Date:2020/07/09
清水建設株式会社(以下、清水建設)は、さまざまな新しい技術要素を盛り込んだ豊洲でのスマートシティ計画を発表した。都市型道の駅やデータプラットフォームの開発、フードトラックとの連携などの要素が盛り込まれたもので、人口減少時代を見据えた交通インフラのあり方や、データを使って変化に柔軟に対応する都市を予感させる計画だ。
建設業界では、「BIM(Building Information Modeling)」という建築の設計施工のデジタル化が徐々に進んでいる。建物やインフラのデジタル情報を介して、今までの事業の枠組みを超えた他領域との協業が進むと言われており、今回のプロジェクトはその流れが具現化した先駆的な事例と言える。モビリティやデジタル情報を使い、どのようなまちづくりを見据えているのか。清水建設 豊洲スマートシティ推進室室長 宮田幹士氏、部長 谷口精寛氏、まちづくり推進室プロジェクト営業部部長 溝口龍太氏に話を伺った。
注:当記事に掲載している完成予想CGは計画段階のもので、実際とは異なります。
建設会社も「ものづくり」を起点にサービス提供へ
―今回のプロジェクトは、国交省が掲げるスマートシティ構想の先行モデルに採択されていますね。建設会社である清水建設が、なぜデータプラットフォームの構築にも取り組むのでしょうか。
宮田氏:なぜ、私たちがデータプラットフォームの開発を進めているかというと、今後、まちづくりに関わるさまざまなサービスの運営を進めていきたいからです。
これまで私たちは「ものづくり」を得意としてきました。しかし、今後は建設事業をライフサイクルで捉え、IoTを使ったサービスの提供など、設計、施工、その後の運営まで含めて都市開発に関わるべきだと考えています。
そこで、従来の建設会社の枠を超えた仕組みづくりを進める必要があり、データサービス事業にも挑戦しようと考えています。今回は、10年、20年先までを見据えた豊洲エリアのまちづくりに貢献するためのスタートラインと言えます。
―データプラットフォームの構想について詳しく教えてください。
溝口氏:フィジカル(現実)空間とサイバー(仮想)空間をデータ連動させて、サービス等の合理化や社会課題の解決を進めるものです。フィジカル空間にカメラやセンサーを設置することでさまざまなデータを収集し、三次元デジタルデータ上で施設運営やエネルギーマネジメント、施設配置等の最適化シミュレーションを行い、その結果をフィジカル空間に反映させます。
三次元デジタルデータについては、建築データと土木インフラデータの融合を試みています。また、センサーで取得した動的データを組み合わせることで、道路の劣化状況を把握することや、人やクルマの流れの動的データを使って混雑緩和に向けた施設の改修計画、施工方法の最適化シミュレーションを行うことも考えています。
豊洲埠頭のエリアは、これから本格開発に着手する土地が多く残っています。豊洲の街全体の三次元デジタルデータを活用して、施設の最適な配置検討ができないかと考えています。
―データプラットフォームを使って、どのようなサービスを展開していくのでしょうか。
溝口氏:例えば交通に関しては、カメラやセンサーで集めた人やクルマの流れをリアルタイムでデジタルサイネージやスマートフォンで可視化する事を検討しています。住民やオフィスで働く人に街のリアルタイムの状況を共有することで混雑回避を促すものです。また、交通に関しては、将来的にはオンデマンド型の新交通サービスも実装出来ればと考えています。
ほかにも、VACAN(バカン)というスタートアップ企業と連携して店舗やトイレの空室状況をリアルタイムで提供し、施設の混雑状況等を見える化する取り組みを進めています。
このようにエネルギーや環境、ビルの利用状況等のモニタリングデータをリアルタイムで取得して、さまざまなシミュレーションを行うことで新規サービスの事業開発を加速化させ、施設利便性を高めていきたいと考えています。
宮田氏:現在は具体的な内容を検討しているところです。スマートシティ化を進めるに当たってどのようなサービスが必要なのか、現在の新型コロナウィルスの影響などにより今後世の中が変わっていくことも踏まえて、練り直していきたいと考えています。
時代に合った新しい道の駅
―「都市型道の駅」というのも新しい発想です。なぜこの構想が生まれたのでしょうか?
