キーマンが語るメルセデス次世代戦略 ーCESレポート後編ー


『次世代技術としてのディーゼルとEV』 
オラ・ケレニウス氏(ダイムラーAG グループ リサーチ&メルセデス・ベンツ・カーズ開発統括)

清水: ヨーロッパには電気自動車(EV)に追い風が吹いていて、いずれディーゼルがなくなるのではないかという考えが、日本では広がっていますが、私はエンジンがなくなるとは思えません。ディーゼルの将来について、考えをお聞かせください。

ケレニウス: まずはメルセデス・ベンツの最新ディーゼルエンジンが、CO2排出量はもちろんのこと、その他の物質についても非常に良い数値を達成しているということをお伝えしたいと思います。

 欧州はディーゼルにとって世界最大のマーケットです。ディーゼルは将来的にも残る技術であり、その上で電動化が進むと見ています。今後、電動化のウエイトは徐々に高まっていくでしょうし、プラグインについても小型乗用車から大型商用車まで拡大するとは思いますが、これらはあくまで平行して進化するものであって、どちらか一方しか残らないような、二者択一の問題ではありません。ただし、この先の十年、つまり2025年から2030年にかけて、EVの割合が非常に高まることは予想しています。

清水: 水素燃料電池(FCV)も同様に、2025年から増えていくと理解していいのでしょうか?

ケレニウス: プラグインの次の技術としてFCVを考えています。昨年のフランクフルトモーターではGLC F-CELL(GLCクラスのFCV)を発表しました。台数はまだ多くないものの、今年も生産しています。

 将来的には、バッテリーのみを搭載するピュアEVとFCVを数十万台の単位で拡大していきますが、同時に大量生産は行いません。最初に展開するのはピュアEVです。FCVをやらないというわけではなく、FCVの将来性を信じていますが、まずはピュアEVを拡大して、その反応を見極めながら、次の展開を考えていく予定です。車種は小型車から、クラス8のトラックまで考えています。というのもFCVは商用車にこそ大きな可能性があると思いますので、次に発売するFCVはバスかもしれません。

 

水素燃料電池とプラグインを組み合わせたGLC F-CELL

清水: 2年ほど前に、前副社長のトマス・ウェーバー博士に取材したときに、次のリチウムイオンバッテリーはリチウムエアー(リチウム空気電池)になると聞きました。日本ではトヨタが全固体電池の開発を進めています。2025年ころの次世代バッテリーには、どういった技術が使われていると思われますか?

ケレニウス: 私たちは複数の技術を並行して検討しています。いずれにしても2025年ころには今よりもエネルギー密度が高まり、コストは下がっているでしょうし、画期的なブレイクスルーが起こるかもしれません。ご指摘の全固体電池やリチウムエアーはもちろんのこと、リチウムサルファ(リチウム硫黄電池)も検討の対象になっています。これら電池が大量生産になるとしたら、2025年のもう少し後になるでしょう。もしもどこかが優れた技術を出してきたら、また別の話になるとは思いますが。

清水: EVは航続距離が課題です。普通のガゾリン車なら、燃料タンクの容量を大きくすれば遠くまで走れるようになりますが、EVの場合、燃料タンクに相当するのが電池で、これは大きくするのに限界があります。重要なことは1kWhあたり何km走れるかという効率です。そのためにはもうひとつ隠されたエネルギーが必要かと思うのですが、どのような技術が考えられるでしょうか。たとえば、インバーター技術とか?

ケレニウス: おっしゃるとおりですね。エネルギー密度を最適化すること、すなわち電池自身の最適化が重要です。また、効率向上には電池そのものだけでなく、モーターやホイールに至るまでのあらゆるプロセスにおいて、わずかな損失も回避する必要があります。ただし、バッテリーはコストアップ要因ですから、バッテリーを1%増やせば、航続距離も1%上乗せできるということを証明できれば説明がつくので、私たちはその両面からアプローチしています。ご存知のように化石燃料はエネルギー密度が高いのに対して、リチウムイオン電池はエネルギー密度が低いので、効率化を進めるほかないと思っています。

清水: EVに対しては多数のメーカーが「何年までに何万台」などと宣言していますが、それを実現するにはユーザーに「欲しい」と思わせなくてはいけません。御社の電動化車両ブランドEQは、どのような人たちが買うと考えておられますか。率直に言って、価格は高いですし、充電にも時間がかかります。もちろんポジティブな点がたくさんあることも知っていますが、御社ではどのような方々を想定しているのかをお聞かせください。

ケレニウス: ご指摘のとおりです。非常に合理的な説明だと思います。しかし、それはあくまでもエンジニアリング的な見方であり、完全ではないと私は考えます。これまでの調査で明らかになっているのは一度EVを買っていただくと、非常に気に入っていただいて、もう戻ることはないということです。

 実際のユーザーケースをご紹介しましょう。多くのメルセデス・ベンツのオーナーは2台を所有していますが、そのうちの1台に着目すると、オーナーの95%は1日に70kmも走っていません。そのニーズであれば、EVでも十分に役に立てます。所有する2台のどちらもEVに置き換えることはないでしょうが、少なくとも50%は電気化する可能性が非常に高い。すなわち、メルセデス・ベンツは2025年までに全車両の50%をEVにすることが可能ですし、その方向に進むべきだとも考えています。実際には世界全体で、最大25%がEVになると見ています。この数値にかんして野心的と見るか、保守的と見るか、そこは予想ができません。

清水: ここからは自動運転についてお伺いします。「インテリジェント・ワールド・ドライブ」ではSクラスをベースにしたテスト車両で世界を巡ったわけですが、五大陸を走破したことで、何が得られたのでしょうか。

ケレニウス: 「インテリジェント・ワールド・ドライブ」は示唆に富んだ、非常に面白いツアーでした。たとえば、使用した車両は自動運転のレベル2の技術なのですが、実際のパフォーマンスという意味ではレベル2プラスアルファの水準に近く、その境界線を見ることができました。今回のデータはレベル3の開発に活用できますし、レベル3の先の開発にも役立てることができます。

 もう一つ、大きな気づきだったのは世界の多様性です。オーストラリアのメルボルンではメルボルンターンという、右に行って左に回る独自の交通ルールがあります。また、中国大陸では北京の交通渋滞がほかの地域といかに違うかということが学べました。私たちはありとあらゆる状況を把握していかなくてはなりませんから、こうした実体験をとおしてデータを収集していきます。そしてまずは人間が学び、それから機械に教えていくことになるでしょう。

清水:  CESではトヨタがe-Palette Conceptを発表しましたし、フォルクスワーゲンも同じようなボックス型の車両を提案しています。それに対して、御社はsmartで自動運転のコンセプトを表現していますよね。smartは基本が二人乗りです。たくさんの人が乗れた方が便利だと思うのですが、なぜsmartなのか、そこを改めて教えていただきたい。

ケレニウス: 私たちはsmartから古典的なモデルまで、すべてをラインナップしています。ご存知のとおり、すでに私たちはカーシェアリングのcar2goを持っていて、smartEVを使って成功しています。さらに、ライドシェアサービスを提供するスタートアップ企業の「Via」とも合弁会社を設立。VIAは既にニューヨークを含むいくつかの都市において、先進的なソリューションを提供しています。私たちはメイカーとしてプロダクツを持っていますから、異なるセグメントの企業と連携し、モビリティサービスを提供することができます。答えはひとつではないのです。

清水: ありがとうございました。

写真左から、サハド・カーン氏、オラ・ケレニウス氏、デザイン部門のトップを務めるゴードン・ワグナー氏

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