リモートソフトウェアアップデートの概念は目新しいものではないが、自動車業界においても同技術の採用が拡大しており、自動車メーカーは車両およびユーザー双方をサポートする設計、開発を行う必要があるという、重大なパラダイムシフトが起こっている。
2020/5/13
※このレポートはSBDより提供いただき掲載しています
これまで(中には100年以上にわたり)明確に規定された製品設計・製造プロセスに従ってきた企業にとっては、このパラダイムシフトは経営方針や、プロセス、基準に破壊的な影響を及ぼすものとなるだろう。
自動車技術調査・コンサルティング会社のSBD Automotive(本社: 英ミルトンキーンズ)では、OTA(Over-The-Air)アップデートが自動車業界に及ぼす影響とそれによる今後の展望についての調査を実施している。ここではOTAソフトウェアアップデートが自動車技術プラットフォームの中心となった場合の自動車メーカー各社にとっての主な課題について考察する。
コネクティビティのコスト
GM、現代、トヨタといった大手量産車メーカーにとって大きな課題となるのが、ソフトウェアアップデートに関連するコストの管理である。特に、グローバルで何百万台もの車両にアップデートをダウンロードする場合、データは膨大となる。
総合的なコネクティビティ戦略策定にあたり、いくつかの重要なポイントを下記に紹介する。
- ユーザーに車両と家庭のWi-Fiネットワークとのペアリングを促しオフロードする
- ソフトウェアアップデートを活用し、ユーザーのサブスク契約あるいはより高額な有料コネクティビティサービス契約を促すような、価値あるコネクテッドエクスペリエンスを実現させる
- ファイル圧縮およびビットディファレンシングのスマートテクノロジーを統合し、ソフトウェアアップデートの容量を低減させる
Teslaは革新的かつ積極的なアプローチで車両にOTAを採用しているが、ソフトウェアアップデートの適用および認証に関する業界共通の法規制はいまだ存在しておらず、法整備の必要性が浮かび上がっている。Teslaのソフトウェアアップデートでは、オートパイロットやブレーキ性能、安全性機能などが、従来の型式認証後にアップデートされることになる。こうした安全性に関連する重要な機能のOTAを介した追加を、規制当局が確認および認証するための新たな枠組みが必要となる。
この分野におけるグローバルな活動はUNECE WP29運輸委員会を通じて管理されている。同委員会はグローバルな型式認証基準の策定を担っており、加盟国はこれに則り自国で販売される車両を特定の安全性基準に準拠させる。
同委員会は、2020年後半にソフトウェアアップデートのバージョンやリリースに関連する基準を採用するとみられており、必要に応じ準拠を検証するための主要なソフトウェアアップデート向けの追加型式認証の義務化や、ソフトウェアアップデート操作スタック中の十分な監視・監査ツールの設定なども含まれるとみられている。
日本はこうした型式認証制度の策定や改訂を他市場に先んじて進めており、新たな基準を最も早く批准する国の一つとなることが予想される。
包括的なサイバーセキュリティ管理フレームワークの構築
ソフトウェアアップデートはコネクテッドサイバーセキュリティ戦略の根幹的な構成要素となるが、同時にアタッカーの攻撃ベクトルとなり得る。デジタル署名やクライアント証明書、トランスポート層セキュリティ(TLS)などのベーシックなセキュリティがセキュリティソリューションの基盤となるが、車両のあらゆる要素に影響するソフトウェアアップデートにはより広範なアプローチが求められる。
自動車ソフトウェアアップデートに関して現在進められている最も広範なサイバーセキュリティの取り組みは、アライアンス主導でサイバーセキュリティのパターンおよび一連の要件を設定し、潜在的なアタッカーに対する多層防御を提供するUptaneである。
自動車メーカー各社はOTAアップデートに対応する広範な製品戦略の立案やサポートにあたって、手続き、技術、組織面において様々な課題に直面することになる一方、技術の実装に必要なツール、プロセス、フレームワークは世界各国で入手可能な状況にある。こうした各種業界のステークホルダーとの連携により開発されたイニシアチブを活用することで、OTAアップデートに関するベストプラクティスに基づくアプローチを実行し、リスクを低減しながらもテクノロジーの量産化を進めることが可能となる。
SBDについて
英国を本拠とする自動車技術の調査・コンサルティング会社。1995年の創業以来、日本、欧州(英国とドイツ)、米国、中国の拠点から自動車業界に携わるクライアントをグローバルにサポートしている。クライアントは自動車メーカー、サプライヤー、保険業界、通信業界、政府・公的機関、研究機関など自動車業界のバリューチェーン全体にわたる。調査対象エリアは、欧州、北米、中国、ブラジル、インド、ロシア、東南アジアなど世界各国の市場を網羅。自動車セキュリティおよびIT、コネクテッドカー、自動運転などの分野において調査を実施、各種レポートやコンサルティングサービスを提供する。>>ウェブサイト