コネクテッドカーや自動運転、モビリティに関する世界的なリサーチを手掛ける米国の調査会社ストラテジーアナリティクスは11月8日、「激変する自動車業界の展望」と題したセミナーを東京都内のロイヤルパークホテルで開催した。主に日本国内の顧客向けのセミナーだが、今回は複数のメディア関係者も招き、システム領域別の分析からユーザーリサーチ成果の紹介など幅広い内容を同時通訳を交えて公開した。
Date:2019/11/15
Text:ReVision Auto&Mobility 友成 匡秀
最初に講演した自動車市場調査部門バイスプレジデントのイアン・リッチズ氏は、世界の自動車業界における概況を紹介。短期的な生産・販売における見通しについては不透明か弱含みで、「自動車業界は現在、大変厳しい時期にある」と述べた。
しかし、一方で業界の経済的なファンダメンタルズは安定しており、特にシステム領域として、HEV/EV(電動化)やADAS(先進運転支援システム)に関しては大きな伸びが見込めると説明した。
電動化に関しては、EVバッテリーパックの大型化やマイルド・ハイブリッド市場の成長のほか、パワー半導体が2026年までに5割以上の伸びを見せると予測。ADASに関しては世界的な需要が26年までに640億ドル(約6兆9400億円)に上るとし、なかでもAEB(衝突被害軽減ブレーキ)が重要な技術要素となると分析した。
消費者は、よりコネクティビティを重視
続いて、「消費者行動とUXトレンド」について講演したUX調査部門バイスプレジデントのケビン・ノーラン氏は、世界のドライバー5000人に聞き取りを行った結果などを基に、様々なデータや独自分析を紹介。そのうち車の中のコネクティビティに関する調査データに基づいて、「2014年頃には車を購入する上でコネクティビティはそれほど重視されてはいなかったが、最近の調査では車が“つながる”ことを購入時に重要と捉える消費者が増えている」と述べた。
また車載インターフェースとして、アップルの「CarPlay」やグーグルの「Android Auto」を使用したドライバーの満足感が高いことも紹介した上で、自動車メーカーの車載組み込みシステムには、さらなる向上が求められると指摘。そのうち特にHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の重要点として、音声認識、タッチスクリーン、ADAS使用時の車両の状態をより明瞭にする点などをポイントとして挙げた。
中国では独自のエコシステムが形成
国別の市場に特化した調査としては、中国市場部門ディレクターのケビン・リー氏が、中国国内のトレンドに焦点を当てて解説。目立った傾向として、2017年に販売された新車のうち23.5%の車がコネクテッドカーであったのに対し、2025年にはこの割合が86.7%に高まるとの予測を紹介した。また、サプライヤーも含めたエコシステムでは、OEM、Tier1、SOCベンダーの垂直型モデルから、OEMを軸としながらTier1やSOCベンダー、インターネット企業が複雑に連携する水平型モデルへ移行していると説明した。
また従来にはなかった、よりOEMに近いECARX(億咖通科技)のようなTier 0.5サプライヤーや、次世代通信企画5Gや人工知能(AI)など新技術を提供しミドル・プラットフォームを担う華為技術(ファーウェイ)のようなインクリメンタル・サプライヤーも存在することも紹介した上で、「ファーウェイなどはTier1サプライヤーと競合しない立場と自らを位置づけているが、競合する領域は増えてくるだろう」と予測した。
「OEMはMaaSプラットフォーマーになれる可能性も」
世界的なモビリティの現状については、自動車市場部門コネクティビティ・ディレクターのロジャー・ラントー氏が解説。まず、カーシェアリングに関して、中国のGofun出行や日本のタイムズ24を挙げ、アジアが世界をリードしていると紹介。世界で25万台が使われ、3300万人が利用し、約40億ドル(4300億円)の収益を上げているとする集計データを紹介した。
ただ、カーシェアリングのいくつかの企業では利益を上げるビジネスモデルとなっている一方で、全7兆ドル(約760兆円)の移動ビジネスのうちのごく一部であると指摘。より大きな変革モデルとして、ウーバーテクノロジーズや滴滴出行(DiDi)などのライドヘイリングがあるものの、まだ利益を出せる構造にはなっていないことが課題であると説明した。
さらに、Eスクーターの浸透力にも触れつつ、これからの移動ビジネスにおいて決済も含めたMaaS構築の重要性を強調。スイカやパスモなど鉄道カードが浸透している日本には利点もあると述べ、「自動車メーカーはMaaSでニュートラル・サード・パーティとしてプラットフォーマーになれる可能性があるが、アマゾンやグーグル他のテクノロジー系企業は強大なライバルとなる」とも予測した。
最後に再登壇したリッチズ氏は、自動運転について掘り下げた分析を紹介し、レベル2や付随する機能を持つ自動運転(先進運転支援)、使途や場所を限定されたレベル4かそれ以上の自動運転に大きく領域を2つに分け、それぞれの市場伸長の予測を語った。
ストラテジーアナリティクスは今後も定期的に日本でセミナーを開催する予定。
◆ストラテジーアナリティクス オートモーティブ部門のウェブサイト(英語)はこちらから