EV充電ステーションの市場動向と技術トレンド
― Renesasが提供するソリューション ―


現在、世界中で自動車の電動化(EV化)が急速に進んでいます。欧州では厳しいCO2排出規制に加え、各国政府が2030年以降のICE車(内燃機関車)の新車販売を禁止するなど、EV化推進に力を入れ、OEM各社もこれに対応する方針を表明しています。EVの広がりは今までガソリンとして流通していたエネルギーを電気として流通させることでもあり、充電ステーションの普及が重要になります。

2022/11/14


※このレポートはルネサスエレクトロニクス株式会社より提供いただき掲載しています。

 

EVの充電のスタイルには、自宅で夜間に行う「基礎充電」、外出先や訪問先での「目的地充電」、高速道路のSAなど道中で充電する 「経路充電」の3つがあります。普段の生活用途、近距離移動で重要になるのは基礎充電と目的地充電です。一方で長距離走行をする場合は経路充電が重要になります。途中で何時間も充電休憩をするわけにはいかないので、現在のICE車と同様に使用するには、特に充電時間の短いDC急速充電設備の充実が鍵になります。

 

欧州や日本のEV充電ステーションの動向

欧州では、住宅・商業施設へのEV充電ステーション設置を法律により義務化している国も多く、基礎充電と目的地充電に対応する充電ステーションは充実しており、近距離移動中心では困ることはありません。また経路充電について欧州委員会は、2030年までに欧州の主要幹線道路において、出力150kW以上のDC充電ステーションを60km以内に1ヵ所の設置を義務付けるという方針を出しました(注1)。中国、米国など他地域でも充電ステーションの普及に向けた政策や規制が打ち出されています(注2)

EVの普及が世界的に加速する現在、充電ステーションを普及させることは必要不可欠であり、調査会社Yole Groupの予測(図1)でも、DC充電器市場は年平均成長率(CAGR・2020-26) で15.6%という高い成長率が期待されています。

一方、日本ではまだ充電器の普及が進んでいません。基礎充電でも、集合住宅では充電器設置についての課題があり、目的地充電、経路充電のステーションは採算性確保の課題があります。鶏と卵の議論になりますが、EVが普及していないため充電ステーションの必要性が低く、充電ステーションが設置されないためEVが普及しづらいという状況です。この状況を打破すべく、日本政府も充電設備設置にかかる費用(機器、工事)に対して補助金を出すなどの対策を打ち出しています。

 

図1. 電力別DC充電台数の推移(出典:Yole Group)

図1. 電力別DC充電台数の推移(出典:Yole Group)

 

EV普及には充電ステーションの普及が急務となります。EV充電ステーション(図2)は技術的にはすでに確立していますが、普及するためには収益性の課題があります。ガソリン車はすべてガソリンスタンドで給油しますが、EVの場合、基礎充電は自宅となり、目的地充電、経路充電の公共充電ステーションの稼働率は現在のガソリンスタンドと比べ、小さくなります。低い稼働率でも収益を確保するしくみが必要です。欧州の場合、複数のOEMとエネルギ事業者がコンソーシアムを形成し、充電プラットフォームの統一や、ディーラーの充電ステーションとしての活用により、大規模な充電事業を確立して収益化を図り、EV充電ステーション普及を推進しています。日本でも政府補助金やOEM、エネルギ事業者主導の動きが期待されます。

また、EVの普及に伴い、EVの駆動用バッテリーに充電されたエネルギを社会インフラとして活用していくという動きも見られます。再生可能エネルギの活用と災害時への対策として、地域単位でエネルギ網を構築するマイクログリッドの導入、実証実験が各地で進んでいます(注3)。この中で、EVの駆動用バッテリーは、再生可能エネルギーのピークシフトや災害時のバックアップ電源(蓄電池)として活用することが可能です。この場合、EV充電設備は充放電どちらにも対応する双方向タイプ(図3)が必要です。EVの普及と双方向充電ステーションの普及が再生可能エネルギを活用する持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。

 

図2. EV用DC充電ステーションの回路例

図3. 双方向(V2G)EV用DC充電ステーションの回路例

 

充電方式とバッテリー電圧、使用される半導体の市場トレンド

各DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンドを図4に示します。EVの普及に向けては充電時間の短縮は必要不可欠であり、より大電力・高電圧をサポートする充電方式へ移行が進んでいます。また、内部の電源ユニットをモジュール化し、負荷に応じて電力を割り当てることで、複数のEVへの同時充電も可能になり充電渋滞の解消も期待されます。

 

図4. DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンド

図4. DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンド

 

次に、DC充電ステーションで使用される半導体について述べます。DC充電方式が大電力・高電圧になるに従って使用されるパワー半導体はより低損失なものが望まれます。これは大電力を出力する場合、同じ効率でも大電力の方が損失は増えるため大型の冷却システムが必要となるためです(例:50kW出力で効率98%の場合、損失は1kW。400kW出力で効率98%の場合、8kWとなり冷却が難しくなる)。低損失なパワー半導体を採用することで、より安価で小型の冷却システムを採用することができるため、システムの低コスト化と小型化が可能になります。また近年は、Si (シリコン)IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)だけでなくSiC(シリコンカーバイド) MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)への期待も高まっています。MOSFETをベースとした設計では、同期整流の採用やスイッチング周波数を高く設定することが可能となり、より安価な冷却システムやより小型の受動部品を採用することができます。

