長年にわたってIT専門家の立場から車載データを扱う仕組みづくりに携わってきた内田直之氏(日本オラクル クラウドソリューション営業統括Digital Transformation推進室担当シニアディレクター)。7月5日のウェビナーを前に、5月の講演やその後のインタビューから内田氏の考える課題やクルマの将来像を探ってみたい。
Date:2018/07/01
Text:友成匡秀
Photo:フォトグラファー 早川マナ
車のデータ活用例
5月31日のReVision Mobilityセミナー&交流会の講演で、最初に内田氏が提示したのは車のパワートレインに絡まない、「クラスA」と呼ばれるCANデータを活用した複数の事例だった。一つ目の例として挙げたのは、大小の円が描かれた地図。車のワイパーの回転数と台数をかけたデータを地図上に表示したもので、どの地域で雨がどれほど降っているかを示す。
「日本ではアメダスがあるのでこのようなデータ分析は必要ないかもしれないが、中国や東南アジアなどでは有効」という。
また、カーシェアリングやレンタカーなどで使われる車が地図上のどの場所で長く停車したかを分析した結果も図示。この分析結果からは、季節ごとにどの地域が人気のスポットか、またどこに車を駐車できる場所があるのか、など、さまざまなことが分かる。結果は、市役所の職員らが駐車可能な場所の把握などに実験的に使われているという。
内田氏は、「車のデータでも競争領域ではない部分や、ある程度、コモディティー化したデータは加工した上で、外に提供していけばよいのではないか」と話す。
ブロックチェーンを使う
今後、データを共有するための仕組みとして活用できるのがブロックチェーンだと、内田氏は考えている。各社の持つ既存の仕組みを活用するという形を取れば、サービスを提供する主体のテレマティクスシステム同士をつなぎ、共有可能なデータをブロックとしてシェアしていく形になる。
「自動車メーカーや、ティアワンのサプライヤーなどが相談し、どんどんデータを共有していけば、今後の自動運転の研究開発のためのデータ量向上にもつながるのではないか」
また、「プローブデータも含めて車のデータはドライバー個人の持ち物」という考え方に基づき、将来のイメージ図も紹介。個々のブロックをドライバー単位で管理していけばよい、というアイデアで、こうしたブロックチェーンの仕組みはデータセキュリティの観点からも有効だ。
しかし、たとえば、車の横滑りを防止するためのスタビライジングのデータ一つでも、メーカーごとに仕様が異なり、今は連続したブロックとして扱えない状態。それらをどう標準化していくかはこれからの課題となる。これからのブロックチェーンのマイニングモデルに関しては、「国内の自動車産業の企業が集まり、仕組みを作っていく取り組みが必要」と内田氏はいう。
画像データをクラウドに
自動運転システムの開発に関しては、データを収集し学習させる段階が続いている。内田氏は、こうした段階が今後10年くらい続くとみている。
レーダーやLiDARなどのセンサーが収集するデータ量はますます膨れ上がっていく。なかでも特にデータ容量が大きくなるのが画像データだが、画像データは必須だという。「機械学習などでも、実際に(人が)画像を見ないとレビューできないことが多い。レベル5の自動運転が実現すれば必要ないかもしれないが、そこまではどうしても画像は欲しい」
その際に問題となるのが、どのようにして大容量の画像データを車載の通信モジュールからクラウドに上げるか、どの程度の量を上げるべきか、という点。内田氏によると、画像をスライスし、ベクトル化や2Dテクスチャー化といったさまざまな技術を使うことで、ドライブレコーダーと同じレベルの30fps(frames per second=フレーム毎秒)の画像を、6分の1ほどの容量でアウトプットできるという。
「これからのモビリティの発展に、車の内側にもIT専門家とかアプリケーション開発技術者の知恵を注ぎ込むことが特に重要になってくるのでは」と話す。
内田氏は7月5日のウェビナーにも講師として登場する。「皆さんがどんなデータを重要と考え、必要としているのか。画像データなのか、位置データなのか、車自体のビヘイビアや、ドライバーの生体データなのか。視聴者の方々の意見をぜひ伺いたい」と話している。
◆内田氏が出演予定の「ReVision Premium Club 第6回ウェビナー」は7月5日開催予定です。