溝口氏:今後、都市部の交通空白地帯では、道路空間と連携した駅を整備するニーズが高まると考えています。背景には新型コロナウイルスの影響が広がる以前から移動そのものが減っていることがあります。
平成30年にパーソントリップ調査が行われ、調査開始以来始めて総トリップ数が減少する結果となりました。10年前と比較すると13%程度減少しており、特に若年層の減少が目立っていました。今後少子化が進むことを含めると、さらにトリップ数が減少していくと考えられます。
このような状況下で、鉄道などの大量輸送軌道系交通を新たに整備するのは事業採算的に厳しくなるかもしれません。そこで自動運転が実現し、FCバスの隊列走行や次世代モビリティの開発が進む場合、道路交通へのシフトが起こると考えています。
今年5月、改正道路法が成立しました。バスターミナル等の停留施設が道路附属物となり、民間による施設の運営管理が可能になります。民間の大規模開発に合わせて交通結節点を整備する方向性が生まれており、「豊洲MiCHiの駅」は先行例として位置付けられるプロジェクトにしていきたいと考えています。
かつて、宿場のように駅は道にありましたが、これからは時代に合った新しい形で、新しい道の駅が整備される時代が来るのかもしれません。
―「都市型道の駅」とは具体的にどのようなものでしょうか?
溝口氏:今まで建設されてきた道の駅とは、休憩、情報発信、地域連携機能を備えた自治体が設置する道路施設でした。都市型道の駅は従来の機能に加え、次世代のモビリティの交通結節点、防災、賑わい創出機能をあわせ持つ施設です。
交通については、ゆりかもめなど軌道系の交通に加え、シェアサイクルやパーソナルモビリティといったようなきめ細かいモビリティも積極的に導入していきます。
また、都市型道の駅は、立体的に多種多様な交通モードを結節させることで乗り換えに要する時間を削減し、利便性の向上を目指します。地上1階にあたる部分には、虎ノ門から晴海まで結ぶBRT※の連接バス、羽田と成田を結ぶ空港バスの乗り入れを予定しています。
※BRT: Bus Rapid Transit(バス・ラピッド・トランジット)の略。連接バスやバス専用道を組み合わせた大量輸送システム。
2階部分には水平方向に伸びるフラットなデッキを整備しており、ゆりかもめの駅から運河まで、バリアフリーで通り抜けることができます。フードトラックの営業なども計画しており、人の賑わいの中心として位置付けています。
今後は、近隣の開発プロジェクトと連携してデッキを延伸することで、人の流動性を促し、地域の賑わい拠点、また防災拠点として活用して頂けるように地元自治体等と協議を進めていきたいと考えております。
飲食店が「お客様の元へ動く」構想
―フードトラックは今の時代に合ったモビリティサービスとして注目度が高まっていますね。なぜ数あるサービスの中でフードトラックに注目したのでしょうか?
溝口氏:フードトラックのサービスについては、Mellow(メロウ)の「SHOP STOP構想」を導入する予定です。決められた場所に、日替わりでフードトラックがやって来るサービスです。
先ほどの話にもあった通り、今後人の移動は減少する事が予想されています。そこでメロウでは、飲食店はお客様を待つのではなく、モビリティを使ってお客様のところへ行くという戦略を掲げています。また、平時・災害時と併せて食の提供を行うプラットフォームの構築も進めています。私たちはこの企業姿勢に共感し、今回のプロジェクトや他のエリアでの開発案件で連携を進めています。
さらにメロウは、キッチンカーの売り上げデータから、車両の最適な配置の検討まで行っています。今後私たちが計画している、データプラットフォームとの連携も検討したいと考えております。
―今後はどのようにプロジェクトが進むのでしょうか。
建物自体は2021年の秋に竣工予定ですが、そこで終わりではありません。さまざまな事業者の方と手を組みながら、オープンイノベーションでサービス開発を進めていきたいと思います。
(記事/齊藤 せつな)
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