DC充電ステーションで使用される半導体のトレンドを表1に示します。パワー半導体では既に述べた通り、大電力・高電圧対応とより低損失なものが望まれます。マイクロコントローラ、パワーマネジメントICでは、安全・保護機能や高いセキュリティ、FOTA(ファームウェア無線通信アップデート)、周辺機能を統合しBOM削減できるものが望まれ、ゲートドライバICは高電圧対応とパワー半導体をより低損失でスイッチングする技術、そしてマイクロコントローラ、パワーマネジメントICと同じく周辺機能を統合してBOM(部品構成表)を削減できるものが求められます。

 

表1. DC充電ステーション用半導体の技術トレンド

表1. DC充電ステーション用半導体の技術トレンド

 

DC充電ステーション用のアプリケーション例を図5に示します。ルネサスが提供するIGBTは低損失:低VCE(sat)(= コレクタエミッタ間飽和電圧)を実現しているだけでなく、IGBTがオンする閾値電圧(Vth)の特性ばらつきを抑えることに成功しており、これは大電流制御で並列使用を行う際にIGBTがオンするタイミングのズレを抑えるため、並列接続時のアンバランスを改善し安定性・安全性を向上させます。そして併せて高い信頼性を有しており、高い信頼度が求められるDC充電ステーションに最適です。次にルネサスのマイクロコントローラは、低コストでありながら高速処理と高い信頼性を実現しています。また高スイッチング周波数にも対応可能な高機能タイマを搭載しており、システムの小型化・周辺BOM削減に貢献します。そしてパワーマネジメントICと組み合わることでマイクロコントローラの異常監視や診断機能の設計を簡素化し、BOMコストを最小限に抑えます。ゲートドライバICは、高い駆動能力を有しており大電力のパワー半導体も駆動可能です。また併せてパワー半導体の並列駆動にも対応しておりBOM削減を実現しながら大電力化を可能とします。

 

 

図5. DC充電ステーション用アプリケーション

図5. DC充電ステーション用アプリケーション

 

ルネサスは再生可能エネルギやマイクログリッド、そしてEVなどのパワーエレクトロニクス市場へ多くの半導体製品を提供しています。またルネサスは各半導体製品(パワー半導体+マイクロコントローラ+アナログ製品)を組み合わせたターンキーソリューションであるウィニング・コンビネーションを提供しており、半導体製品だけでなく、各ユニットのハードウェア設計情報とソフトウェア設計情報を提供します。本ソリューションを活用することで各製品のデバイス選定や試作機の設計を省略できるため、お客様での開発期間の短縮と開発コストの低減に貢献します。ルネサスは、インバータやバッテリー監視などのEV向けのソリューションを中心に、市場トレンドに合わせた様々なウィニング・コンビネーションと半導体製品を提供していきます。

現在、社会全体がゼロ・エミッションの方向へ大きく舵を切っています。再生可能エネルギ市場の拡大、自動車のEV化、充電ステーションの普及は今後急速に加速してゆくことが予想されます。ルネサスはこのゼロ・エミッション社会へ、市場トレンドにマッチした半導体製品の提供と、ターンキーソリューションであるウィニング・コンビネーションを提供することで、再生可能エネルギを活用する持続可能な社会の実現へ貢献していきます。


執筆者:峯沢 隆太郎(ルネサスエレクトロニクス株式会社 車載アナログプロダクトマーケティング統括部 車載アナログマーケティング&先行開発部 課長)、石田 慎哉(同 パワーシステム事業部 パワー戦略マーケティング部 戦略マーケティング課 技師)、落合 康彦(同 パワーシステム事業部 シニアプリンシパルスペシャリスト)

 

◆DC充電ステーション向け半導体製品、ウィニング・コンビネーションのリンク先:
パワーIGBT (Insulated Gate Bipolar Transistors) | Renesas
マイクロコンピュータ | Renesas
マルチチャネルパワーマネジメントIC (PMIC) | Renesas
HEV/EV用ゲートドライバ | Renesas

ウィニング・コンビネーション | Renesas
xEVインバータリファレンスソリューション | Renesas
車載用バッテリマネジメントシステム (BMS) | Renesas

 

◆References

(注1)D. Wheelen, "E.U. Proposes 60-Kilometer Distance Between EV Charging Stations," Rideapart, 13 June 2022. [Online]. Available: https://www.rideapart.com/news/591875/eu-proposes-distance-charging-stations/.
(注2)L. BELL, "Biden's 500,000 New EV Charging Stations Have Some Stipulations Involved," Road & Track, 10 June 2022. [Online]. Available: https://www.roadandtrack.com/news/a40255064/bidens-500000-new-ev-charging-stations-have-some-stipulations-involved/.
(注3)"地域マイクログリッドとは?災害時こそ再エネの出番!," 一般社団法人REアクション推進協会, 17 January 2022. [Online]. Available: https://re-action.jp/microgrid/re-action-join-.

 

 

コメントは受け付けていません。