自動車産業に変革をもたらすカーシェア、ライドシェア。すでに日本でも進みつつあるビジネス事例と並行して、国の取り組みも、規制緩和やルール整備が着々と進行している。シェアリングエコノミーの現状を見極めるべく、キーパーソンにインタビューを実施した。第二回目となる今回は、11月8日に『dカーシェア』をスタートしたばかりのNTTドコモ モビリティ事業担当部長の小笠原史氏。
2017/12/13
※この記事はレスポンス(Response)より提供いただき掲載しています
《聞き手:佐藤耕一》
なぜドコモがカーシェアに取り組むのか
---:まずお聞きしたいのは、なぜドコモがカーシェアリング事業に取り組むのか、という点です。
小笠原史氏(以下敬称略):はい。検討の初期は、シェアリングという文化が始まってるよね、という広い議論から始まっています。車や民泊、スペース、物やスキルのシェアリングサービス全体を見て、ドコモとして親和性があるか、ビジネス規模は、などを検討した結果、残ったのがカーシェアでした。
もともとドコモは、AIタクシーや自動運転バスなど、R&Dに近い取り組みも行っていますが、車というモビリティが変化し、利用という観点が中心になっていけば、(利用の接点として)ドコモがお役に立てるのではないか、という点があります。
---:今回は、3つのサービス(レンタカー・時間貸しカーシェア・個人間カーシェア)をまとめて『dカーシェア』となりますが、なぜ3つのサービスになっているのでしょうか。
小笠原:当初は個人間カーシェアと事業者の(時間貸しの)カーシェアについて検討を始めましたのですが、検討を進めるなかで、ドコモの資産は、車やドライバーではなく、決済や個人認証、安心・安全のノウハウ、Dマーケットを通じたお客さまとの接点であり、ドコモの役割は、既存のお客様をサービスにマッチングするプラットフォーマー的な立場が良いのでは、ということになりました。
そして、我々のお客様は比較的年齢層が高めで、これからカーシェアなどのサービスを使うというユーザーが多いと思われるので、1種類のサービスだけではなく、レンタカーを含めてバリエーションを揃えたということです。
---:その時にドコモさんが持っているコンタクトポイントや、安心・安全の技術が活かせるということですね。
小笠原:そうですね。それからもう一つあるとすれば、dマーケットのなかには音楽や映像コンテンツもあるので、車で移動中に何をするかということが今後新たなビジネスになれば、その強みを生かせるかなと思います。運転中に使いやすい『しゃべってコンシェル』(ドコモの対話型AIエージェント)も続々進化させていますので、将来的には活用したいですね。
dカーシェアならではのユーザーメリットは
---:dカーシェアならではのユーザーメリットはどういう点でしょうか。
小笠原:まず、dアカウントというドコモの共通アカウントで使えますので、利用登録が簡単で、気軽に使っていただける点です。
---:ドコモの回線契約者でなくても使えるんですか?
小笠原:dアカウントはどなたでも登録可能です。回線契約をいただいている方は、ケータイ料金と合算支払いができますし、そうでない場合はクレジットカードを登録すれば大丈夫です。
---:そうすると、ユーザーの利用シーンに応じて、今日はレンタカー、今日は個人間カーシェアで、というようなことがdアカウントひとつでできる、ということですか。
小笠原:そうです。レンタカーであれば一泊二泊の旅行や旅行先で借りるシーン、時間貸しのカーシェアは、ちょっとした送り迎えや買い物のようなシーンですね。いっぽう個人間のカーシェアは、高級車に乗りたいとか、オーナーさんとのコミュニケーションを楽しむといった、安さだけではない、ほかの二つとは少し違うサービスかなと思っています。
複数のカーシェアサービスをdアカウントひとつで
---:時間貸しカーシェアについては、当初はオリックスカーシェアが利用可能で、今後は他の事業者が参加予定とのことですね。
小笠原:来年度の上期を目標に、三井不動産リアルティのカレコカーシェアリングクラブと、名鉄協商のカリテコに合流いただけるよう協議を進めています。
---:2社とも大手ですね。合流したらタイムズを上回るのですか?
