ReVision Auto&Mobilityは、野辺継男氏(インテル株式会社 事業開発・政策推進 ダイレクター 兼 チーフ・アドバンストサービス・アーキテクト、名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授)と、坂上義秋氏(株式会社本田技術研究所 R&DセンターX 上席研究員 兼 Honda R&D innovations, Inc. Senior Fellow, Technical Advisor)を講師に、自動運転の技術開発やビジネスモデルについて議論する第2回無料公開ウェビナーを12月5日午後5時から1時間実施した。ウェビナータイトルは「自動運転の国際競争に勝ち抜くために必要な取組みは何か」。ウェビナー中、視聴者から数多くの質問やコメントが寄せられ、第1回に引き続き活発な情報交流が行われた。
2017/12/14
住商アビーム自動車総合研究所
プリンシパル 川浦 秀之
第1回ウェビナー動画はこちらから(視聴には無料メンバー登録が必要)
安全のためのデータは全社で共有することが重要
ウェビナーではまず坂上氏が「人口知能(AI)やソフトウェア、データ収集・活用など、いま注目すべき開発課題を掘り下げる」と題して講演。自身の経歴と重なるホンダのADAS・自動運転の開発の歴史を紹介し、従来のOEMとサプライヤーに留まらない、IoT企業、ライドシェア企業(dispatcher)、自動運転技術を専門に扱うスタートアップ企業、自動運転のデバイスを製造する企業、地図会社等の連携による現在の自動運転技術開発について解説した。
加えて「自動運転の開発スタイル(ボトムアップかトップダウンか)」「レベル4に向けたドイツ・スウェーデン・日本の取組」「運転移譲を中心としたレベル3の課題」「2020年までの自動運転」「2020年以降の自動運転の高レベル化」「深層学習・ダイナミックマップの課題と解決に向けたAIの適用」「ネットワークの課題と可能性」について言及。安全を最優先とした「AIによる認識は100%ではないことを前提とした冗長システムの作成」「コネクテッドカーによって得られた安全のためのデータは全社で共有」することの重要性を説いた。
自動車メーカーはモビリティーサービス提供者へ
続いて野辺氏が「EV+完全自動運転+モビリティサービス=グローバル・ビジネスチャンス」と題して講演。レベル4の自動運転がもたらす自動車ビジネスの構造変化の可能性について解説した。
野辺氏は、欧・米・中では事故の際の責任の所在の明確化が難しいレベル3よりもレベル4の自動運転開発を優先することを各社が表明している現状に言及し、都市化の進展に伴い、車を所有するインセンティブが低下していることを指摘。その一方で、高速モバイル通信の浸透により利便性の高い、新しいビジネスモデルが出現した先進国・新興国の都市部においては、レベル4の自動運転車はモビリティ事業への供給が中心となること、一部の自動車会社は既に製造会社からモビリティサービスの提供者になる方向に向かっていること、モビリティの対象はヒトだけではなく、モノ(ロジスティクス)、EVの場合は電力も移動させることとなり、電力供給の安定性にも車が寄与する可能性を紹介した。
また「所有から利用へ」が拡大することで、自動車産業の頂点にはユーザーに最も近い場所にいるサービスプロバイダーが立ち、そのサービスを実現するためのベンダーが第二階層、自動車を製造するOEMは第三階層に位置づけられてしまう可能性があると指摘。この点に気が付いているOEMはレベル4の自動運転車の開発を急ぎ、自らがサービスプロバイダーになることで引き続き自動車産業のヒエラルキーの頂点に立ち続けようとしていることを解説した。更に、現在は平均4%に過ぎない車の稼働率が、「所有から利用へ」の拡大により50%以上に高まり、代替周期が短縮される可能性に触れ、ICTと自動車の親和性が向上し、サービスが拡大する可能性にも言及した。
冗長なシステムで、ダブル、トリプルで確認する
後半の議論では、野辺氏と坂上氏が視聴者からの質問やコメントを見ながら、自動運転車の安全性、ソフトウェアの重要性、ビジネスの可能性等幅広いテーマについてディスカッションを行った。このウェビナーはインタラクティブ型で行われていることが特徴。ディスカッションの後半では視聴者から投稿された質問や意見に両氏が見解を述べた。
たとえば視聴者からの「AIを使った自動運転で不具合がおこった場合、真の原因究明はどうなるのか?」「人命を扱う車両がAIやブラックボックス、ディープラーニング等内容がわからないもので構成されていることはどう対応していくのか」といった質問に対しては、坂上氏が「冗長なシステムが必要」だと指摘した。
「AIだけではだめで、人間の知識も含めて別のシステムが監視するとか、直近LiDARといわれるポイントクラウドを用いてより信頼性の高い情報を得ることで、モノがあるかないか、ヒトかヒトじゃないかといったことをダブルあるいはトリプルで確認することがシステム的には必要だと思います。今製品でカメラだけで動いているものがいくつかあるんですけど、それはレベル2という前提で、ドライバーが周りを見ているから使えています。これからレベル4に向かうとすれば、かなり性能を上げなければいけないし、システムを冗長化させることがひとつの鍵になる」(坂上氏)
また、「川下の小売り分野にとって一番のビジネスチャンスはどこにあると思いますか?」との質問に対しては野辺氏が回答。
「海外では真に今モビリティ事業者が注目されています。実際にレベル4を作る会社やセンサー等を扱う企業だけでなく、ユーザーに対して前面に立つモビリティサービス事業者、例えばUberとかLyft、更には、ユーザープールを持つレンタカー会社なども注目されていますが、日本には対等なものがまだない。そうなると逆に今の車両販売の出口であるディーラーなどから、既存のビジネス構造とは役割分担は変わりますけども、新しい売り方が生まれてくると思います」(野辺氏)
さらに、視聴者に対しては選択式のアンケート質問が投げかけられ、その結果はリアルタイムで公開された。本項でも、アンケート結果に対する野辺氏と坂上氏のコメントを一部紹介したい。
自動運転技術の発展の途上でもたらされる問題は?
◆アンケート
(質問)自動運転レベル4に向けた技術進化の途上で、社会や業界にもたらされる、最も大きな問題はなんだと思いますか?
(最多回答) 3. 責任問題
坂上氏コメント:レベル3の段階で一番大きく影響しますね。レベル4では基本的にはメーカー側の責任ということになっていますので、レベル3が大きな問題になりますが、議論の一つの方向性は保険かなと。業界の中でも動き始めていますし、我々が普段運転する場合も保険という形で、責任をカバーする仕組みがありますから、そういったものも含めて考えていかなければいけないかなと思います。
野辺氏コメント:技術的にはレベル3を達成していたとしても、レベル2として売ることを考えている会社も多いと聞きますが、そこはやはり責任問題ですよね。レベル3では、コンピューターが「白線が見えないから運転を人間に戻したい」となったとき、用意ができているreadyの状態じゃなきゃいけないという定義になった。だけどreadyだったかどうかを証明しなければいけないという難しさが出てきて、これは多分不可能に近いわけです。だから、レベル3と言わずにレベル2として売る。即ち、最終的には人間が、責任をずっと取り続ける。これがレベル4だと人間は全く運転しませんので、完全にシステム側の問題になるので、そういう事業をしようというのが、レベル4に対する各社の思いですね」
このほかにも視聴者から興味深い投稿が多数寄せられ、最後まで熱のこもった議論が展開された。