2020年2月13日と14日、ReVision Auto&Mobilityはベルサール御成門タワー(東京都港区)にて第4回ReVisionモビリティサミットを開催した。今回は2日目に初めて同時通訳を入れて行われ、これまで以上に国際色豊かな内容となった。
Date:2020/02/20
Text&Photo:サイエンスデザイン 林愛子
Photo:フォトグラファー 吉澤咲子
まちづくりとMaaSを考える
今回のテーマは「MaaSの潜在力とCASEがもたらすインパクトを見通し/次世代モビリティ・ビジネスを考える/―まちづくり、世界的潮流、テクノロジー進化の視点から―」。ダイムラー社のディーター・ツェッチェCEOが2016年に提唱した「CASE」と、日本全国で実証実験が展開されている「MaaS」は、いずれもいまのモビリティ産業を象徴するキーワードである。第1日目のSection1「まちづくりの中でMaaSを捉える」はまさにその流れに沿った内容であった。
イベントの最初に登壇したのは当媒体編集顧問で自動車ジャーナリストの清水和夫氏だ。清水氏は1939年のニューヨーク万国博覧会におけるゼネラルモーターズの展示から2050年のヘルシンキのまちづくりまで多彩な事例を紹介し、今後のまちづくりとモビリティを議論するためのテーマを投げかけた。
また、日本マイクロソフト グローバル事業本部オートモーティブインダストリーダイレクターの内田直之氏は「モビリティの最適化へ ITレイヤーをどう構築すべきか」と題した講演を行った。内田氏はMaaSのデータ共有のあるべき姿や独自のレベリング、機能のコモディティ化などについて解説。また、すでに顕在化している課題として電力の問題を挙げた。「データセンターはかなり電力が必要で、日本のデータセンターも足りなくなりつつあるし、北米や中国はさらに深刻」だという。データセンターはMaaS推進に必須のものだけに、この問題はさらなる議論が必要だ。
その後、Section2では「MaaSが求める車載テクノロジーの進化」を、Section 3では「シェアリングエコノミーを支えるテクノロジー」をテーマに、講演とパネルディスカッションを開催。今回もリアルタイムで質問や意見を受け付けるツール「Slido」を導入しており、会場からも積極的な発信が見られた。
海外サプライヤーの講演や展示ブースにも注目
第2日目は同時通訳を入れて開催された。午前中に行われたSection 4「CASEをめぐる世界的な潮流」ではSBD Automotiveオペレーションダイレクター兼コネクテッドカー部門統括責任者のリー・コールマン氏、日産自動車総合研究所EVシステム研究所所長の秋月勇人氏、Esri inc.グローバルビジネスデベロップメントのフリッツ・ファン・デル・シャーフ氏、日立製作所ライフ事業統括本部デジタルフロント事業本部コネクテッドカー本部主管技師の野村高司氏が基調講演を行った。
続くパネルディスカッション「CASEのもたらすインパクトにどう対応すべきか」はSection4座長であるSBDのコールマン氏がモデレータを務め、パネラーとして日産の秋月氏、日立の野村氏に、エリクソン・ジャパン コネクテッドカー営業部門ダイレクターのエルギュン・ミヒチオール氏が登壇した。
初めに、モデレータのコールマン氏より「なぜCASEでは協業が必要か」との問題提起がなされた。これに対して野村氏は「協業が必要というよりも、この分野では“協業しやすい”と言うべきでは。たとえば、EVを中心に考えると、シェアリングも自動運転も行いやすく、かつコネクテッドでいろいろな機能を付加しやすいので、協業は必然だと思う」と見解を示した。
また、秋月氏は「協調領域と競争領域があるなかで、前者は協業なくしてはあり得ない」と前置きし、さらに続けた。
「EVの充電規格について、メディアでは“コンボ・チャデモ戦争”などと書かれたが、両陣営とも“一つにしたい”というのが本心だった。結果として今は分かれてしまったが、OEM間でも充電は完全に協調領域との見解は変わらない。日産がリーフを出す時点ではコンボはパワポの概念図しかなく、チャデモで行くしかなかったようなところもある」(秋月氏)
こうした規格の一本化の難しさは自動車業界に限った話ではなく、あらゆる業界で起きている。モバイル通信業界では少し前まで海外旅行先では普段の携帯電話が使えなかった。「その不便さがサービス利用のモチベーションを下げるので、標準化や規格統一、そして協業が欠かせない」とミヒチオール氏は指摘する。
標準化や規格統一によってユーザーの利便性が向上することは明白だが、協業可能な領域とそうではない領域がある。野村氏は「地図はそもそも協調領域なので、各社が手をつなぐ方が良いことは間違いないが、それ以外のデータコンテンツ、たとえば車の性能を向上させるようなコンテンツについては共有化・共通化が難しいだろう」と述べた。
また、秋月氏は「当社ではEVのデータを蓄積しているが、たとえばバッテリーのデータは次の研究開発に生かすので共有は難しい。一方、1日に何時間EVを使うか、充電は急速か普通かといったデータはEV社会を構築するうえで必要なデータとして共有できる可能性がある」と述べた。ただ、充電の情報についてはデータ開示によって社会全体の電力需給調整に生かせるように思うが、実際はそう簡単ではないようだ。たとえば、誰がいつどこで充電しているのかはセンシティブな個人情報を含むため、電力会社に対して簡単に開示できるものではない。データ共有に価値があることは間違いないが、「ビジネス成立性に対してどういう共通見解に至れるのか、日々論議している」(秋月氏)という。
パネルディスカッションの最後に、コールマン氏は「CASEにおいて協業やデータ共有は消費者メリットのために必須だ。協業の在り方はケースバイケースになるだろうが、今後も業界が連携し、データ共有しやすい環境が作られていくことに期待したい」と締めくくった。
また、Section 5「CASEテクノロジーとユーザーエクスペリエンス(UX)」では住商アビーム自動車総合研究所プリンシパルの川浦秀之氏が登壇。「電動化の未来予測 -規制やインフラ整備、技術進化の動向から-」と題した講演を行った。世界的に内燃機関への風当たりが強まり、ますます電動化技術が注目されている。今後さらなる電動化となると、やはりバッテリーの進化が欠かせない。リチウムイオン電池が高機能化する可能性も残されてはいるが、本命は次世代電池だ。その一つである全固体電池について、川浦氏は「普及時期は2030年代中盤から後半ではないかと推測している」と述べた。
2030年代中盤というと遠い未来のように思えるが、実際には10~15年後であり、新しい技術の研究開発の時間として考えれば決して遥か先の話ではない。これから未来に向かってどのような技術が生まれ、どのようなモビリティ社会になっていくのだろうか。2日間のReVisionモビリティサミットは、それを考えるためのヒントに満ち溢れていたように思う。