小笠原:車の台数で言えば、タイムズさんは6割以上のシェアをおそらくお持ちですので、上回るところまではいきません。
---:オリックスカーシェア、カレコ、カリテコには、それぞれに登録するのではなく、dアカウントひとつでそのまま利用できるのですか?
小笠原:はい。一度登録すれば、すべてのサービスを地図から検索できるイメージです。
---:料金体系はいかがでしょうか。月額の基本料金が設定されるのでしょうか。
小笠原:月額料金は無料です。それも強みだと考えています。時間貸しのカーシェアはおおむね月1000円前後の月額料金が設定されいていますが、そこを我々は無料とし、初めての方や、月額を払ってまでは使わないというお客さまに使っていただきたいと考えています。
---:なるほど。そうすると時間単価はその分高いんですか?
小笠原:はい。単価は少し高い設定になっています。普通は15分220円前後ですが、dカーシェアはそこからプラス10円から20円になります。
---:それくらいであれば、心理的には使いやすいですね。
小笠原:そうですね。ただ、単にdカーシェアの方が良いと言うことではありません。やっぱり少し利用料が高いので、自宅の目の前に違うカーシェアサービスがあれば、まずはdカーシェアで便利さをわかっていただいて、その後にそちらのサービスを使うということでも良いかもしれないと思っています。
一方、出張で使いたいとか、たまにはデート用に良い車を使いたいなど、使い分けを意識される方はdカーシェアを使っていただく、という住み分けを考えています。これからもパートナー企業を増やしていきたいと考えていますが、うまく住み分けて、Win-Winの関係が築けるということを大前提にしています。
---:タイムズと合流することは今のところは無いんですか?
小笠原:カレコとカリテコ以外との交渉状況は控えますが、戦うというよりは、一緒に組んで新たな市場の拡大や、お互いにWin-Winの関係が築ければと思っています。
---:一緒に市場を大きくしていきたいということですね。カレコとオリックスカーシェアは業界2位と3位なので、近くにあれば使いやすいサービスですね。
小笠原:そうですね。自宅の近くにあるのはタイムズ、という方が多いのは事実ですが、それ以外の3割から4割の方は使っていただく価値はあると思います。
---:月額1000円の費用はドコモの方で吸収してもビジネスは成り立つ計算なんですか?
小笠原:パートナー企業各社とレベニューシェアで、お互いに同じくらい儲かる形を目指しています。薄利で良いとは思っていませんが、パートナーの方の利益を余分にいただいてまで、とは思っていません。
それよりもお客さまを増やしたいと思っています。カーシェアは一度使うと便利だということが分かって、リピーターになる率がすごく高いんです。なので、まずは一度使っていただくお客様をどれだけ作れるか、ということで貢献したいですね。
---:カーシェア事業者はドコモを利用してお客さまを集めて、ドコモとしてもそこでビジネスをするという図式ですね。
小笠原:そうですね。パートナー企業から見れば、もともと持っているお客さまからの収入にプラスして、ドコモが持ってくるお客さまが上乗せになるという形を狙っています。
エニカとの違い
---:個人間カーシェアではエニカが先行していますが、エニカとの違い、あるいはエニカをどうキャッチアップしていきますか。
小笠原:エニカは、個人間カーシェアが浸透していない中で、パイオニアとしてスタートし、順調に伸びている。地道な説明会や、オフ会、キャンペーンなどの活動の成果だと思います。一朝一夕では追いつけませんので、我々もいろいろ手を打っていきたいと思っています。
我々としては、これからカーシェアリングを使う方、興味がある方に対して、dアカウントの登録だけで様々なシェアリングサービスを使えるという点が、一番の戦えるポイントになると思っています。まずはシェアリングの文化を広げつつ、ラインナップで戦っていくということになります。
<情報はレスポンス(Response)掲載時(2017/11/14)のまま>