社会でバッテリーを使い切るには? ― ウェビナー報告 ―


第23回ReVisionウェビナー「エネルギーとテクノロジーを活用して創り出す未来のモビリティ社会とは」報告

 

ReVision Auto&Mobilityは2022年11月2日、ウェビナー『エネルギーとテクノロジーを活用して創り出す未来のモビリティ社会とは ― ホンダモバイルパワーパックの取組み、IBMのテクノロジーの視点から学ぶ ―』を開催した。テーマは「社会でバッテリーをいかに使い切るか」。今後、電動車両が急激に増加する中で、バッテリーを、そのライフサイクル全体にわたっていかに有効に活用するかについて、本田技研工業の事業開発本部事業開発統括部および本田技術研究所の先進パワーユニットエネルギー研究所でエグゼクティブチーフエンジニアを務める岩田和之氏、 IBM Corporationグローバル オートモーティブ センター オブ コンピテンシー/ 日本IBM 自動車産業担当 CTOの川島善之氏、 オートインサイト代表で技術ジャーナリスト・編集者の鶴原吉郎氏が議論した。

Date:2022/11/11
ReVision Auto&Mobility

 


最初に登壇した鶴原氏は、中国や欧州を中心にEV(電気自動車)が急激に増加する中、EVに搭載されているバッテリーの残存性能をいかに適正に評価するかが課題になっていると問題提起した。国内では、中古EVの下取り価格が3年で購入価格の20%程度にまで落ち込んでいる。HEV(ハイブリッド車)では50%程度の下取り価格を維持するのに比べると不当に低く評価されていることになる。その原因は、EVバッテリーの残存性能を適正に評価する手法が確立されていないことにある。このため現在、東京海上日動火災、日本総合研究所、MOBI(Mobility Open Brockchain Initiative)などの企業・団体がEVバッテリーの評価のビジネス化・標準化に取り組んでいるという。

 

2輪車用バッテリーの標準化リードするホンダ

ホンダの岩田氏は、同社が取り組む「eMaaS」について紹介した。その核となるのが2輪車用の脱着式バッテリーパック「モバイルパワーパック(MPP)」である。同社は以前から、2輪車用のバッテリーパックの有効性について、2輪車需要の多いフィリピンやインドネシア、インドなどで検証してきた。こうした実証実験の経験を生かして、2021年10月に発表したのが第2世代のMPPである。第2世代のMPPは、第1世代に比べて寸法や重量、形状などはそのままに、エネルギー容量を約30%増やしたほか、耐久性も向上、さらにグリップの握りやすさも改善したものだ。第2世代のMPPは現在、インドで量産中である。

このMPPの特徴は「頭脳を備えること」「データを外部に伝達する機能を備えること」である。MPPが車両に搭載されている間にどのように使われたか、そのデータを記録しておき、充電ステーションにMPPが戻ってきたときに、充電と同時にデータをMPPから吸い上げる。これにより、そのMPPが車両搭載中にどのように使われたかが把握できるようになっている。

実証試験では、こうしたデータを活用することで様々なことが分かったという。例えば興味深いのは料金体系と使われ方の関係だ。実証実験ではフィリピンでは1回いくら、という従量制の料金体系だったのに対してインドネシアでは月額いくら、というような定額制の料金体系を採用した。この結果、フィリピンでは容量を使い切って返却するユーザーが多いのに対して、インドネシアではエネルギーの残ったMPPを返却するユーザーが多かったという。

ホンダはこのMPPを様々な用途で活用することを考えている。例えば、まずMPPを2輪車用バッテリーシェアに活用して投資を回収したあと、船外機や耕運機などで二次利用し、さらにその後は、住宅用など充電容量が多少低下しても利用に影響の少ない用途で活用するなど「高価なバッテリーをとことん使い尽くす」(岩田氏)ことを狙う。すでにホンダは国内の2輪車メーカー4社で2輪車用交換式バッテリーのコンソーシアムを設立したほか、交換式バッテリーのインフラ整備を担う新会社「Gachaco」を2輪車メーカー4社とエネオスで設立している。また災害時の緊急電源としてMPPを活用することも構想する。

 

バッテリーのライフサイクル管理をサポートするIBM

次いで登壇したIBMの川島氏は、環境に配慮した製品開発・製造のライフサイクル全体にわたり、IBMがどのようなソリューションを用意しているか、さらにはバッテリーの原料採掘から材料リサイクルにいたるライフサイクル全体の管理にいかに貢献できるかについて紹介した。

川島氏によれば、IBMはこれからのクルマについて、「馬力などのスペックではなく体験重視へ」「売り切りではなく、生涯収益重視へ」「メカ中心からソフト定義へ」「リデュース、リサイクルといった“5R”の重視へ」「バリューチェンは循環型へ」といった変化が起きると見ている。日本は2030年までにCO2排出量を46%削減する政策目標を掲げているが、現在の取り組みの延長では、その半分程度しか達成できないと川島氏はいう。企業がGHG(温暖化ガス)削減を達成するためには、自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる主体が排出する合計のGHGを削減することが必要であり、そのために必要なのが「法規に基づくレポーティングと文書化」である。

例えば欧州が導入を審議している「電池規制法」は、鉱物資源の採掘から廃棄後の資源リサイクルまで、ライフサイクル全体のCO2排出量や資源のリサイクル率を開示することを求めている。この場合に要求されるのは、サプライチェーンの可視化とデータ改ざんされていないことの証明、そしてレポ―ティングのフォーマットが定められた仕様通りになっていることだ。IBMはこれまでに、LCA(ライフサイクル分析)のプラットフォーム構築や、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティーサービス(BTS)の構築、さらにはバッテリーから収集したビッグデータを活用した劣化分析など多用なユースケースで実績を挙げており、企業が迫られているデータの可視化やデータ改ざんされていないことの証明などをサポートできると語った。

またIBMはESG(環境・社会・ガバナンス)データを管理するプラットフォーム「Envizi」をソリューションとして用意しており、世界140カ国、150社で利用されているという。Enviziは単にデータを蓄積するだけでなく、収集したデータを分析する多様なテンプレートを用意しており、具体的なCO2削減プログラムの構築に利用できる。

 

進んでいないEVバッテリーの残存価値評価

プログラムの最後に、鶴原氏をモデレーターとする3者のパネルディスカッションが行われた。まず話題に上ったのが、EVバッテリーの再利用や再活用が現在現在どこまで進んでいるかである。ホンダの岩田氏によればEVバッテリーの再利活用は10年ほど前から課題になっているものの、バッテリーのコストが急激に下がっている現状では、古いバッテリーの価値が低くなっていることが二次利用を妨げているという。また、EVに組み込まれているバッテリーを取り出すにもコストがかかるため現在はリサイクルも進んでいない。しかし今後、バッテリーの流通量が飛躍的に増え、資源のリサイクルが重要な課題として浮上する可能性がある。同様に、中古EVも現在は搭載バッテリーの残存性能の把握が難しいため、公正に評価する第3者評価制度の確立が不可欠になる。

IBMの川島氏は、「いろいろな国の話を聞いていると、非常に決断が早いと感じている。日本が立ち止まっているうちに1周遅れ、2周遅れすることになりかねない」とバッテリーを巡る状況に関して危機感を示した。そのうえで、バッテリーを社会で活用するサポートを深く広く手掛けていきたいと意欲を語った。

 

◆サプライチェーンのトレーサビリティを実現するプラットフォーム
IBM Blockchain

◆サステナビリティのためのデータ管理プラットフォーム
IBM Envizi

 

 

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