ホール2階には柔軟な発想とイノベーション創出を促す場が用意されていた。従来ここは同社の歴史や文化的な発信に活用されてきた自由な表現の場ではあるものの、大人向けにブランコを設置したのはモーターショー史上初だろう。詳しくは次回の詳報で述べるが、ここの展示こそダイムラーの改革の象徴と言える。


ダイムラーブース。手前がスマートEQ。サイドが全面液晶になっているほか、フロントグリル部分のモニタには「Go Ahead」「Bye」などのメッセージを表示可能。前照灯のLEDはウインクのような表現もでき、多様なコミュニケーションスタイルをとることができる


コンセプトEQはダイムラーが打ち出す「CASE(Connected、Autonomous、Sshared and Service、Electric)戦略に則ったモデル。


ダイムラーのプレスカンファレンスにはレーサーのルイス・ハミルトンが登壇。イベントに華を添えた。左はカジュアルな装いのディーター・ツェッチェ会長

 

 一方、フォルクスワーゲン(VW)グループではアウディが自動運転に特化したプレゼンテーションを行い、話題を集めた。アウディは既にレベル3の「A8」を発表しているが、今回はレベル4のコンセプトモデル「ELAINE」を使って、ブース内で自動走行のデモンストレーションを行った。さらに、レベル5の「AICON」を世界初披露。車内には運転に必要なハンドルやペダル類が一切ないという。

 新技術に喝さいが続いたアウディと比べると、地味な印象をぬぐえないのがVWだ。2030年までに300台の電動モデルを出すと宣言し、今なお高い人気を誇るワーゲンバスのEV仕様車を用意するなどして、電化への積極姿勢をアピールしたが、実のところ目新しい発表がなかったのが残念だ。


レベル5を実現するアウディのEV「AICON」。ハンドルなど運転に必要な装備は用意されていない

 


VWのEV「I.D. BUZZ」。2016年のCESで初披露されたときはワーゲンバスとのイメージのギャップから悲嘆の声があがったが、外観は随分と洗練されてきた。2022年ころ発売予定だという


BMWからも「BMW i Vision Dynamics」をはじめ、EVのコンセプトモデルが多数発表された

 

 BMWも、もちろん電化を進めている。プレスカンファレンスでは航続距離600kmを誇るEVのコンセプトモデル「BMW i Vision Dynamics」、同じくEVの「i3」や「MINI Electric Concept」などを紹介した。また、ブース内には簡易コースを設置し、随時、映像と音楽と照明を巧みに織り交ぜたデモ走行を披露していた。燦然とスポットライトを浴びて流れるように走るクルマを見ていると、BMWにとって電化は手段に過ぎず、駆け抜ける喜びにこだわっている企業姿勢が伝わってくるようだ。

 モーターショー会場内ではメーカー各社の最新モデルを試乗させつつ、会場内の往来を助けるプレスシャトルというサービスを実施しているのだが、排ガスや騒音はほとんど気にならなくなっている。電化が進んだ社会とはこういう世界なのだろう。

 フランクフルトモーターショーは9月24日まで開催される。

 

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